漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

貫之集 137

2023-08-31 05:44:46 | 貫之集

臨時の祭

やまゐもて すれるころもの あかひもの ながくぞわれは かみにつかへむ

山藍もて 摺れる衣の あかひもの 長くぞわれは 神に仕へむ

 

臨時の祭

山藍で摺った衣の赤紐のように、私は長く神にお仕えしよう。

 

 「臨時の祭」とは、賀茂神社で十一月に行われる臨時の祭事のこと。021 にも出てきましたね。「山藍」は青い染料で、神事に祭官などが着用する衣の模様を摺り出すのに使われるとのこと。具体的にはこんな色のようです。綺麗ですね ^^

 

 くわしく解説されたサイトがありましたので、ご紹介します。

「伝統色のいろは-Traditional colors of Japan-」

山藍摺のページはこちら

 

 


貫之集 136

2023-08-30 04:04:41 | 貫之集

道行く人のしぐれにあへる

みちすらに しぐれにあひぬ いとどしく ほしあへぬそでの ぬれにけるかな

道すらに しぐれにあひぬ いとどしく ほしあへぬ袖の ぬれにけるかな

 

道行く人がしぐれにあった

道までもが時雨にあって濡れている。まして涙の乾かない袖はいっそうしっとりと濡れてしまった。

 

 第三句の「いとどし」は「ますますはなはだしい」「いっそう~である」の意で、「ぬれにけるかな」に掛かかっています。


貫之集 135

2023-08-29 05:10:35 | 貫之集

九月菊見たる

あきごとに つゆはおけども きくのはな ひとのよはひは くれずぞありける

秋ごとに 露はおけども 菊の花 人のよはひは 暮れずぞありける

 

九月に菊を見る

秋になるごとに露は置くけれども、菊の花に露は、それを受けた人に長寿をもたらし、その人の年齢が暮れて晩年になるということはないのだ。

 

 菊に不老長寿の効用があるとされることをモチーフとした歌は 042 にもありましたね。^^

 


貫之集 134

2023-08-28 06:08:18 | 貫之集

尾花を見る

いつとても ひとやはかくす はなすすき などかあきしも ほにはいづらむ

いつとても 人やはかくす 花薄 などか秋しも ほには出づらむ

 

尾花を見る

人はいつであっても心を隠さないのに、花薄はなぜ秋になるとその心を表すかのように穂を出すのであろうか。

 

 言葉の上では「秋になると穂を出す」ですが、歌意としては「秋にならないと穂を出さない」ということでしょうか。自分はいつも思いを寄せているのに、意中の人はその時が来ない限り振り向いてくれない(そしてその時はなかなかやって来ない)、という含意のように思えます。


貫之集 133

2023-08-27 05:59:44 | 貫之集

空に鳴く鶴を聞ける

ちとせふと わがきくなへに あしたづの なきわたるなる こゑのはるけさ

千歳ふと わが聞くなへに 葦田鶴の 鳴きわたるなる 声のはるけさ

 

空に鳴く鶴の声を聞く

鶴は千年の時を経ると思い巡らしながら耳を澄ますと、ちょうど聞こえてきた鶴の滝渡る声の遠く遥かなことよ。

 

 第二句の「なへ」は「~するとともに」の意の接続助詞。「葦田鶴」は「鶴」の歌語ですね。