線維筋痛症(Fibromyalgia)
線維筋痛症は中国語で線維肌痛症あるいは肌筋膜痛総合症と呼ばれている。非膠原病性でかつ非炎症性の原因不明の全身の筋肉痛、関節痛、骨痛を主症状とする本病は、従来「痹症(ひしょう)」の一つとして中医学的に治療がなされてきたものである。ただし「線維筋痛症の疾患概念」は1990年代になって米国から中国へ移入されたものである。従って
① 中国国内では、「Fibromyalgia」として確定診断された症例数がまだ蓄積されていないことが現状である。
② 骨傷科より内科{風湿病専科(リュウマチ科))}が治療していることが多く、または、鍼灸治療が多く併用されてきた。
鍼治療は八針透針法で穴位は崑崙透太溪(直透法)、合穀透魚際(斜透法)、太陽透?竹空(斜透法)、陽陵泉透陰陵泉(直刺法)、条口透承山(斜刺法)、内関透外関(直刺法)、魚腰透陽白(横刺法)、風致透風府(斜刺法)である。詳細は省くがステンレス針、34~36号で30分留置針を行う。
③ 内科治療の場合は“痺証”に基づいて治療がおこなわれる。
治療原則は西洋治療に合わせて
①「疏肝解郁」(抗焦燥、不眠に対して)
②「※※止痛」(鎮痛)、③「補益肝腎」(免疫調整)が主体である。
①、②は「標」を、③は「本」を治療する意味です。中医学でいう「標本同治」の手法をとる。
「※※止痛」は弁証結果(風、寒、湿、熱、気滞、瘀血)に対応し、具体的な治療法を応用する。※※部分には弁証により祛風 散寒 祛湿 清熱(清熱は少ない)理気 化淤の漢方治療原則が入りそれぞれの方薬が使用される。それぞれの止痛法に関する使用生薬については http://okamotokojindou.com/cancer/detail09.html
を参照されたい。
ここでは基本的な中医漢方医学の観点から線維筋痛症をどのようにとらえているのかを紹介する。
中医学的な治療の目的
現時点において線維筋痛症の単一的な治療方法は西洋医学、中医学でも発見されていない。従って「痛みを取り除く諸方法」を総合するものである。治療目的は
①痛みの周期を打ち破る
②睡眠のモードを回復する
③生体機能の活動のレベルを高める。 の3点である。
原因不明のある化学物質が小さな血管を攣縮させ筋膜組織が酸欠になり、線維組織が増加していくのではないかというとらえ方がされている。外傷が治らないままに放置された場合、出産などで疲労、出血などが過ぎた場合などに気血が消耗され、血は筋を濡養できなくなり、肝は筋(すじ)を司れなくなることが本病のメカニズムと考える中医がいる。
生体の正気(広い意味で抵抗力)が虚せば邪気(ウイルスや寒さなどの物理的な生体を侵襲するもの)が乗じやすくなる。 正気の虚により体表の腠理(そうり)(毛穴)が開いてしまい外邪は生体に侵入してくる。その結果、気血が閉疽し、経絡の気血も不足し、脈絡の正常機能が失われる。
痛みの原因を中医学では「不通即痛」と捉える。「通りが妨げられると痛みが生じる」という考え方である。正常な気 あるいは血の流れに阻滞が生じると痛みが生じると考える。
やや中医学の概念的な治療用語になるが、以下を以って、正常人であれば痛みを感じない程度に、痛覚の閾値(いきち)を上昇させることを治療原則としている。
① 益気固表(えっきこひょう)
補気剤により体表の抵抗力である衛気(えき)を強化する。
② 養血舒筋(ようけつじょきん)
血を養い筋への濡養を促進する。
③ 通絡止痛(つうらくしつう)
経脈の気血の流れを改善し痛みを止める。
④ 祛風寒湿(きょふうかんしつ)止痛
風寒湿を除き痛みを止める。
西洋医学的解釈に対する中医学的私見
① 不安 睡眠障害 ストレス うつ などの関与
三環系抗うつ剤を眠前に服用する方法が推奨されている。
私見:
中医学的には不安 ストレスは肝気の鬱滞をきたし、うつを引き起こし、さらにその症状を悪化させる。慢性病になると陰血が消耗し肝血不足となりひいては心血不足となり失眠が生じる。一方肝腎同源という基本的な中医学の哲学から、上記症候には疏肝解郁(そがんかいうつ)補益肝腎(ほえきがんじん)養血安神(ようけつあんじん)法をとるべきであろう。
② 慢性疲労症候群の合併
背景に免疫力の低下、ウイルス感染、胃腸機能の低下が疑われる。
私見:
気血生化の源である脾胃の機能が減弱すれば免疫力の低下になる。肝と脾胃が不和になれば最終的に気虚に加え肝血不足が生じ慢性疲労の原因にも①の原因ともなる。調和肝脾(ちょうわがんぴ)法をとるべきである。慢性疲労症候群の漢方治療に関してはhttp://okamotokojindou.com/internal/detail26.htmlを参照されたい。
③ 過敏性胃腸障害を時に合併する。
私見:
肝脾胃の臓腑学説から説明が可能と思われる。過敏性大腸症候群の漢方治療についてはhttp://okamotokojindou.com/internal/detail23.htmlを参照されたい。
罹患人口が多い割には(日本で推定200万人)線維筋痛症への解析はまだ始まったばかりである。果たして「独立疾患」であるのかさえもはっきりしていない。治療は手探り状態なのが現状である。特徴的な検査所見を示さないのも「独立疾患」を疑わせる原因である。アメリカではFibromyalgiaの代替治療として中国医学療法が広く認められつつあるようだ。
続く、、
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