漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

古今和歌集 0367

2020-10-31 19:27:50 | 古今和歌集

かぎりなき くもゐのよそに わかるとも ひとをこころに おくらさむやは

限りなき 雲居のよそに わかるとも 人を心に おくらさむやは

 

よみ人知らず

 

 私が雲のかかるような限りなく遠い場所に行ったとしても、心まであなたを置いて離れてしまうことがありましょうか。

 一つ前の 0366 は旅立ちを見送る側の詠み手の歌でしたが、こちらは旅立つ側が別れを惜しむ歌。どちらにしても、別れは名残惜しく寂しいものですね。

 

 さて今日は10月31日。ちょうど一年前の今日、「古今和歌集 0001」と題して、一日一首の古今和歌集の記事を始めました。ここまで一年間、何とか欠かさずに書き続けてこられました。素人のつたない記事を読んでくださる皆さまにあらためて御礼申し上げます。誠にありがとうございます。 m(_ _)m

 古今集 1,100 首全体からすれば道半ばどころか、ようやく三分の一ほど。まだまだ先は長いですが、続けていければと思います。気の向かれた際には、どうぞ引き続きお付き合いください。

 


古今和歌集 0366

2020-10-30 19:17:29 | 古今和歌集

すがるなく あきのはぎはら あさたちて たびゆくひとを いつとかまたむ

すがる鳴く 秋の萩原 朝たちて 旅行く人を いつとか待たむ

 

よみ人知らず

 

 じが蜂が鳴く秋の萩原を朝にたって旅に出る人を、いつ帰って来ると思って待てばよいのか。

 「すがる」はじが蜂の古名で、腹部がくびれていることから女性に喩えられます。愛しい女性の旅立ちに際し、名残を惜しむと同時に、帰って来る日を今から待ちわびる気持ちを詠んでいます。


古今和歌集 0365

2020-10-29 19:22:10 | 古今和歌集

たちわかれ いなばのやまの みねにおふる まつとしきかば いまかへりこむ

立ち別れ いなばの山の 峰に生ふる まつとし聞かば 今帰り来む



在原行平

 

 お別れをして私は因幡の国に去ってしまいますが、あちらの峰に生える松ではありませんが、あなたが私を待っていてくれると聞いたならば、すぐに帰ってきましょう。

 業平の兄行平が 、つとに有名な歌で 0023 以来久々に登場。因幡国に地方官として赴任するに際して、都の人々との別れを惜しんで詠んだこの歌は、百人一首第16番にも採録されています。

 この歌が古今和歌集巻八「離別歌」の巻頭。0405 まで41首の巻となります。引き続きおつきあいください。^^

 


古今和歌集 0364

2020-10-28 19:07:49 | 古今和歌集

みねたかき かすがのやまに いづるひは くもるときなく てらすべらなり

峰高き 春日の山に 出づる日は 曇る時なく 照らすべらなり


藤原因香

 

 峰の高い春日山に出た日は、曇る時もなく地上を照らし続けるでしょう。

 「出づる日」は誕生した皇子の比喩。詞書には「春宮の生まれたまへりける時に、参りてよめる」とあります。
 作者の藤原因香(ふじわら の よるか)は、0080 以来久々の登場。そこでは「藤原因香朝臣」とされれていた作者名が、ここでは「典侍(ないしのすけ)藤原因香朝臣」と書かれており、以降の歌でもこれが踏襲されます。典侍の職に就く前と後それぞれの時点での詠歌なのでしょう。

 

 この巻で唯一、誕生を祝うこの歌をもって巻七「賀歌」は完結。次の 0365 から巻八「離別歌」となります。

 


古今和歌集 0363

2020-10-27 19:34:02 | 古今和歌集

しらゆきの ふりしくときは みよしのの やましたかぜに はなぞちりける

白雪の 降りしくときは み吉野の 山下風に 花ぞ散りける

 

紀貫之

 

 白雪が降りしきる時には、吉野の山から吹き降ろす風に花が舞い散ることだ。

 一見すると「雪が降り花が散る」ということでどこにも「祝賀」の表現がないように見えますが、「花」は雪を花びらに見立てたもの。風に舞い散る雪を春たけなわの美しい花吹雪に見立てることで、一気に季節を厳しい冬から生命の息吹く春に飛び、穏やかに飛び舞う無数の花びらが主の長寿を寿いでいる情景を表現して見せたのでしょう。冬から春へ季節をつなぐことで、時の永続性を詠んだとの解説もありました。

 貫之らしい一首のように思えます。