Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ラインの黄金

2009年03月16日 | 音楽
 新国立劇場がワーグナーの「ラインの黄金」を再演した。初演は2001年3月だったというから、8年ぶりの再演になる。長い空白期間となったが、久しぶりの再演をみて、ひじょうに面白かった。

 この楽劇は、ライン川の川底の第1場、山上の第2場、地下の第3場、ふたたび山上の第4場からなっている。これらの場面設定を忠実になぞる演出もあるが、大胆に読み替える演出もある。新国立劇場におけるキース・ウォーナーの演出は、その中間というか、第1場は映画館の客席、第2場以降はスクリーンの中という設定。ただし最後のエンディングは、スクリーンを引き裂いて、物語の中に入っていく。
 場面設定のアイディア以外にも、演出家の独自の解釈あるいは深読みは、いたるところに詰め込まれている。とくに第4場はそれが凝縮されていて、第3場までは比較的明るいポップ調ですすんでいた舞台に、血にまみれたディテールが点在するようになる。一転して、最後のエンディングでは、人を喰った場面になる。まだご覧になっていないかたのために、詳述は避けるが、アッといわせる場面転換だ。
 今回、久しぶりにみて、この演出、装置、衣装、照明は、いまだに古びてなく、世界の第一線に並びえると思った。

 歌手は、わずかの例外を除いて、8年前とほとんど変わっている。
 外人勢は皆よい。欧米の主要劇場クラスの水準といえる。脇を固める日本勢も、堂々と渡り合っている。とくに、8年前にはドイツ語の発音に問題を感じる歌手がいたが、今回はいなかった。日本人の歌手の層はずいぶん厚くなったものだ。
 問題はむしろオーケストラ(東京フィル)に感じた。こまかなミスは気にしないにしても、フォルテの音にもっと輝きがほしい。現状の水準に甘んじることのないように。
 指揮のダン・エッティンガーは、スケール感のある音楽をもっている。前から感じていることだが、この人には将来大成する素質がある。

 もしも秤にかけることができるなら、演出・装置・衣装・照明は歌手と均衡し、オーケストラはバランスを失うだろう。
 それでも、今回のプロダクションは、欧米の主要劇場に比べてひけをとらない。この再演を、まずは喜びたい。再演にあたって、演出家のキース・ウォーナーが来日して、演出に手をいれ、あるいは歌手を指導したかどうか、私は知らないが、もしそうでないとしたら、新国立劇場のスタッフの努力に心から拍手を送る。

 この水準のオペラ上演が今後も続けば、新国立劇場も世界から注目される劇場になるだろう。早くそういう日が訪れてほしい。
(2009.03.15.新国立劇場)
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