前案に引き続き、急性腎炎の加味八正散による弁治を紹介します。
今回は成人の急性糸球体腎炎で抗生物質治療を2週間続けたものの、症状の遷延が認められる症例になります。
( )内に随時コメントや印象を入れます。
それでは、医案に進みましょう。
患者:李某 26歳 男性
初診年月日:1990年11月10日
病歴:
血尿腰痛一ヶ月余、一ヶ月前肉眼的血尿、腰痛、浮腫で発病、佳木斯(黒龍江省ジャムス市)病院で、急性糸球体腎炎と診断され、抗生物質治療を2週間受けたが、まだ肉眼的血尿が出現することがある。
初診時所見:
腰痛有り、尿少、尿色黄赤、眼瞼軽度浮腫、舌尖紅苔薄白、脈滑。尿検査:RBC満視野/HP、WBC5~7個/HP、尿蛋白2+、顆粒円柱1~3個/LP。
中医弁証:湿熱下注、傷及血絡
西医診断:急性糸球体腎炎
治法:清熱利湿解毒法
方薬:
白花蛇舌草(微苦甘/寒 清熱解毒利湿)50g 大黄7.5g 萹蓄15g 瞿麦15g 白茅根30g 木通(苦/寒 泄熱利水通淋)15g 車前子(包煎)15g 蒲公英30g 小薊50g 甘草10g
水煎服用、毎日1剤、二回に分服
(コメント:木通(苦/寒 泄熱利水通淋)15gが配伍されています。木通の大量60g程度の長期服用、例えば淋病などで、急性腎不全が出現することがあると注目され始めたのが1990年代半ば頃で、現在では使用禁止になっています。)
二診:
前方服用6剤で、尿量は明らかに増多し、尿色転黄、腰痛減軽、尿RBC30~40個/HP、脈滑。
三診:
継続服用6剤(計12剤)、浮腫全消、尿色淡黄、尿RBC10~15個/HP、舌尖紅、口干有り。益気養陰清熱利湿の剤に改め、服薬12剤、尿蛋白(-)、尿RBC3~5個/HP、明らかな自覚症状無し、さらに益気養陰清熱利湿の剤で治療、追跡調査1年、再発無く、半年前に既に仕事に復帰していた。
ドクター康仁の印象
成人の急性糸球体腎炎は小児と異なり、血尿や蛋白尿が遷延することがあるという典型例です。現代日本では初診時に既に咽頭菌の培養や、ASLO値、血清補体価など、尿中のFDPなどをルーチン化して検査していますが、たとえA群β溶血性連鎖球菌が培養で確認されなくても、一般的にはペニシリン系、マクロライド系の抗生物質を一定期間投与し、必要とあらば利尿剤を併用します。本案でも同じような西洋医学的検査や治療を受けたものと思います。本案では発症一ヶ月でも、軽度の浮腫、肉眼的血尿、蛋白尿などが遷延した状態で張琪氏の初診となった訳です。
八正散:効能:清熱瀉火利水通淋 主治:湿熱下注膀胱
出典は太平恵民和剤局方の方剤です。
車前子 瞿麦 萹蓄草 滑石 梔子仁 大黄 木通 炙甘草
氏の加味八正散と共通するのは瞿麦 萹蓄 大黄 木通 甘草です。1990年の症例ですので、木通の腎毒性はまだ中医の間での共通認識は無かったのでしょう。
前案329報でも加味八正散として白花蛇舌草50gが配伍されています。性味を調べてみると、微苦甘/寒とする清書が多いようです。苦寒に過ぎず脾胃を障害することが稀なのです。ステロイド減量にも白花蛇舌草が有効ですし、ループス腎炎、慢性腎炎には清熱解毒利湿作用と免疫調整作用が期待されています。
成人型急性糸球体腎炎の遷延例にも漢方治療が有効である典型のような医案でした。
2014年4月19日(土)