漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

古今和歌集 0579

2021-05-31 19:09:38 | 古今和歌集

さつきやま こずゑをたかみ ほととぎす なくねそらなる こひもするかな

五月山 梢を高み ほととぎす 鳴く音そらなる 恋もするかな

 

紀貫之

 

 五月の山は枝が伸びて梢が高いので、ほととぎすの鳴き声が空まで届く。私はと言えば、心が空(から)になるような恋をしていることよ。

 同じ「空」でも、自分はつのる恋情で心が空虚になってしまっている、という歌です。0572 で感じたのと同様、いささか理屈っぽい気がしますが、それもまた貫之の歌風のひとつということでしょう。

 

 


古今和歌集 0578

2021-05-30 19:07:59 | 古今和歌集

わがごとく ものやかなしき ほととぎす ときぞともなく よただなくらむ

わがごとく ものやかなしき ほととぎす 時ぞともなく 夜ただ鳴くらむ

 

藤原敏行

 

 私と同じように何か悲しいことがあるのだろうか。ほととぎすが時を選ばず夜通し鳴いているよ。

 同じ敏行作の 0197 と同じ心情を詠んだものとしてすでにご紹介した歌です。また、ほととぎすが登場し、「夜ただ鳴くらむ」で終わるという点では貫之作の 0160 とも共通しますね。


古今和歌集 0577

2021-05-29 19:49:26 | 古今和歌集

ねになきて ひちにしかども はるさめに ぬれにしそでと とはばこたへむ

音に泣きて ひちにしかども 春雨に 濡れにし袖と 問はばこたへむ

 

大江千里

 

 あの人を思い、声を上げて泣いてしまって濡れた袖だけれども、春雨に濡れたのだと、聞かれたら答えよう。

 「ひつ」は濡れる意。ご紹介するのは少し先ですが、恋の涙を春雨に袖が濡れると詠んだ歌は 0731 にも登場します。

 

かげろふの それかあらぬか はるさめの ふるひとなれば そでぞぬれぬる

陽炎の それかあらぬか 春雨の ふるひとなれば 袖ぞぬれぬる

 

よみ人知らず

 


古今和歌集 0576

2021-05-28 19:12:02 | 古今和歌集

いつはりの なみだなりせば からごろも しのびにそでは しぼらざらまし

いつはりの 涙なりせば 唐衣 しのびに袖は しぼらざらまし

 

藤原ただふさ

 

 もしこれが偽りの涙であったなら、こっそりと袖を絞ることなどないであろうに。

 見せかけの涙なら、これ見よがしに拭って見せて相手に訴えるところだが、本当の涙だから目立たないようにひっそりと拭うのだ、という詠歌です。切ないですね。
 作者の藤原ただふさは藤原忠房のことで、平安時代前期の貴族。なぜかこの箇所だけは「ただふさ」と平仮名表記になっていますが、他に漢字表記の歌が三首(019609140993)入集しています。


古今和歌集 0575

2021-05-27 19:57:49 | 古今和歌集

はかなくて ゆめにもひとを みつるよは あしたのとこぞ おきうかりける

はかなくて 夢にも人を 見つる夜は 朝の床ぞ 起きうかりける

 

素性法師

 

 はっきりはしないがあの人に逢った夢を見たらしい夜は、朝になって起きるのがつらいことだ。

 「はかなし」はここでは「頼りない」意で、いとしい人に逢った夢を見たように思うが、それ自体がはっきりしないということ。そんな朝は名残惜しく、がっかりして起床するのもつらいという歌です。心情はわかりますね。