Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

バイロイト:タンホイザー

2012年09月05日 | 音楽
 旅の記録の続きを。バイロイト2日目は「トリスタンとイゾルデ」だった。このプロダクションは去年も観た。演出はクリストフ・マルターラー。去年も好きになれなかった。今年はなにか発見があるかと思ったが、それもなかった。指揮も同じペーター・シュナイダー。今年は小さな疑問を感じた。

 これについてはあまり生産的なことは書けそうもない。文句を書くのもいやなので、あっさり諦めることにしたい。

 3日目は「タンホイザー」(ドレスデン版)。指揮はヘンゲルブロックが降りて、ティーレマンが代役。序曲が始まると、さすがにティーレマンというか、オーケストラの鳴りっぷりがちがう。栄養のよい音で、ときにはうねるように、大胆にパウゼをつくり、大きなためをとる。ティンパニのロール打ちの最後の音を強く叩く。もうやりたい放題だ。もっとも幕が上がったら(この演出では最初から幕が上がっているが)、これほどのことはなかった。

 タンホイザーはトルステン・ケルル。声も、演技も、そして失礼ながら容姿も、元気いっぱいでやんちゃなタンホイザーにぴったりだ。エリーザベトはカミラ・ニールント。こちらは育ちのよいお嬢さんにぴったり。その他の歌手では、領主ヘルマンのギュンター・グロイスベックの太い声が他を圧していた。

 セバスティアン・バウムガルテンの演出も面白かった。場所は化学工場。もっとも同じ日にご覧になった樋口裕一さんのブログによれば、これは体内(あるいは胎内)に見立てられているそうだ。そこまではわからなかった。座席が後方の左端で、舞台奥に投影されている映像がまったく見えなかったことも一因かもしれない。

 歌合戦の場面が傑作だった。ヴェーヌスが現れ(招かれざる客としてだが)、タンホイザーといちゃつき、しまいには踊り出した。もう笑うしかない。

 こういう演出だと、幕切れの新芽がはえた杖や、エリーザベトの自己犠牲はどうなるのかと思っていたら、僧侶が緑の杖をもって現れ、エリーザベトがあとに続いた。「なーんだ」と思っていたら、僧侶もエリーザベトもタンホイザーを救うことができず、タンホイザーは息絶えた。だがヴェーヌスがタンホイザーの子を出産して、愛が訪れた。

 「キリスト教と宮廷社会に反抗したタンホイザーが、清純な乙女の自己犠牲によって救われる」という現代にあっては古めかしいプロットの、一つの解決法だと思った。
(2012.8.27.バイロイト祝祭劇場)
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