Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

新国立劇場「リゴレット」

2023年06月01日 | 音楽
 新国立劇場の新制作「リゴレット」。歌手も指揮者も良く、満足度の高い公演だった。タイトルロールのロベルト・フロンターリは重厚で深々とした人間性を感じさせ、リゴレットの造形として説得力があった。ジルダのハスミック・トロシャンは、今が旬の若々しく伸びのある声をもち、高音もよくきまった。

 マントヴァ公爵のイヴァン・アヨン・リヴァスは、張りのある高度な歌唱を聴かせ、本公演の最大の発見だった。リヴァスという名前を覚えておこう。今後世界中の歌劇場でその名を見かけるようになるかもしれない。1993年ペルー生まれ。ペルー出身の歌手というと、ファン・ディエゴ・フローレスがいる。リヴァスはフローレスの指導を受けたこともあるそうだが、フローレスとはタイプが異なる。今後同じように活躍してほしい。

 指揮はマウリツィオ・ベニーニ。音楽をけっして弛緩させず、緊密にドラマを構成し、かつ歌にもオーケストラにも豊かなニュアンスを付与した。劇場たたき上げの指揮者の凄みを感じさせた。現代には希少なタイプのひとりかもしれない。オーケストラは東京フィルで、音の薄いところもあったが、ベニーニによくついていった。

 演出はエミリオ・サージ。とくになにをやっているわけでもなかったが、ドラマを整理して提示したとはいえる。最後の最後で、兄妹のスパラフチーレとマッダレーナが、兄妹の関係をこえて、近親相姦の関係があるように描かれた。本作品は宮廷社会の退廃を描いたオペラだが、退廃は庶民のあいだにも及んでいるというわけか。その後のスパラフチーレのジルダ殺害の場面では、マッダレーナも殺害に加わった。

 新国立劇場は本公演を「新制作」と謳っているが、スペインのビルバオ歌劇場が2013年に制作したもののようだ(プログラムのところどころから読み取れる)。それならそうと、「新制作」と謳うだけではなく、はっきり明記してほしい。

 「リゴレット」は、ドラマトゥルギー上は苦しい点がなくもないが、それでも宮廷の道化のリゴレットが、普段は君主・マントヴァ公爵の権力を笠に着て、廷臣たちを侮辱する一方で、家庭では一人娘のジルダを溺愛する(ただし、教会以外は外出を禁じるなど、グロテスクな面がある)という具合に、2重3重の深みがある。またジルダは、最初は世間知らずの純な娘だが、ドラマの展開とともに成長する。

 一方、マントヴァ公爵は、最初から最後まで変わらず、平面的だといわれる。だが、本当にそうだろうか。マントヴァ公爵は、自分がなにをやっても罰せられないことを知っている権力者として、今の社会から見ると一番興味深い。
(2023.5.31.新国立劇場)
コメント (2)
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