Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち展

2016年09月17日 | 美術
 日伊国交樹立150周年でイタリア美術の展覧会が続いているが、これもその一つ。ヴェネツィアのアカデミア美術館の所蔵品による「ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」展。

 ルネサンスというと、フィレンツェの画家たちを中心に語られることが多いが、ヴェネツィアでも独自のルネサンス美術が開花した。そこに焦点を当てた展覧会。

 初期ヴェネツィア・ルネサンスで活躍した画家がジョヴァンニ・ベッリーニだ。わたしが大好きな画家の一人。甘美な聖母子像で知られる。本展に来ている作品も聖母子像で「聖母子(赤い智天使の聖母)」。板絵であることが嬉しい。

 聖母マリアの上品な美しさはいかにもベッリーニ的。一方、幼子イエスは金髪の縮れ毛で、当時のヴェネツィアにいくらでもいそうな子ども(現代でもいくらでもいる子ども)のように描かれている点が面白い。しかも白いシャツを着ている。一般的に幼子イエスは裸身で描かれることが多いのではないだろうか。ともかく、庶民的というと語弊があるが、どこにでもいそうな男の子だ。

 背景の山河が、丁寧に、美しく描かれている。地平線のあたりが白くなっていて、上空に行けば行くほど深い青色になるので、時間的には夜明けではないだろうか。夜明けの冷気が画面に流れているような感じがする。智天使(ケルビム)が赤く描かれていることは不自然ではなく、むしろ画面全体に調和している。

 盛期ヴェネツィア・ルネサンスはティツィアーノの時代。「聖母子(アルベルティーニの聖母)」は、聖母のヴェールとスカートが褪色しているのだろうか、茶褐色なのが目を引くが(おそらく元は青色だったのではないか)、それでも聖母の気品は上質だ。

 キャプションで知ったのだが、幼子イエスの右腕がだらりと垂れているのは‘死’を暗示するそうだ。聖母の表情が悲しげなのはそのためという。そんな緊張感をはらんだ作品だが、受難を予感する聖母子が交わす視線に胸を打たれた。

 同じくティツィアーノの「受胎告知」はヴェネツィアのサン・サルヴァドール聖堂から運んだもの。縦410×横240㎝の大画面だが、大画面とは感じさせないほどの力強い統一感がある。ティツィアーノの底知れぬ力量に圧倒される。

 他にベッリーニの世代ではクリヴェッリ、ティツィアーノの後の世代ではティントレット、ヴェロネーゼなどが来ている。
(2016.9.15.国立新美術館)

(※)上記の各作品の画像(本展のHP)
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