Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

国立西洋美術館の北欧絵画

2022年10月06日 | 美術
 先日、下野竜也指揮都響の演奏会を聴き、その感想を書いたが、当日は演奏会の前に友人と会っていた。友人と別れてから演奏会まで、しばらく時間があったので、国立西洋美術館で常設展を観た。いつもは企画展を見た後で慌ただしく観る常設展だが、今回は時間があるので、ゆっくり観ることができた。

 常設展の最後のセクションに、フィンランドの国民的画家といわれるアクセリ・ガッレン=カッレラAkseli Gallen-Kallela(1865‐1931)の「ケイテレ湖」という作品が展示されていた。フィンランドの湖沼地帯にあるケイテレ湖を描いた作品だ。画面の大半をケイテレ湖の湖面が占めている。鏡のように静かな湖面だ。そこに銀灰色の線がジグザグに走っている。フィンランドの民俗的叙事詩「カレワラ」に登場する英雄ワイナミョイネンが船を走らせた航跡だという。本作品は一見風景画のように見えるが(またそう見てもよいのだろうが)、神話画でもあるのだ。

 わたしは本年6月から9月にかけて同美術館で開かれた「自然と人のダイアローグ」展で本作品に初めてお目にかかった。「美しい作品だな」と思った。本作品が国立西洋美術館の2021年度新規購入作品だと知ったときには喜んだ。今後はいつでも観ることができると。

 今回の常設展ではその近くにデンマークの代表的な画家のヴィルヘルム・ハンマースホイ(1864‐1916)の「ピアノを弾くイーダのいる室内」が展示されている。イーダとはハンマースホイの妻だ。隣の部屋で妻がピアノを弾いている。その部屋と画家のいる部屋とのあいだにある扉は大きく開かれている。画家はピアノを弾く妻の後ろ姿を見つめる。窓からは明るい陽光が射しこんでいる。静かで穏やかな室内風景だ。

 ガッレン=カッレラとハンマースホイは同時代人だ。その生年からは、フィンランドの作曲家ジャン・シベリウス(1865‐1957)とデンマークの作曲家カール・ニールセン(1865‐1931)が連想される。シベリウスとニールセンも二人の画家と同時代人だ。しかも興味深いことに、「カレワラ」に題材を求めた点でガッレン=カッレラとシベリウスは共通し、一方、そのような神話性を求めずに、現世的な題材を求めた点でハンマースホイとニールセンは共通する。“フィンランド組”と“デンマーク組”のその違いは偶然だろうか。

 国立西洋美術館の北欧絵画にはもう一点、エドワルト・ムンク(1863‐1944)の「雪の中の労働者たち」がある(今回の常設展には展示されていないが)。スコップやつるはしを持った何人もの労働者が描かれている。意外なことには、ムンクもガッレン=カッレラやハンマースホイと同時代人だ。だがムンクは、ガッレン=カッレラやハンマースホイと並べると、いかにも座りが悪い。
(2022.9.30.国立西洋美術館)

(※)各絵画の画像は国立西洋美術館のホームページの「作品検索」で見ることができます。

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