漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

古今和歌集 0244

2020-06-30 19:19:32 | 古今和歌集

われのみや あはれとおもはむ きりぎりす なくゆふかげの やまとなでしこ

われのみや あはれと思はむ きりぎりす 鳴くゆふかげの やまとなでしこ

 

素性法師

 

 私だけがしみじみと心を惹かれるのだろうか。こおろぎが鳴く夕刻の陽に照らされて咲く大和撫子の姿に。

 すでに何度も出てきていますが、「きりぎりす」はこおろぎのこと。「やまとなでしこ」は現代では美しい日本女性を指して言うことが多いですが、もともとはもちろん植物の名で、カワラナデシコの別名。秋の七草のひとつですね。夕陽に映えて咲くナデシコの美しさを、自分ひとりで見ているのを惜しんでいて、つまりは愛しい人と一緒に見たい、ということでしょう。

 

 今日で6月も終わりですね。以前にも書いたかもしれませんが、今年はコロナ騒動で実生活にもいろいろな変化があるせいか、いつにも増して月日が経つのが早い気がします。昨年10月末日から始めた「一日一首の古今和歌集」も今日でちょうど8カ月。よく欠かさず続けて来られたなぁと思いますが、それでも古今集全体からすればまだようやく五分の一ほど。先は長いですが、気長に続けていきたいと思います。

 

 


古今和歌集 0243

2020-06-29 19:05:12 | 古今和歌集

あきののの くさのたもとか はなすすき ほにいでてまねく そでとみゆらむ

秋の野の 草のたもとか 花すすき ほに出でて招く 袖と見ゆらむ

 

在原棟梁

 

 花薄は、秋の野の草のたもとなのだろうか。穂がでて風に揺れているのが、手招きをする袖のように見えることだ。

 秋の野に生える草を着物に、穂がでて風になびく薄をその袂(たもと)に見立てています。作者の在原棟梁(ありわらのむねやな/むねはり)は業平の子。0015 以来久しぶりの登場ですが、次に出てくるのは 0902 。古今集冒頭から読み進むと、「忘れたころにやってくる歌人」という感じでしょうか。(なんて言ったら失礼ですね ^^;;)


古今和歌集 0242

2020-06-28 19:52:20 | 古今和歌集

いまよりは うゑてだにみじ はなすすき ほにいづるあきは わびしかりけり

今よりは 植ゑてだに見じ 花すすき ほに出づる秋は わびしかりけり

 

平貞文

 

 今からは、花薄を庭に植えてまで見ることはするまい。薄の穂が出る秋が一層わびしく思われるから。

 一読した際には、薄の穂が出ることがなぜ秋のわびしさを際立たせるのかわかりませんでしたが、「穂が出る」ことは、異性を愛しく思う恋心が自分の中で顔を出すことと通じ、秋という季節が薄の穂を出させると同時に心の奥底にある恋心を煽って表に出させる、それ故にわびしさがさらに募る、ということなのですね。和歌の世界はホントに難しくて奥深いです。

 


古今和歌集 0241

2020-06-27 19:22:09 | 古今和歌集

ぬししらぬ かこそにほへれ あきののに たがぬぎかけし ふぢばかまぞも

主しらぬ 香こそにほへれ 秋の野に 誰がぬぎかけし 藤袴ぞも

 

素性法師

 

 誰のものかわからない香りがただよっている。秋の野に、誰が脱いで置いて行った藤袴なのか。

 三首続いた藤袴歌の最後。その芳香と「袴」という名から、言葉遊び的に和歌に詠まれることが多いのでしょうか。ただこれらの歌が和歌として趣が深いのか、興趣溢れる良い歌なのかどうか、正直今の私には余りピンと来ていません。(苦笑)  まだまだ勉強不足ですね。 ^^;;

 


古今和歌集 0240

2020-06-26 19:13:59 | 古今和歌集

やどりせし ひとのかたみか ふぢばかま わすられがたき かににほひつつ

宿りせし 人の形見か 藤袴 忘られがたき 香ににほひつつ

 

紀貫之

 

 宿をとった人がのこしていったものだろうか、この藤袴は。忘れることのできない香りを今もただよわせていることよ。

 詞書に「藤袴をよみて、人につかはしける」とあり、この「歌を贈った人」が「宿りせし人」と同一人物と見るのが自然でしょうか。となると、家の庭に咲く藤袴の香りが、貫之の家に泊って行った人(もちろん異性でしょう)の残り香を思わせ、それが「忘れがたいのです」と切ない思いを伝えるラブレターということになるのでしょう。ただ、「女郎花」が女性を象徴するのに対して「藤袴」がその名から男性を象徴することを考えると、残り香が残した人物は男性であり、歌を贈ったのは女性ということになります。つまりこの歌は、土佐日記と同じく貫之が女性の立場から想像で詠んだ歌、ということになるのかもしれません。なかなかに難解です。 ^^;;