Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

石巻市立湊小学校避難所

2012年09月12日 | 映画
 ドキュメンタリー映画「石巻市立湊小学校避難所」を観た。昨年4月21日から避難所が閉鎖される10月11日までの記録。そこに映し出される人々がいとおしくなる映画だ。同じ日本にいながら、東京の生活とはまったくちがう生活を余儀なくされた人々。そのころわたしはなにをしていたのか――。

 温かい映画だ。視線が温かい。小学校の教室で寝起きする被災者にたいする視線が温かい。被災者一人ひとりが、子どもも、お年寄りも、みんな人間としての尊厳をもった存在であるという、その基本的なことが尊重されている。けっして上から目線ではない。

 こんな場面があった。救援物資が届いたのだろう、その分配の場面。体育館の真ん中に物資が山積みされ、そのまわりにロープが張られている。被災者たちはロープの外にいる。司会者がしつこく注意する。「ロープをはずすまでは、絶対になかに入らないでくださいよ。だれか一人でも入ったら、即刻中止します。」

 やがて合図とともにロープが外される。物資に群がる被災者たち。こんな分配の仕方がされていたのかと驚いた。被災者にたいして失礼ではないのか。もっと人間として尊重したやり方はなかったのか。司会者は一段高い壇上にいた。カメラはその位置から見下ろす視線がどういうものかを記録した。

 被災者はこのような視線に晒されていた。たとえば慰問にきた人たちが歌う「ふるさと」もしかり。そこにひそむ、いわば善意の陥穽に、傷ついた人がいる。傷ついても、口に出さずに、穏やかに受け入れた人は、もっといるだろう。そのような人たちと、善意を信じて疑わない人たちとのギャップは、いつまでたっても埋まらない。

 被災者はそれがわかっている。ぐっと呑み込んで、明るく前向きに生きている。笑顔でいる。なかにはポキンと気持ちが折れてしまう人もいるだろう。それがときどき報じられる。だが大半の人は元気でいる。このドキュメンタリーに登場する人たちもそうだ。その一人ひとりをここで紹介する余裕はない。できれば画面でその笑顔を見てほしい。

 100席足らずの(正確には84席だそうだ)ミニシアターでの上映。ほぼ満員だった。学生さんから中高年まで。こんなに入るものかと驚いた。残念ながら東京での上映は9月14日で終了する。だが大阪では21日まで上映されている。10月に入ったら名古屋と大分で、11月には仙台で上映される予定だ。
(2012.9.11.新宿K’s cinema)
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