N響恒例のMUSIC TOMORROW 2023。今年の指揮者はイギリスの作曲家・指揮者のライアン・ウィグルスワースが予定されていたが、直前にキャンセルされた。急遽代役に立ったのはミラノ在住の杉山洋一。演奏曲目のスコアは事前に杉山洋一にデータで送ったのだろうが、たとえば後述する世界初演のスルンカ作曲「スーパーオーガニズム」は4管編成の巨大な曲だ。スコアは何十段にもなる。それを杉山洋一はデータで受け取り、短時間で読み込み、帰国してリハーサルをして、本番に臨む。プロの仕事だ。
さて、今年のプログラムだが、尾高賞の受賞作品は2曲あった。藤倉大(1977‐)の「尺八協奏曲」(2021)と一柳慧(1933‐2022)の「ヴァイオリンと三味線のための二重協奏曲」(2022)だ。まず藤倉大の「尺八協奏曲」から。尺八独奏は藤原道山。演奏時間は30分弱あったのではないか(体感的には)。その持続時間を、しかも単一楽章なのだが、飽きさせずに聴かせるのは、藤倉大の力量だ。延々と続く尺八のモノローグをオーケストラのシャープな音型が支える。
この曲はフランスのブリュターニュ管弦楽団からの委嘱作品だ。武満徹の「ノヴェンバー・ステップス」のころの和楽器と西洋オーケストラとの対峙というコンセプトから遠く離れて、和楽器が西洋オーケストラと自然体で交感する。両者は親和性を見出す。時代は、そして世界は、大きく変わったようだ。
2曲目は一柳慧の「ヴァイオリンと三味線のための二重協奏曲」。ヴァイオリン独奏は金川真弓、三味線独奏は本條秀慈郎。昨年亡くなった一柳慧の、生前完成された最後の作品だ。わたしはカンブルラン指揮読響の初演を聴いた。そのときと今回とでは、とくにオーケストラ演奏の印象がだいぶ違った。カンブルランの冷徹な演奏と今回の熱い演奏と。わたしは、こういってはなんだが、この曲のオーケストラの動的な部分はステレオタイプに聴こえるのだが、その点は今回のほうが聴きやすかった。
3曲目はミロスラフ・スルンカMiroslav Srnka(1975‐)の「スーパーオーガニズム」。スルンカはチェコ出身でドイツ在住の作曲家だ。「スーパーオーガニズム」はN響、ベルリン・フィル、ロサンゼルス・フィル、パリ管、チェコ・フィルの共同委嘱作品。スーパーオーガニズムとは生物学で「同種の生物が高度に分業しながら組織との相乗効果を発揮し、全体が部分の総和以上になった生命形態を指す」(白石美雪氏のプログラムノーツ)。たとえば蜂や蟻のコロニーがそれに当たるようだ。曲は全4楽章からなる。第1楽章の重心の高い澄んだ音響に斬新さを感じる。第4楽章は音が密集する。松村禎三の「交響曲第1番」の第3楽章(最終楽章)を思い出す。その楽章はイナゴの大群にたとえられることがある。松村禎三の場合は最後に静まる。一方、スルンカの場合は最後に爆発する。
(2023.6.27.東京オペラシティ)
さて、今年のプログラムだが、尾高賞の受賞作品は2曲あった。藤倉大(1977‐)の「尺八協奏曲」(2021)と一柳慧(1933‐2022)の「ヴァイオリンと三味線のための二重協奏曲」(2022)だ。まず藤倉大の「尺八協奏曲」から。尺八独奏は藤原道山。演奏時間は30分弱あったのではないか(体感的には)。その持続時間を、しかも単一楽章なのだが、飽きさせずに聴かせるのは、藤倉大の力量だ。延々と続く尺八のモノローグをオーケストラのシャープな音型が支える。
この曲はフランスのブリュターニュ管弦楽団からの委嘱作品だ。武満徹の「ノヴェンバー・ステップス」のころの和楽器と西洋オーケストラとの対峙というコンセプトから遠く離れて、和楽器が西洋オーケストラと自然体で交感する。両者は親和性を見出す。時代は、そして世界は、大きく変わったようだ。
2曲目は一柳慧の「ヴァイオリンと三味線のための二重協奏曲」。ヴァイオリン独奏は金川真弓、三味線独奏は本條秀慈郎。昨年亡くなった一柳慧の、生前完成された最後の作品だ。わたしはカンブルラン指揮読響の初演を聴いた。そのときと今回とでは、とくにオーケストラ演奏の印象がだいぶ違った。カンブルランの冷徹な演奏と今回の熱い演奏と。わたしは、こういってはなんだが、この曲のオーケストラの動的な部分はステレオタイプに聴こえるのだが、その点は今回のほうが聴きやすかった。
3曲目はミロスラフ・スルンカMiroslav Srnka(1975‐)の「スーパーオーガニズム」。スルンカはチェコ出身でドイツ在住の作曲家だ。「スーパーオーガニズム」はN響、ベルリン・フィル、ロサンゼルス・フィル、パリ管、チェコ・フィルの共同委嘱作品。スーパーオーガニズムとは生物学で「同種の生物が高度に分業しながら組織との相乗効果を発揮し、全体が部分の総和以上になった生命形態を指す」(白石美雪氏のプログラムノーツ)。たとえば蜂や蟻のコロニーがそれに当たるようだ。曲は全4楽章からなる。第1楽章の重心の高い澄んだ音響に斬新さを感じる。第4楽章は音が密集する。松村禎三の「交響曲第1番」の第3楽章(最終楽章)を思い出す。その楽章はイナゴの大群にたとえられることがある。松村禎三の場合は最後に静まる。一方、スルンカの場合は最後に爆発する。
(2023.6.27.東京オペラシティ)