Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ルルー/日本フィル

2022年11月19日 | 音楽
 ロシアに住むラザレフが(たしかモスクワ在住だったと思う)、ロシアのウクライナ侵攻以来、来日が難しくなっている。その代役に世界的なオーボエ奏者のフランソワ・ルルーが立った。オーボエの腕前はトップクラスだが、指揮はどうかというのが興味の的だ。

 1曲目はドヴォルジャークの管楽セレナーデ。ルルーがオーボエを吹きながらアンサンブル・リーダーを務めた。それにしても、ルルーの音だけが目立ち、日本フィルのメンバーの音が背景に退きがちだった。日本フィルのメンバーにはさらなる積極性がほしかった。ルルーとの共演に緊張したのか。

 2曲目はドヴォルジャークの「伝説」から第1番、第8番、第3番。わたしは「伝説」という曲を知らなかったが、全部で10曲あるそうだ。今回演奏された3曲は「スラヴ舞曲集」に通じる民族色豊かな曲だったが、「スラヴ舞曲集」にくらべると小ぶりな曲だ。地味ではあるが、しっとりした味がある。ルルーはその3曲を精彩ある演奏で聴かせた。けっしてオーボエ奏者の余技ではなく、本格的な指揮者であることを印象付けた。

 3曲目はルルーのトレードマークといってもいいモーツァルトのオーボエ協奏曲。自由自在な演奏だ。その歌いまわしはだれにも真似ができない。そしていうまでもなく鋭い美音が展開する。まさに天下一品の演奏だ。もう何度聴いたかわからない曲だが、ルルーの演奏は凡百の演奏とは一線を画す。

 おもしろいことには、オーケストラの演奏が、最初はモヤモヤしていたが、ルルーの演奏が始まると、締まってきたことだ。そこはやはり演奏家同士、ルルーの凄さにすぐに反応するのだろう。ルルーならではの緩急があり、加えて第3楽章の終わりには大胆なパウゼもあったが、それにもよくついていった。

 まさかのアンコールがあった。大サービスだ。曲はモーツァルトの「魔笛」からモノスタトスの「だれでも恋の喜びを知っている」。一陣の風が吹き抜けるような曲だ。弦楽器の小刻みな波動のうえをオーボエが駆け抜けた。

 4曲目はビゼーの交響曲第1番。これは構えが大きくて、しかも隅々まで彫琢された名演だった。おもしろかったのは、フレーズの歌いまわしや浮き上がらせ方が、ルルーのオーボエ演奏を彷彿とさせることだ。指揮者とかオーボエ奏者とかの枠をこえて“音楽家”ルルーを聴くようだった。個別の奏者では、日本フィルの首席オーボエ奏者・杉原由希子さんの第2楽章での演奏が光った。ルルーの指揮でこの曲をやるのは、オーボエ奏者には緊張の極みだろうが、杉原さんはさすがに名演を聴かせた。
(2022.11.18.サントリーホール)

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