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若年性認知症と漢方治療

2007-02-19 12:01:21 | うんちく・小ネタ

弁証論治と弁病論治

補剤(ほざい)か瀉剤(しゃざい)かの選択

中国漢方医学の用語で補剤(ほざい)とは人体に足りなくなってきている気、血などを補う意味や、五臓の機能が虚した場合に機能を正常化する意味で用いられる薬剤を指します。補気薬、養血薬、補陽薬、滋陰薬などが相当します。

一方、瀉剤とは人体に過剰に蓄積したものを取り除く性質を持つ薬剤を指します。清熱解毒薬や利水滲湿薬、化痰薬、湿薬、化淤血薬などが瀉剤の範疇に入ります。

認知症に対する中国漢方医学の補剤、瀉剤の使い分け

中国医学では脳は髄海といわれ、髄は腎より生じると考えられているため、痴呆症は腎虚が最も関係すると考えています。つまり補剤である補腎薬を使用することが多いのです。また老化とともに、脾胃虚弱になると、運化失調のために、血虚が生じ、そのために脳が徐々に養われなくなると考えます。この場合も健脾薬や養血薬などの補剤を用います。

一方、脾胃虚弱は内湿を生み、内湿より痰濁が生じて脳の清竅(せいきゅう)を塞ぐことも原因と考えます。たとえば脳血管型痴呆の場合は、肝鬱(がんうつ)気滞(きたい)が原因となって生じる淤血が脳の清竅を塞ぐことが大きな原因と考えます。従って、初期の痴呆の原因としては、気血両虚、腎虚に対してはそれぞれ気血双補、補腎の効能をもつ補剤を投与し、肝鬱などのタイプには疏肝(そがん)剤などの瀉剤を投与し、淤血に対しては化淤血剤の瀉剤を投与します。病気の進行とともに、腎精不足が顕著になってくる状態には更なる補腎剤を、痰濁、淤血などが加わってくるタイプには化痰剤、化淤血剤などの瀉剤を投与するわけです。若年性認知症でも治療方針は変わりません。

認知症に対する中国漢方治療の大要

補剤治療としてはまず補腎薬を多めに使用します。熟地黄、山薬、山茱萸、巴戟天、杜仲、枸杞子、黄精、鹿茸、海馬などが良く使われます。脾胃の虚が見られ血虚が合併する場合には、健脾薬の人参、黄耆、白朮などに、当帰、白芍などを併用します。

次に瀉剤的な治療として、痰濁がある場合は半夏、石菖蒲、胆南星、遠志、茯苓、竹茹、陳皮などを併用します。肝鬱が強ければ、柴胡、枳、香附子、郁金などを、淤血がある場合は丹参、川、紅花、桃仁、赤芍、麝香、石菖蒲などを併用します。

市販薬では、腎を補うには海馬補腎丸(かいばほじんがん)が良く使われます。脾胃の虚がある場合は六君子湯(りっくんしとう)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、帰脾湯(きひとう)などを併用します。痰濁がある場合は温胆湯(おんたんとう) 黄連温胆湯(おうれんおんたんとう)、或いは導痰湯(どうたんとう)などの方剤を併用します。淤血がある場合は丹参飲(たんじんいん)などを併用します。

一般には、漢方専門医が、認知症の患者さんを診察した上で、生薬を服用するほうが効果が上がります。漢方専門医が患者さんを診察して病態を診断することを「弁証論治」といいます。

弁病論治では西洋医学も漢方医学もまだスタートライン

 アルツハイマー病は大脳に「老人斑」と呼ばれている「βアミロイド」と言うタンパク質が沈着し、やがては脳細胞が死んでいくことによって発病する痴呆症のことです。多くの「呆け」症状は、大脳にこのβアミロイドタンパクが沈着する事により発症します。βアミロイドタンパクは脳に沈着しにくいように「掃除」されているのが正常な状態であり、「老人斑」は作られない状態になっています。

 異常な病理産物の蓄積が病気の本質であるならば、その病理産物を体内から排除、掃除するという治療概念が生じます。つまり瀉剤の考え方です。現在、世界中の研究機関でβアミロイドタンパクの瀉剤の研究がなされていますがまだ確実に効果のある瀉剤は見つかっていません。

 βアミロイドタンパクの異常蓄積が生体の掃除機能が虚していると考えれば、衰えている生体機能を賦活するという治療概念が生じます。つまり補剤的な概念です。これも特効薬だといえる補剤はまだ見つかっていません。

アリセプト、ガランタミン

 補剤も瀉剤も手詰まり状態ですが、「非特異的に脳の活動を活発化させる」という治療は一部行われ始めました。

アセチルコリンは、記憶学習に関連する物質です。アルツハイマー病患者の脳ではアセチルコリンが減少していることも知られていました。そこで、脳内でアセチルコリンを分解する酵素「コリンエステラーゼ」の機能を抑制し、結果的にアセチルコリンの量を増やすことで、記憶学習機能の低下を防ごうとする治療概念が生じました。アリセプト(製薬会社エーザイ、主成分 塩酸ドネペジル)が相当する薬剤です。ただし、痴呆の進行を遅らせることが確認されましたが、βアミロイドタンパクの異常蓄積による神経細胞の最終的な死を抑制するものではありません。ルツハイマー病の進行は遅れますが、最終的には薬剤を飲まないときと同様の痴呆状態は免れません。海外製品では生薬由来のアルカロイドの一種ガランタミンもアリセプト同様にコリンエステラーゼ阻害作用により脳内のアセチルコリンを増加させるとして承認販売されています。

 実は、漢方生薬の脳細胞に対する効能は研究が始まったばかりです。今後の研究を期待したいものです。

  続く、、


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