gooブログはじめました!

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

急性糸球体腎炎 張琪氏医案 加味八正散弁治2(腎病漢方治療330報)

2014-04-19 00:15:00 | 急性糸球体腎炎 漢方治療

前案に引き続き、急性腎炎の加味八正散による弁治を紹介します。

今回は成人の急性糸球体腎炎で抗生物質治療を2週間続けたものの、症状の遷延が認められる症例になります。

( )内に随時コメントや印象を入れます。

それでは、医案に進みましょう。

患者:李某 26歳 男性

初診年月日19901110

病歴

血尿腰痛一ヶ月余、一ヶ月前肉眼的血尿、腰痛、浮腫で発病、佳木斯(黒龍江省ジャムス市)病院で、急性糸球体腎炎と診断され、抗生物質治療を2週間受けたが、まだ肉眼的血尿が出現することがある。

初診時所見

腰痛有り、尿少、尿色黄赤、眼瞼軽度浮腫、舌尖紅苔薄白、脈滑。尿検査:RBC満視野/HPWBC5~7個/HP、尿蛋白2+、顆粒円柱1~3個/LP

中医弁証:湿熱下注、傷及血絡

西医診断急性糸球体腎炎

治法清熱利湿解毒法

方薬

白花蛇舌草(微苦甘/寒 清熱解毒利湿)50g 大黄7.5g 萹蓄15g 瞿麦15g 白茅根30g 木通(苦/寒 泄熱利水通淋)15g 車前子(包煎)15g 蒲公英30g 小薊50g 甘草10g

水煎服用、毎日1剤、二回に分服

(コメント:木通(苦/寒 泄熱利水通淋)15gが配伍されています。木通の大量60g程度の長期服用、例えば淋病などで、急性腎不全が出現することがあると注目され始めたのが1990年代半ば頃で、現在では使用禁止になっています。)

二診

前方服用6剤で、尿量は明らかに増多し、尿色転黄、腰痛減軽、尿RBC3040/HP、脈滑。

三診

継続服用6剤(計12剤)、浮腫全消、尿色淡黄、尿RBC1015/HP、舌尖紅、口干有り。益気養陰清熱利湿の剤に改め、服薬12剤、尿蛋白(-)、尿RBC35/HP、明らかな自覚症状無し、さらに益気養陰清熱利湿の剤で治療、追跡調査1年、再発無く、半年前に既に仕事に復帰していた。

ドクター康仁の印象

成人の急性糸球体腎炎は小児と異なり、血尿や蛋白尿が遷延することがあるという典型例です。現代日本では初診時に既に咽頭菌の培養や、ASLO値、血清補体価など、尿中のFDPなどをルーチン化して検査していますが、たとえA群β溶血性連鎖球菌が培養で確認されなくても、一般的にはペニシリン系、マクロライド系の抗生物質を一定期間投与し、必要とあらば利尿剤を併用します。本案でも同じような西洋医学的検査や治療を受けたものと思います。本案では発症一ヶ月でも、軽度の浮腫、肉眼的血尿、蛋白尿などが遷延した状態で張琪氏の初診となった訳です。

八正散:効能:清熱瀉火利水通淋 主治:湿熱下注膀胱

出典は太平恵民和剤局方の方剤です。

子 瞿麦 萹蓄草 滑石 梔子仁 大黄 木通 炙甘草

氏の加味八正散と共通するのは瞿麦 萹蓄 大黄 木通 甘草です。1990年の症例ですので、木通の腎毒性はまだ中医の間での共通認識は無かったのでしょう。

前案329報でも加味八正散として白花蛇舌草50gが配伍されています。性味を調べてみると、微苦甘/寒とする清書が多いようです。苦寒に過ぎず脾胃を障害することが稀なのです。ステロイド減量にも白花蛇舌草が有効ですし、ループス腎炎、慢性腎炎には清熱解毒利湿作用と免疫調整作用が期待されています。

成人型急性糸球体腎炎の遷延例にも漢方治療が有効である典型のような医案でした。

2014419日(土)


急性糸球体腎炎 張琪氏医案 加味八正散弁治1(腎病漢方治療329報)

2014-04-18 00:15:00 | 急性糸球体腎炎 漢方治療

上気道感染症、皮膚感染症などから一定の期間を置いて、血尿、浮腫、高血圧症などを発症する急性腎炎は、現在殆どの症例が西洋医学的治療を受けているのが日本の現状です。以前は原因別に溶血性連鎖球菌感染後急性糸球体腎炎などと個別分類がされていましたが、典型的なA群β溶血性連鎖球菌感染後の糸球体腎炎以外にも、急性発症様式を示す腎炎が存在するために、現在では臨床分類として急性腎炎症候群と一括して呼称されるようになりました。

日本では現実論として漢方の出番は有りません。抗生物質投与、扁桃腺摘出、適切な利尿剤の投与、或いは経過観察のみで小児の場合には原則治癒しますが、成人に成るに連れて治癒率が低下し、尿所見などが遷延する場合があります。そのような急性腎炎の遷延例には漢方の出番が有りますが、まず、通して出番が無いのが現状と言えるでしょう。では中国の場合ではどうかと言えば、最初から出番があります。今回の市民講座では7報(7症例)を、張琪氏に絞りご紹介します。

( )内に随時コメントや印象を入れます。

患者:王某 18歳 男性

初診年月日199468

病歴

十余日前、感冒、発熱咽痛、2日前肉眼的血尿が生じた。尿の色は鮮紅、新鮮肉を洗ったような色調である。咽痛咽干を伴い、心煩身熱、腰酸腰痛有り、少腹不快感を伴う。尿蛋白3+、尿RBC満視野/HP、腎機能、肝機能、血清脂質正常、末梢血液検査:WBC11000咽部充血、両側扁桃腺Ⅱ度腫大、脈滑数、舌質紅。

中医弁証:下焦湿熱

西医診断:急性糸球体腎炎

治法加味八正散

方薬

白花蛇舌草(清熱解毒利湿)50g 大黄(活血通腑泄濁)7.5g 生地黄(養陰清熱)20g 萹蓄(利水通淋)15g 瞿麦活血利水通淋)15g 車前子(清熱利水)15g 小薊(涼血止血)50g 甘草10g 金銀花(清熱解毒利湿)30g 連翹(清熱解毒利湿)30g 白茅根(涼血止血 清熱利尿)30g

水煎服用、毎日1剤、二回に分服

二診

服薬3剤で肉眼的血尿消失、尿転黄赤、咽痛及び身熱すべて減軽、尿蛋白2+、尿RBC50/HP以上。

三診

継続服用7剤(計10剤)で、腰酸腰痛を除いて、他の基本症状消失、舌質まだ紅、脈滑、数の象無し(頻脈無しの意味です)。尿蛋白±、尿RBC3040/HP

清熱涼血の剤に改め治療2週後、尿蛋白消失、尿RBC510/HP。続いて、益気養陰清熱利湿の剤で治療1月余、尿転正常、諸症消失、追跡調査半年、病は既に治癒し、通学中であった。

ドクター康仁の印象

八正散:効能:清熱瀉火利水通淋 主治:湿熱下注膀胱

出典は太平恵民和剤局方の方剤です。

子 瞿麦 萹蓄草 滑石 梔子仁 大黄 木通 炙甘草

各等分 木通を除いて9gずつ計63gを散にして一回69g煎服

処方中の(木通)、車前子、萹蓄、瞿麦は、通閉利小便に、山梔子は、三焦の湿熱を清化すると解釈されています。原典には木通が使用されていますが、現在では長期服用での腎毒性が報告されて以来使用禁止になっています。木通の腎毒性が注目され始めたのは1990年代半ば頃です。氏の加味八正散との共通生薬は瞿麦 萹蓄 大黄 甘草の4薬です。

初診処方以下

白花蛇舌草(清熱解毒利湿)50g 大黄(活血通腑泄濁)7.5g 生地黄(養陰清熱)20g 萹蓄(利水通淋)15g 瞿麦(活血利水通淋)15g 車前子(清熱利水)15g 小薊(涼血止血)50g 甘草10g 金銀花(清熱解毒利湿)30g 連翹(清熱解毒利湿)30g 白茅根(涼血止血 清熱利尿)30gの内、八正散の八味に拘るなら、白花蛇舌草 大黄 生地黄 瞿麦 萹蓄 車前子 小薊 甘草の8味が基本になるでしょう。

咽干があることや、基本的に熱証であることから、養陰清熱の生地黄の配伍は頷けます。車前子 瞿麦 萹蓄は清熱利水通淋に作用します。本案は中医学での熱淋の範疇になります。氏の大黄の常用量は成人で7.5gから15gの間ですが、本案の7.5gは量的には少量ですが清熱解毒化瘀痛淋の作用は見逃せないところです。咽痛が酷ければ白花蛇舌草 金銀花 連翹と共に蒲公英などを加味することになります。

患者の年齢18歳となれば、最早、小児ではなく成人扱いとなり、現代西洋医学でも遷延化する症例が出現してきますが、本案のように、最初から漢方薬だけで完全緩解する症例があるという見本のような医案でした。

ちなみに、清熱涼血の剤に改め治療2週後、尿蛋白消失、尿RBC510/HP。続いて、益気養陰清熱利湿の剤で治療1月余と記載がありますが、清熱涼血の剤は加味理血あるいは小薊飲子類似の方薬、益気養陰清熱利湿の剤は清心蓮子飲類似の方薬ではなかったかと想像します。

2014418日(金)