バラの着彩に失敗しました。軽やかなバラ色が出ないで重くなり、色彩に輝きがありません。(描いている最中にミレッジの逆転ホームランが出たのに、休憩にリアルタイムスコアをチェックしたら見る間に逆転される始末。またサボっているのがバレました。)
着彩に失敗した理由ですが、昔の感覚が戻っておらず、色を重ねる順番とかに間違いがあったのです。透明水彩の赤系は、色を重ねるごとに黒っぽく濁ってきます。この特性があるので、発色を良くするために色々な工夫が必要とされます。
まず、前々回に書いた下塗りです。今回は、この下塗りをしないでバラ色を塗ってしまいました。紙に塗った場合、パレットで溶いた色がそのまま出ることはありません。発色は、紙の色+塗った色なので、想定よりも褪めた感じになります。パレットの色がそのまま出るのは不透明水彩です。しかし、不透明だと色彩が重くなり、空気感や輝きが出ません。
バラの色を出したい時に下塗りをどうするか?これは経験則で、薄いレモンイエローが適しています。暗くなる部分は青系を薄く塗っておきます。今回はレモンイエローの下塗りをしなかったので、実際のバラよりも黒ずんだ感じになりました。これを修正するのに、ホワイトを混ぜた色を使うので、余計に重くなります。イエローの上にバラ色と、バラ色の上にイエローでは全く異なる発色なので、下塗りを失敗した時点で修正が効かないのです。
赤系の発色を良くする2つ目ですが、赤は鉛筆と相性が悪いと覚えてください。鉛筆の上に黄色では緑に感じますが、鉛筆の上に赤だと、乾いた血の色のように黒ずんで見えます。従って、赤い色のモチーフで陰影を表現する場合、鉛筆や黒で暗くすることは御法度なのです。陰影は、赤や青や、紫や茶色を少し使うことで表現します。プリンターは黒を使うので、微妙な赤系に弱いのです。
従って、バラでもリンゴでも、着彩する場合はデッサンでの陰影を最小限にしておく必要があります。鉛筆淡彩のように、陰影は鉛筆任せという技法では、絶対に綺麗な赤を表現する事はできません。バラの花のデッサン段階では、鉛筆は線の強弱でデッサンする感じで、陰影は硬い鉛筆を少なめに用い、柔らかい鉛筆の黒くて粗い粒子は避ける必要があります。デッサンだけで完成させる場合と、色を塗るのを想定するデッサンでは根本から違うのです。
日本画の制作の最初は、デッサンの裏に木炭を塗るか、チャコペーパーを敷いて、硬い鉛筆で和紙にトレースします。日本画でチャコペーパーは僕が使い始めたのです。芸大でも誰も使っていませんでした。バラの花の場合、チャコペーパーの色を赤か青にすると発色が良くなります。トレースした線に墨入するときも、墨ではなくて薄い朱色か藍色を使います。墨を使う場合は、細い線でなくてはなりません。線描きのことを白描と言いますが、白描で美しくないと良い絵にはなりません。
バラの花は、デッサンの段階以上に美しく描くことはできません。デッサンの欠点がモロに出てきます。形をごまかした所は形が崩れ、色が濁ってきます。デッサンの段階で、色の塗り重ねを計算できるようになれば一人前です。
バラやリンゴにホワイトを使う場合、陰影で彩度を下げたい場所に少し使います。ハイライトも使わないほうが良いのです。また、日本画で垂らし込みという技法がありますが、これは寝かせて描く手法で、イーゼルに立てて行うことはできません。垂らし込みは、薄く溶いた顔料が乾く過程で、自然に濃度の差が出るのを利用する技法です。墨溜まりのように、顔料が溜まったところが強調され、花弁などがそれらしく見えるのです→菱田春草
落葉。
垂らし込みを詳しく解説すると、明るい暗い反射光で説明した、陰の部分から急に反射光で明るくなる境目と同じ現象なのです。陰影のダイナミックレンジは、強い色から弱い色までの非直線的な変化です。鉛筆デッサンで、線の始まりに力を入れて、そこから抜くように一気に鉛筆を走らすと、最初だけ強くて最後は弱い線が勝手に出来ます。この手法と同じく、線の強弱のダイナミックレンジを広げる手法が垂らし込みなのです。
初心者は、デッサンの陰影でも、強弱を一定の割合で変化させようとします。強弱の変化を直線グラフ的に考えているのです。しかし、実際には変化量は非直線的であり、強い色は極端に強くて、それ以外は弱い色が多いのです。水墨画は、陰影の自然界における強度分布を具象化したものですね。垂らし込みは使い過ぎると嫌味になります→
嫌味な絵の典型。ここぞという時に使いましょう。
エフライム工房 平御幸