『ゲゲゲの女房』 ~吹石&宮藤に乾杯!

2010-11-28 09:51:51 | 映画&ドラマ

映画の中では殆ど笑顔を見せない布枝さんですが・・・


 映画『ゲゲゲの女房』を観てきました。ひと言でいえば、見合いからわずか5日間で一緒になった二人が夫婦になるまでの物語です。最初のうちは目も合わせられなかった二人が「おとうちゃん、おかあちゃん」と呼び合うまでを、映画ならではの手法で描いていきます。だから、漫画家として成功するかしないかは、この際どうでもいい問題なのです(誰もが知っていることですし)。

「誰も妖怪に見向きもしないなら、おらぁ妖怪と心中するけん」と言った夫と共に歩んだ道。そこには色々な葛藤もあったでしょうが、説明的な心理描写を一切せず、映画を見ている者に託した潔さ(それで興行的に失敗しても)が素敵です。限られた上映時間の中で余分なものを取り除きながらも、「見えんけどおる」ものを信じてきた茂の言うなれば柱の部分と、その後の人生観の核となった戦争体験をきちんと抑えています。
 表現の仕方に違和感を覚えた人もいるかもしれませんが、妖怪の描写にしても、今現在の風景が出てくることにしても、意図的に行われていることなので、鬼の首を取ったような批判をするより、なぜそのような表現をしたのかを考えた方がいいでしょう。
 二人が暮らした当時の家を床の光り方まで忠実に再現し、布枝が渡るあの魅力的な橋を見つけてきたのに、なぜ今現在改修中の東京駅や調布駅前が出てくるのか? 布枝が思い出しているだけなのに、なぜイカル(南果歩さん、ナイスです)が生霊のようにつきまとって小言を言うのか? (予算がなかったのが一番の原因かもしれないけれど)茂がニューブリテン島で負傷する際の回想シーンがなぜあのような形になったのか? などなど面白いことが幾つも出てきます。




 全体的に、全身が映る「引き」の絵が多く、殆どのシーンが「ワンシーン・ワンカット」で撮られている点も、映画ファンにはたまりません。演じる俳優からも臨場感と緊張感が伝わってきます。小津を思わせるローアングル(何と足の裏まで!)と、突き放したように客観的な俯瞰撮影にも目を見張りました。
 監督の鈴木卓爾さんは、本作品が『私は猫ストーカー』に次ぐ第二作目なのですが、すでに自分のスタイルが出来上がっているのでしょう。撮影のたむらまさきさん、アニメーションの大山慶さん、今回も素晴らしい仕事をした音響の菊池信之さん、音楽の鈴木慶一さん(ご存知「ムーンライダーズ」の慶一さんだけど、貸し本屋の主人としても出演。「水木漫画は暗いんだよ」と言って、むきになる布枝とやり合う)など、「鈴木組」が形成されていて、これからどんな作風になっていくのか、次作が大いに気になります。
 俳優たちも、ぬらりひょんを演じた徳井優さん(テレビでは質屋さんでした。気づきました?)、長女を演じた坂井真紀さん、貸し本出版社の諏訪太郎さん(『私は猫ストーカー』でも印象的でした)、売れない漫画家の宮崎将&村上淳さんなど、個性的な人々が本作品でも支柱になっていて(南果歩さんにも「鈴木組」の一員になってもらいたいな)、その面でもこの先が楽しみです。そうそう、キャスティングのかぶりだと、菅ちゃんの意外な?出演に熱心なファンがときめいているようですが、テレビでは布美枝の親友役を演じていた飯塚只子さんも布枝の義妹役で出演していて、なかなかいい感じでしたよ~♪

 この作品を全く条件の異なるテレビドラマと比べるのはナンセンスなのに、世間一般の評判は散々たるもので、インターネットの悪しき口コミも手伝って?興行成績は低迷しているようです。私が観た回も、金曜日の夕方と映画を見る気になりにくい時間帯でしたが、20名にも満たないほどでした。布枝を演じた吹石一恵さんも、茂を演じた宮藤官九朗さんも、本当に素晴らしかったので、一人でも多くの人に見てもらいたいと思います。総じて傑作と呼ばれるものは、同時代には受け入れられないものですが、三十年後に古典となる前に、映画の今を生きましょう!


吹石さん、いい女優さんになりました。君の瞳に乾杯!

 映画『ゲゲゲの女房』の公式HPは、 → ここをクリック


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