師尹の頭中将、東へ下る女に、櫛の笥、鏡など調じて、やりたまふにそふとて
わかれても けふよりのちは たまくしげ あけくれみべき かたみなりけり
別れても 今日よりのちは 玉くしげ 明け暮れ見べき かたみなりけり
師尹(もろまさ)の頭中将が、東国に下ってゆく女に、櫛の笥(はこ)や鏡などをあつらえて贈るのにそえるとして詠んだ歌
別れても、今日から後はこの櫛の笥が、私だと思って明け暮れにみてくださるはずの形見なのですよ。
師尹は藤原師尹のこと。本ブログのベースとさせていただいている木村正中校注『土佐日記 貫之集』では「もろまさ」とされていますが、ネット検索すると「もろただ」と出てきます。「頭中将」は、蔵人所の長である蔵人頭と、近衛府の次官である近衛中将を兼任した者対する通称です。「たまくしげ」は「明け」にかかる枕詞ですが、ここでは化粧道具や装身具をしまう箱の意も表していますね。
貫之集第七の和歌のご紹介も残り二首になりました。