早いもので、布美枝の(だらず)父が嵐のように上京してから丸二週間が過ぎてしまいました。第9週の感想を先に書いてしまいましたが(放送は11週目に入った)、8週目の感想を書きます。
月曜日、電報にあわてふためく彼女の姿から、予告編を見た視聴者は「おおっ、親父さんが来るのだな」と思ったはずですが、現れたのは幼馴染のチヨ子さん。肩透かしが見事に決まりました。
見栄を張って彼女にお土産まで持たせてしまった布美枝さん・・・相手も同じように見栄を張っていた可能性もありますが、今の暮らしぶりではそこまで頭が回らないでしょうね。ニワトリさんもかなり見栄っ張りなので、彼女の気持ちがよくわかります。別れた後の落ちこみといったら、正にこのとおり「最悪」です。働けど働けど暮らしは楽にならず、貸本業界を巡る状況はいよいよ悪くなるばかり・・・せつないですよね。
前座の後は本命の登場です。「見送ってもくれんのか!」のひと言で、ますますこの人のファンになってしまいました。源兵衛さんは馬鹿ではないから、二人が苦労していることはもとより承知だったと思います。実家の蜂蜜を何瓶もカバンに忍ばせていたところに、それがよく現れていました。でも、その父にしても、娘夫婦がこれだけ苦しい生活をしているとは思いもよらなかったでしょう。二人の窮状を知った源兵衛さんが「母さんには内緒だぞ」「口紅でも買いなさい」と、顔も見ずに娘に現金を手渡す場面にほろりとさせられました(実家で報告を待つだけの母がこのことを知れば、「自分ばかりいい格好して!」と怒るかも・・・)。
さらに、ちょっとした誤解から婿殿(じゃないけど)に雷を落とした父に対して、布美枝が茂の漫画にかける情熱を力説する場面もなかなか迫力がありました。言い放つ娘を見て、逆に安心感を覚えた源兵衛さんの表情が何ともいえず感動的でした。この先何度、二人に泣かされる?
第8週では、貸本屋「こみち書房」の美智子さんの秘話が明かされます。「心配させてよ」のくだりはとても感動的なのですが、それ以前にニワトリさんは、美智子さんが息子同然に思っていた太一君に対して、布美枝さんに「冷たいのかしら?」と言われてしまった茂以上に冷たい目線で見ていたので(ひと言でいえば、「あまったれんじゃないよ!」)、どちらかというと傍観者の立場でこの場面を迎えていました。
人のニワトリさんはさておき、「冷たい」と言われてしまった茂さんを弁護すると、「知らんふりをしていればいい」というのは「優しさ」だし、「気に病んでも、どうにもならんよ」というのは(冷たいようだけど)時間が解決するしかないという「真実」を言い当てていると思います。この件に関しては、事情を知り得ない茂(でも感づいていましたね)や太一にしてみれば、美智子さんの方が余計なお節介をしているわけだから、「スネオ」と化した太一がそれを煩わしく思う気持ちもよくわかります。
「朝ドラ」特有のおせっかいは、ヒロインを際立せるためにしばしば焼かれるものなのですが、『ゲゲゲの女房』(と『芋たこなんきん」)に限っては、ヒロインのひと言や奔走が必ずしも功を奏せず、この場合も、中心人物はヒロインではなく、美智子さんの告白に誰もが胸を打たれると同時にバツの悪い思いをし(=どう答えたらいいのかわからず、誰もが沈黙した)、茂のひと言(「サイン会を続けましょう」)を契機に重さが取り除かれていったところが非常に良かったと思います。
「冷たさ」について、もう一つ補足します。水木さんが、「私、戦後二十年ぐらいは他人に同情しなかったんですよ。戦争で死んだ人間が一番かわいそうだと思っていましたからね」と語っていることをご存知でしょうか?
また、最後の戦記漫画となった(NHKでドラマ化された)『総員玉砕せよ!』の新装文庫版のあとがきで、こう語っています。
「死人に口はない。ぼくは戦記物をかくとわけのわからない怒りがこみ上げてきて仕方がない。多分戦死者の霊がそうさせるのではないかと思う」
『ゲゲゲの女房』だと、身辺を探りに来た刑事の一人に「戦記漫画」を侮蔑されて、怒りに身を震わせた茂の姿を思い出しました。
第8週の茂さんは、こんな名台詞も口にしましたね。
「生活が貧乏なのは仕方がないが、人間が貧乏になってはいかん」
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