Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

高関健・山上紘生/東京シティ・フィル

2023年06月10日 | 音楽
 気が付いてみたら、吉松隆ブームが来ている。吉松隆の長年の伴走者・藤岡幸夫の一貫した努力に加えて、若手の指揮者・原田慶太楼の参入も大きい。さらにいうなら、藤岡幸夫の見出した菅野祐悟の人気により、吉松隆がその先駆者のように見え、現代のひとつの潮流のように感じられることも要因だろう。

 東京シティ・フィルの6月の定期演奏会は、藤岡幸夫が吉松隆の交響曲第3番をふるので期待の演奏会だった。だが、直前になって、藤岡幸夫が体調を崩した。肺炎を起こして、1週間程度の入院加療という。さて、どうする。吉松隆の交響曲第3番をレパートリーにする指揮者は、藤岡幸夫以外には、原田慶太楼くらいしかいない。原田慶太楼のスケジュールが空いていればいいが、そうでなかったら‥。

 で、結局、東京シティ・フィルの指揮研究員・山上紘生(やまがみ・こうき)がふることになった。山上紘生は体調不良の藤岡幸夫に代わって、リハーサル初日をふった。二日目もふった。リハーサルには常任指揮者の高関健が立ち会った。作曲者の吉松隆も駆け付けた。高関健と吉松隆と東京シティ・フィルの楽員が話し合い、山上紘生がふれそうだという結論に達した。さあ、山上くん、がんばれと、藤岡幸夫も応援した。

 演奏会本番。聴衆をふくめて、関係者全員が見守る中で、山上紘生は演奏時間約45分の大作をふりきった。全4楽章からなるが、最後の第4楽章がもっとも見事だった。オーケストラの音が引き締まり、とくにコーダが熱狂的に盛り上がった。演奏終了後、オーケストラが笑顔で山上紘生を称えた。

 山上紘生は東京藝大で指揮を高関健と山下一史に師事した。高関健は山上紘生の指導教官だ。その高関健の見守る中での大舞台。高関健から見たら、指摘すべき事項はいくつもあるだろう。大喝采に包まれた演奏だが、山上紘生は後日、高関健の厳しい指摘を受けて、さらに成長してほしい。オーケストラも聴衆も応援している。

 プログラム前半は高関健がふった。1曲目はシベリウスの「悲しきワルツ」。弦楽器のほの暗い音色が印象的だ。2曲目はグリーグのピアノ協奏曲。ピアノ独奏は務川慧悟。明暗のコントラストがはっきりした演奏で、けっして弾き流さない。第2楽章のピアノのモノローグが陰影深く演奏された。またオーケストラの音に張りがあった。さすがに高関健と東京シティ・フィルのコンビだ。産休明けの谷あかねさんのホルンも懐かしかった。

 務川慧悟のアンコールがあった。「カルメン幻想曲」(ホロヴィッツ編)。テクニック全開の編曲だ。会場の掲示でホロヴィッツの編曲と知って納得。
(2023.6.9.東京オペラシティ)
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