漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

28-3 に向けてスタート

2016-11-27 12:17:06 | 雑記



 本試験からほどない時期の個人的な恒例メニュー、「本試験問題全体の再解答」をしました。正解できるはずの問題をたくさん落としているなぁと改めて感じましたが、終わってしまったことなので、これからできることをやるだけですね。

 次回本試験まであとちょうど10週間。今日から再スタートです。



熟字訓は遊び心で

2016-11-26 20:01:48 | 熟字訓・当て字
 熟字訓に悩む1級チャレンジャーは結構多いのではないでしょうか。「悩む」と言っても、難しいからというより、本試験対策としてどこまでやるかという、取り組み方針についてですけれど。

 熟字訓の特性として、ごくごく一部の例外の語を除いては推定、想像などでの正解は難しく、「知っていれば正解できるし知らなければ誤答」、ということがあります。ということはとにかく暗記ということなのですが、どんなに一所懸命覚えても本試験での出題は10題、満点を取っても10点にしか過ぎません。その上、これまでは過去問からの出題も多く、過去問さえやっておけば少なくとも5点、多い回では8点程度の得点が期待できますから、得点戦略という観点に限って言えば、熟字訓は過去問+α程度にとどめ、他の設問対策に時間を割いた方が明らかに得策でしょう。


 ・・・などと書いておきながら、きょうは「そんなことは分かっているけど、熟字訓が好きでつい深入りしてしまう」という私のような方々(笑)のために、本試験の得点アップにはほとんど役に立たなそうな演習問題30問です。どうぞ。


<問題>

1.  【石花】
2.  【海布】

3.  【戦慄く】
4.  【落籍す】
5.  【見蕩れる】
6.  【流離う】
7.  【敏捷い】

8.  【冷笑う】
9.  【若気る】
10.  【響動めく】
11.  【弥立つ】
12.  【私語く】

13.  【其方退け】
14.  【忌忌しい】
15.  【刀背打ち】
16.  【勾引かす】
17.  【老成る】

18.  【乙張り】
19.  【揺蕩う】
20.  【心悲しい】
21.  【微睡む】
22.  【焦臭い】

23.  【目紛しい】
24.  【周章てる】
25.  【理無い】
26.  【素見す】

27.  【偽瓢虫】
28.  【十大功労】
29.  【白英】
30.  【看麦娘】



<解答>

1.  せ    (「漢検 漢字辞典」初版 P.866/第二版 P.874)
2.  め    (174/177)
 読みが仮名一文字という、印象的この上ない熟字訓。「せ」はカメノテ(岩礁海岸の固着動物)、「め」はワカメやアラメなど、食用にする海藻の総称。「せ」の方は、【石】 との表記もあり、「辞典」にも載っていますが、 【】 は漢検配当外です。

 ここからは、ここ数日興味津々の「送り仮名のある熟字訓」。
3.  わなな    (897/905)
4.  ひか    (1531/1547)
 「ひかす」とは、「芸者や遊女などの前借金を払ってやり、身請けする」こと。青空文庫で検索すると、吉川英治、永井荷風、国枝史郎、坂口安吾など、たくさんの用例が出てきます。
5.  みと    (416/419)
6.  さすら    (1550/1566)
7.  はしこ    (1303/1316)

8.  せせらわら    (1577/1593)
9.  にやけ    (660/666)
 「笑う」族の2語。どちらもとても印象的。
10.  どよ    (342/344)
11.  よだ    (1277/1496)
 「身の毛も弥立つ・・・」  最近初めてこう書くのだと知りました。
12.  ささや    (602/607)

13.  そっちの    (261/264)
14.  ゆゆ    (261/264)
 これが「ゆゆしい」で「いまいましい」は 【忌ま忌ましい】 と表記するのが正しい(「辞典」もそうなっています)のですが、一般には 【忌々しい】 で「いまいましい」と使われてますね。 
15.  みねう    (1125/1135)
16.  かどわ    (469/473)
17.  ませ    (1597/1613)

18.  めりは    (124/126)
19.  たゆと    (1514/1530)
20.  うらがな    (781/788)
 これ、「辞典」の初版では熟字訓扱いですが、第二版では 【心】 に「うら」との表外読みが認識されていて、そのため通常の読みの扱いに修正されています。第二版での修正、なかなかに肌理が細かい?(笑)
21.  まどろ    (1280/1292)
22.  きなくさ    (748/755)

23.  めまぐる    (1469/1484)
24.  あわ    (680/686)
25.  わりな    (1542/1558)
 私の語彙にはありませんでしたが、「わりない」とは「分別がない。どうしようもない。深い関係である。ねんごろなさま。」とのこと。
26.  ひやか    (914/922)


27.  てんとうむしだまし    (285/288)
28.  ひいらぎなんてん    (694/700)
29.  ひよどりじょうご    (1221/1238)
30.  すずめのてっぽう    (227/230)
 最後の4つは、仮名で8文字以上の熟字訓。意外に少ないですね。ちなみに地名だと 【費府(フィラデルフィア)】 とか 【君府(コンスタンチノープル)】(10文字!) とか、他にもいくつかあります。人名(?)で 【素戔嗚尊(すさのうのみこと)】なんてのも。
 これが7文字になると途端に数が増えて、「辞典」巻末索引だけでも30個くらいはあります。


 いかがだったでしょうか。個人的にはこんなものを抽出して眺めているとなかなかに楽しい時間を過ごせますが、冒頭に書きました通り本試験の得点戦略的にはあまり役に立ちませんので、「とにかく点を取れる勉強を!」という方は深入りなさいませんよう・・・(苦笑)



 は、島根県立大学e漢字  の漢字フォントを使用しました。



【漢字三千年展】 に行ってきました

2016-11-26 15:30:47 | 雑記
  

 先般このブログでも紹介しました、東京富士美術館の 【漢字三千年展】 に行ってきました。今日は土曜日で小中学生は無料、そして午後からは阿辻哲次先生の講演もあるとあってか、開館間もない時間に到着したのですが、すでにかなりの人でした。

 時間の都合で残念ながら先生の講演は聞けませんでしたが、コンパクトな規模でありながらなかなかに充実した展示。兵馬俑に刻まれた作成者を表す一文字などは、本当に歴史の重みを感じさせるもので、ひと際多くの皆さんの関心を集めているようでした。

 東京での会期は 12/4(日)まで。その後来年の夏まで順次京都、新潟、宮城、群馬をめぐるようですから、東京はもちろん、今後の開催地にお近くの方は、足を運ばれてはいかがでしょうか。


どよめく

2016-11-23 09:16:00 | 熟字訓・当て字
 最近(と言っても、ほんのここ数日のことですが)、送り仮名のある熟字訓になんとなく心惹かれて(笑)眺めています。例えば、

  【若気る】  にやけ・る
  【素見す】  ひやか・す
  【敏捷い】  はしこ・い
  【其方退け】 そっちの・け

などなどです。本試験の熟字訓の設問(現在は大問の(五)、以前は(六)ですね)でこうした問題が出題されたことはなく、覚えている限りでは、文章題の読みで唯一 【以為らく(おもえ・らく)】 が出されたことがある(17-3、21-2)程度ですから、本試験対策としては余り意味がないですが、結構魅力的な、印象に残る熟語が多いように感じます。



 さてそんな中で、きょうは 「どよめく」 という言葉の漢字表記について。

 ネットで検索すると、【響】 に 「どよめ・く」 の訓を認識しているケースがあります。goo辞書で出てきますので、デジタル大辞泉がこの読みを採用しているのですね。ただ、「漢検要覧」では 【響】 の訓は 「ひび・く」 しかなく、表外読みの欄にも何も記載がありません。当然、「漢検 漢字辞典」 も 「ひび・く」 のみです。手持ちの辞書を確認しましたが、「漢語林」 にも 「漢辞海」 にも、そして 「大漢和辞典」 にも 「どよめ・く」 との訓はありませんでした。 (もしこの字にこの訓があるのだとすると、 【響く】 と表記したら 「ひび・く」 なのか 「どよめ・く」 なのか区別がつかない(文脈で判断するしかない)ですね・・・)

 で、熟字訓です。
 「漢検 漢字辞典」 第二版では、【響動めく】 に 「どよ・めく」 の訓を認識しています。ところが念のために確認してみたところ、同じ 「漢検 漢字辞典」 でも初版での表記は 【響動く】 となっていて、送り仮名が異なっていることがわかりました。初版、第二版の両方で、 【響動む(どよ・む)】 が掲載されていることから推測するに、第二版では 【響動む】 との平仄を意識して 「どよめく」 を 【響動めく】 と修正したのでしょう。
 【響動く】 と 【響動めく】、どちらかが絶対的に正しいということはない(決められない)だろうと思いますが、単漢字の送り仮名のつけかたのルールに照らすと、なかなか興味深いです。

 単漢字の送り仮名は、「活用のある語は活用語尾を送る」のが原則(内閣告示「送り仮名の付け方」通則1)ですから、活用のある語である 「どよめく」 にこの原則を準用して漢字表記するなら、「響動く」が正しい表記でしょう。
 その一方、同じく送り仮名の付け方のルールでは、「活用語尾以外の部分に他の語を含む語は、含まれている語の送り仮名の付け方によって送る。」ともされています(通則2)。少し分かりづらいですが、例えば 「うごかす」 という語は、通則1を適用するなら 「動す」ですけれど、「うごかす」 には 「うごく」 という語が含まれており、これの他動詞形が 「うごかす」 なので、元の語である 「動く」 の送り仮名を踏襲して 「動かす」 と表記する、ということです。従って、もともと 「どよむ」 という動詞があって、「どよめく」 は 「どよむ」 を含んだ言葉としてある、と考えるなら、【響動めく】  が正しいということになります。

 ごちゃごちゃと書きましたが、まあ単純に言って漢字表記の 【響動】 の部分を、「どよむ」「どよめく」いずれの場合でも 「どよ」 と統一的に読ませるのか、「どよむ」 では「どよ(・む)」、「どよめく」 では 「どよめ(・く)」 と二通りに読ませるのかの違いということですね。「漢検 漢字辞典」は、初版では後者を採用していましたが、第二版では前者に改めたのでしょう。




 ・・・などということをつらつらと考え、楽しい時間を過ごせました。

 漢検本試験にはほとんど役に立たない記事で失礼しました。 m(_ _)m
 関東地方は、今夜から雪らしいです。




人生は儚(はかな)い?

2016-11-22 22:11:15 | 雑記
 カタカナの部分を漢字にしてください。

1. カンタン の夢
  カンタン の枕

2. ナンカ の夢

3. キンカ 一朝の夢

4. コウリョウ 一炊の夢

5. カイアン の夢

6. フユウ の一期

7. リョオウ の枕

8. ソウシュウ の夢

9. カイロコウリ

10. ロセイ の夢

11. コチョウ の夢



 お気づきの通り、これらはすべて人生や人の世の栄華がはかないことのたとえです。手元にまとめた問題の中だけでもこんなにあるのですから、これ以外にもまだまだたくさん類義の言葉、故事成語があるのでしょう。「盛者必衰」や「会者定離」などもその類と言っても良いかもしれません。古来どれだけ多くの人々が人生の無常、世のはかなさを感じてきたかの証左でもあるように思います。「洋の東西を問わず」という決まり文句がありますが、英語など西洋の言語にもこのような成句がいくつもあるのでしょうか。外国語には疎いのでそのあたりは良くわかりませんが、東洋人においてより顕著な人生観のようにも思います。

 ところで、「はかない」の漢字表記は 【儚い】 ですね。「人」の「夢」で「はかない」とは、ひょっとしてこれは今まで見過ごしていたけれど国字なのではないかと思って調べてみたところ、漢字そのものは大陸から伝来のもので国字ではありませんでしたが、この字に「はかない」という意味が生じたのはやはり日本において、しかも江戸時代以降と、比較的新しい用法であることが「全訳 漢辞海」に出ていました。もともとは「夢」の部分は「くらい」の意で、【儚】は暗い人、つまりおろかな人物を意味する字だったようです。「漢検 漢字辞典」にも、第二版には「くら・い」との訓が掲載されていますね。熟語 【儚儚(ぼうぼう)】 は、「ぼんやりするさま。頭が鈍いさま。」を表します。

 自分的には久しぶりに興味深い「発見」でした。





<解答>

1. 【邯鄲】  (「漢検 漢字辞典」初版 P.224/第二版 P.227)

2. 【南柯】  (1179/1190)

3. 【槿花】  (360/362)

4. 【黄粱】  (501/504)

5. 【槐安】  (181/183)

6. 【蜉蝣】  (1319/1332)

7. 【呂翁】  (1556/1609)

8. 【荘周】  (928/935)

9. 【薤露蒿里】  (183/185)

10. 【盧生】  (1594/1610)

11. 【胡蝶】  (450/454)