おなじ人の下るに、逢坂までおくらむとて兼通の大夫のこの料によませたる
いでてゆく みちとしれれど あふさかは かへらむときの なにこそありけれ
出でて行く 道と知れれど 逢坂は 帰らむときの 名にこそありけれ
同じ人が下るに際して、兼通大夫が逢坂の関まで見送るとして、そのために詠ませた歌
逢坂は都から出て行くための道筋にあるとは承知していますけれど、「逢坂」という名は、あなたさまがお帰りになるときにまたお逢いできるという意味なのですよ。
「兼通の大夫」は藤原兼通(ふじわら の かねみち)のこと。「同じ人」、すなわち藤原興方(ふじわら の おきかた)の甥にあたります。「逢坂」はその名から好んで歌に詠まれる歌枕ですね。