Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ディファイアンス

2009年03月07日 | 映画
 今、公開中の映画「ディファイアンス」をみた。ディファイアンスとは抵抗という意味。第二次世界大戦中の実話をあつかった映画だ。

 (ストーリー)
 1941年8月、ドイツ軍がソ連(現ベラルーシ)に侵攻し、ユダヤ人狩りがはじまる。間一髪のところで逃げ出したビエルスキ3兄弟は森に隠れる。やがてほかのユダヤ人たちも合流し、森で共同生活をはじめる。ドイツ軍との戦い、飢えと寒さとの戦い、味方であるはずのソ連軍のユダヤ人蔑視との戦い、内部の不満分子との戦い、その他のもろもろの戦いに耐えながら、かれらは森で生活し、ついに1944年7月の解放を迎える。そのとき1,200人の人たちが生き残っていた。

 原作はアメリカのコネチカット大学教授のネハマ・テックの著書「ディファイアンス ヒトラーと闘った3兄弟」で、1993年に出版されたそうだ。歴史の中に埋もれているエピソードを記録する作業が今も続いていることは尊いと思う。また映像にして広く普及させようとする人がいることも尊い。この映画には多くの人々のこころざしが結晶している。

 映画は、路線をめぐる長男トゥヴィアと次男ズシュの葛藤を軸にしてすすむが、終わり近くになって、リーダーとしての重圧に疲れきったトゥヴィアに代わって、それまで影の薄かった三男アザエルが人々を鼓舞する。
 その場面を思い返すと・・・ドイツ軍の追跡を逃れて森の端まできたユダヤ人たちの前に、大きな川が立ちふさがる。呆然とするユダヤ人たち。
 アザエル「川を渡ろう。モーゼがエジプト軍に追われたとき、神は奇跡を起こして紅海をひらいた。だが、今、奇跡は起きない。ならば自分たちで奇跡を起こそう。」
 人々「けれども、老人や病人はどうするのだ。」
 アザエル「強いものが助ける。一人も見放さない。」
 いつの間にかアザエルはたくましく成長していた。私は熱いものがこみ上げてきた。プログラムの記事によれば、この展開は脚本にはなかったもので、途中で監督が思いついたそうだ。そこには制作現場の熱気が感じられる。

 これはまったくの偶然だが、私は2月22日のブログでイタリアの作家プリーモ・レーヴィの小説「今でなければ いつ」の感想を書いた。映画にはこの小説を連想させるディテールがいくつもある。原作または脚本が参考にしていることはまちがいないと思う。
 一つだけ例示するなら、ある町のゲットーから多くのユダヤ人を救出して、森に迎え入れる場面がある。各人の職業をきくと、あるユダヤ人が時計修理工だと答える。そこで、故障した鉄砲の修理を頼むと、器用に直す。おそらくこの場面は、レーヴィの小説の主人公の時計修理工メンデルを示唆している。
 小説は1982年にイタリアで出版され、その後、アメリカ、フランス、ドイツ、日本で翻訳された。ユダヤ人のパルチザン部隊をえがいた偉大な先行作品。映画にはそのオマージュが感じられる。
(2009.03.05.TOHOシネマズシャンテ)
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