Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

デュトワ/N響

2015年12月07日 | 音楽
 デュトワ/N響の「サロメ」。タイトルロールはグン・ブリット・バークミン。ウィーン国立歌劇場のサロメ歌手で、同歌劇場の日本公演でも同役を歌ったそうだ。まるでビアズリーの挿画から抜け出してきたかのような美しさ。サロメというよりもルルのような雰囲気だ。

 歌もとくに問題は感じなかったが、なによりもその容姿と、ちょっとした仕草が物語るドラマとに惹きつけられてしまった。

 歌にかんしていうと、わたしはシュトラウスがサロメのパートに付けた音楽の、遊戯性というか、軽やかに飛び回るような無邪気さに思い入れがあって、いつかはそのようなサロメを聴いてみたいと思っているのだが、実演ではなかなか出会えないでいる。今回も‘少女’サロメの軽やかさというよりも、肉感的な影のあるサロメだった。

 ヘロデ役のキム・ベグリーとヘロディアス役のジェーン・ヘンシェルは、ともに実力十分の大ヴェテランだけあって、文句なしの出来だ。「サロメ」は両者がサロメを支えて初めて成り立つオペラだと思った。

 ヨカナーン役のエギルス・シリンスは、幽閉された井戸から発する第一声を、舞台裏から歌った。これは効果抜群だった。遠くから響く声のイメージが目の前に浮かんだ。井戸から引き出されてくると、舞台上で歌う。そしてまた舞台裏に引っ込む。深々とした声が舞台裏から響いてくる。ゾクゾクするような声だ。

 日本人歌手もよかった。ナラボート役の望月哲也の実力はいうまでもないが、小姓役の中島郁子の安定した歌いぶりにも注目した。今後の活躍を楽しみにしたい。

 デュトワがN響を初めて振ったのは1987年9月だ。それから28年たった。壮年期の寸分の緩みもない演奏からは――当たり前かもしれないが――変化している。今は少しラフな部分を残しつつも、豪快さが加わった。加齢に伴う変化、生身の人間であるが故の変化、それを見守るのも聴衆の役目だ。

 このオペラを演奏会形式で聴くと、「7つのヴェールの踊り」が少しも浮いていないことが面白かった。舞台公演ではドラマの進行が止まってしまうが、演奏会形式だとむしろ音楽的なピークを迎えたように感じた。プッチーニの「トスカ」で「歌に生き、愛に生き」が出てくるタイミング、また「蝶々夫人」で「ある晴れた日に」が出てくるタイミングと同じようなものを感じた。ドラマトゥルギーが共通しているのかもしれない。
(2015.12.6.NHKホール)
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