漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

貫之集 477

2024-08-05 04:20:59 | 貫之集

鹿の鳴ける

なくしかの こゑをとめつつ あきはぎの さけるをのへに われはきにけり

鳴く鹿の 声をとめつつ 秋萩の 咲ける尾上に われは来にけり

 

鹿が鳴く

鳴く鹿の声に誘われて、秋萩の咲く山の峰に来てしまったよ。

 

 「尾上(をのへ)」は「山の頂」「峰」の意。鹿と萩の取り合わせも定番ですね。


貫之集 476

2024-08-04 04:39:20 | 貫之集

初雁を聞ける

はつかりの こゑにつけてや ひさかたの そらのあきをも ひとのしるらむ

初雁の 声につけてや 久方の 空の秋をも 人の知るらむ

 

初雁の声を聞く

初雁の声が聞こえてくるにつけて、空が秋の気配を帯びてきたことを、人は知るのであるよ。

 

 「久方の」は「空」にかかる枕詞ですね。
 この歌は続古今和歌集(巻第五「秋下」 第459番)に入集しています。


貫之集 475

2024-08-03 05:19:40 | 貫之集

たなばた

たなばたの うきふしならで よをふるは としにひとたび あへばなりけり

たなばたの うきふしならで 世をふるは 年に一度 あえばなりけり

 

たなばた

七夕の織姫と彦星が仲たがいもせずに過ごしているのは、年に一度の逢瀬があるからであるよ。

 

 第二句「うきふし」は「憂き節」で辛く悲しいことの意。


貫之集 474

2024-08-02 05:12:30 | 貫之集

夏神楽

ゆくみづの うへにいはへる かはやしろ かはなみたかく あそぶなるかな

行く水の うへにいはえる 川社 川波高く 遊ぶなるかな

 

夏神楽

流れる川のほとりの川社では、川波が高く、また神楽の音も高く響いているよ。

 

 「川社」は、六月祓などに際して川のほとりに設けられる祠、またはそこで奏でられる神楽のこと。407 にも詠まれていましたね。


貫之集 473

2024-08-01 04:57:03 | 貫之集

人の木のもとに休める

かげふかき このしたかぜの ふきくれば なつのうちながら あきぞきにける

陰深き 木の下風の 吹きくれば 夏のうちながら 秋ぞきにける

 

人が木のしたで休んでいる

陰深く生い茂った木の下に風が吹いてくると、まだ夏のうちなのに秋がやってきたようであるよ。

 

 「木の下風」という語は万葉集、古今集、後撰集にはない一方で貫之集には複数見られ(150、794)、躬恒にも作例があることなどから、貫之と躬恒によって創作された歌語との説もあるようです。