漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

貫之集 106

2023-07-31 04:50:38 | 貫之集

池のほとりに藤の花咲きたるところ

みづにさへ はるやくるると たちかへり いけのふぢなみ をりつつぞみる

水にさへ 春や暮るると 立ちかへり 池の藤波 折りつつぞ見る

 

池のほとりに藤の花が咲いているところ

水の上にさえ春が暮れて行くのかと、あらためて池のほとりに咲く藤の花を、折りながら眺めるよ。

 

 藤は晩春を彩る花。それが水面に映る情景の屏風絵を、「水の上にまで春が暮れていく」と詠んだ歌人の機智ですね。


貫之集 105

2023-07-30 04:55:53 | 貫之集

延喜十八年四月、東宮の御屏風、八首

桜の花のもとに人々のゐたるところ

かつみつつ あかずとおもふに さくらばな ちりなむのちぞ かねてこひしき

かつみつつ あかずと思ふに さくらばな 散りなむのちぞ かねて恋ひしき

 

延喜十八年(918年)四月、皇太子殿下に奉呈した屏風歌八首

桜の花のもとに人々がいるところ

桜の花を見ながら、いつまでも飽きることがないと思っているけれども、散ったあとはどんなに桜を恋しく思うだろうか。

 

 「東宮」は第60代醍醐天皇の第二皇子保明親王のこと。わずか二歳で皇太子となりましたが、醍醐天皇より先に亡くなったため、即位することはありませんでした。


貫之集 104

2023-07-29 05:02:15 | 貫之集

十二月

このまより かぜにまかせて ふるゆきを はるくるまでは はなかとぞみる

木の間より 風にまかせて 降る雪を 春くるまでは 花かとぞ見る

 

十二月

木々の間から風が吹くのにまかせて降る雪を、春が来るまでは花かと思って見るのであるよ。

 

 降る雪を花に見立てて、春を待ちわびる思いを詠みあげていますね。貫之による類歌は、古今集 331 にも見えます。

 

ふゆごもり おもひかけぬを このまより はなとみるまで ゆきぞふりける

冬ごもり 思ひかけぬを 木の間より 花と見るまで 雪ぞ降りける

 


貫之集 103

2023-07-28 05:33:26 | 貫之集

十月

ながれくる もみぢばみれば からにしき たきのいとして おれるなりけり

流れくる もみぢ葉見れば 唐錦 滝の糸して 織れるなりけり

 

十月

滝に流れてくる紅葉の葉を見ると、まるで滝の糸で織った唐錦であるかのようだ。

 

 滝の流れを「糸」に、紅葉の葉を「錦」に見立てての詠歌ですね。


貫之集 102

2023-07-27 05:20:45 | 貫之集

九月

いづれをか はなとはわかむ ながつきの ありあけのつきに まがふしらぎく

いづれをか 花とはわかむ 長月の 有明の月に まがふ白菊

 

九月

どれを花と見分けようか。長月の有明の月の白い光に紛れている白菊を。

 

 白菊が月光に白く照らされている幻想的な風景。「有明の月」ですから、空もほんのり白んじ始めている時刻なのかもしれませんね。貫之には次のような類歌もあります。

 

つきかげも はなもひとつに みゆるよは いづれをわきて をらむとぞおもふ

月影も 花もひとつに 見ゆる夜は いづれをわきて 折らむとぞ思ふ

(古今和歌六帖 第六「草」 第3736番)