Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

新国立劇場「楽園」

2023年06月21日 | 演劇
 新国立劇場の演劇部門は、今シーズン、シリーズ企画「未来につなぐもの」の公演を続けている。中堅世代の劇作家が新作を書き、同世代の演出家が演出をする企画だ。あるきっかけで第一作「私の一ヵ月」を観た。せっかくだからと、第二作「夜明けの寄り鯨」も観た。そこまで観たのだからと、シリーズ最後となる第三作「楽園」も観た。回を追うごとにおもしろい作品になっていった印象だ。

 「楽園」は登場人物7人全員が女性だ。作者の山田佳奈も女性。そこにスタッフ・キャスト中唯一の男性として演出の眞鍋卓嗣が加わる。眞鍋卓嗣はインタビューに答えていう。「俳優が女性だけの作品を演出するのは初めてです。こうなると、山田さんが演出したほうが良いのでは、と投げかけたことがあるのですが、その時、「敢えて男性である眞鍋さんが良いと思う」とおっしゃっていて(笑)」と(「ジ・アトレ」4月号)。なかなか興味深い。たしかに、たとえば男性作家が書いた男性だけの作品があったとして(どこかにありそうだ)、それを男性が演出するよりも、女性が演出したほうがおもしろいかもしれない。

 登場人物全員が女性という設定は、新国立劇場が以前上演した「まほろば」を思い出させる。「まほろば」は、作:蓬莱竜太、演出:栗山民也だった。男性作家が女性だけの作品を書いて、それを男性が演出した。わたしは公演を観ることはできなかったが、後日、台本を読んだ。女性同士の本音のぶつかり合いだと思った。「楽園」は「まほろば」にくらべると、女性の抱える問題が語られはするけれども、それほど濃密ではなく、さらっとしている。

 ストーリーをざっというと、場所は日本のどこかの島だ(沖縄の離島のような気配だ)。そこで一年に一度、神事が行われる。神事は女性だけで行われる。男性は参加できない。島の女性たちが集まる。東京から取材に来た女性も加わる。そこに起きるてんやわんやが本作だ。

 前述したように、登場人物は7人だが、神事を取り仕切る「司さま」を除く6人は、2人ずつの3組にグルーピングできそうだ。東京から取材に来た「東京の人」と島の男と結婚した「若い人」は、他所から来た人という点で共通する。「村長の娘」と「区長の嫁」は、村長と区長が選挙でたたかう間柄なので、「村長の娘」は「区長の嫁」をいじめる。神事が行われる家の「おばさん」と出戻りの「娘」は親子だ。

 全体は室内オペラのような精妙なアンサンブルでできている。時折デュエットのような二人だけの会話の部分が挟まれる。最後は「司さま」の舞いになる。その舞いが美しい。舞いに合わせて、戦争で死んだ若者たちの霊が降りてくる。
(2023.6.20.新国立劇場小劇場)
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