漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

古今和歌集 0548

2021-04-30 19:56:09 | 古今和歌集

あきのたの ほのうえをてらす いなづまの ひかりのまにも われやわするる

秋の田の 穂の上をてらす いなづまの 光のまにも 我や忘るる

 

よみ人知らず

 

 秋の田の稲穂の上で稲妻が光るほんの一瞬の間といえども、私があの人のことをわすれることなどがあろうか。

 稲妻の閃光の一瞬の間も愛しい人のことを忘れることなど考えられないという、激しい恋情です。


 4月も今日で終わり。早いもので令和の時代になって丸2年、令和元年の10月31日に始めた一日一首の古今和歌集もちょうど1年半になりました。まだまだ先は長いですが、引き続きおつきあいいただければ嬉しいです。

 

 


古今和歌集 0547

2021-04-29 19:55:57 | 古今和歌集

あきのたの ほにこそひとを こひざらめ などかこころに わすれしもせむ

秋の田の 穂にこそ人を 恋ひざらめ などか心に 忘れしもせむ

 

よみ人知らず

 

 秋の田の穂のように表に表して人を恋慕うことはないけれど、どうして心の中でまであなたを忘れるようなことがあるだろうか。

 傍からはそうとはわからないように思いを秘めてはいるが、心の中でまでわすれてしまうようなことは決してないという詠歌。人から見てもはっきりとそうわかるさまを「秋の田の穂」で喩えています。


古今和歌集 0546

2021-04-28 19:05:19 | 古今和歌集

いつとても こひしからずは あらねども あきのゆふべは あやしかりけり

いつとても 恋しからずは あらねども 秋の夕べは あやしかりけり

 

よみ人知らず

 

 いつのときも恋しい思いがしないということはないけれども、秋の夕暮れは一層恋しい思いが募ることよ。

 秋の夕暮れが人を物寂しい思いにさせるのは今も昔も変わらないようです。恋情を抱いている身であればそれもなお一層のことでしょう。

 


古今和歌集 0545

2021-04-27 19:23:32 | 古今和歌集

ゆふされば いとどひがたき わがそでに あきのつゆさへ おきそはりつつ

夕されば いとど干がたき わが袖に 秋の露さへ 置きそはりつつ

 

よみ人知らず

 

 夕方になると恋しさが募り、涙に濡れて乾きがたくなる袖に、秋の露までもが置き加わってくることよ。

 袖の乾く間もないほど恋しさに涙しているところに、秋露までもが加わって袖を濡らすという、なんとも切ない歌ですね。「夕されば」は夕方になるとの意で、同じ句で始まる百人一首の歌(第71番)が思い出されます。

 

ゆふされば かどたのいなば おとづれて あしのまろやに あきかぜぞふく

夕されば 門田の稲葉 おとづれて 芦のまろやに 秋風ぞ吹く

 

大納言経信

(金葉集 巻第三「秋」 第173番)


古今和歌集 0544

2021-04-26 19:23:20 | 古今和歌集

なつむしの みをいたづらに なすことも ひとつおもひに よりてなりけり

夏虫の 身をいたづらに なすことも 一つ思ひに よりてなりけり

 

よみ人知らず

 

 夏虫が火に飛び込んで身を焼いてしまうのも、私と同じように思いの火によってなのであるよ。

 さっと一読して強い思いに身を滅ぼすわが身を詠んだことはわかりますが、よくよく読むとそれと同じだという虫の方は、自ら火に飛び込むさまを言っているのですね。なかなか難解ですが、「一つ」は自分と同じの意で、「思ひ」の「ひ」は「火」との掛詞にもなっています。