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出久根さんの「五千円札」

2019-10-28 10:15:49 | 出久根達郎さん
出久根さんの『残りのひとくち』を読んでいて、「うわ~っ」と思った。

「五千円札」と題されたエッセイである。
集団就職で上京したころの話から書き起こし、初めて銀座に行ったことや、偶然郷里での旧友に会った話など。
そして、上京して10年ほど経ったころの話として、銀座で五千円札を拾った話に。
《私はまわりを見まわした。》とかあって、《交番に届けないとまずいぞ。》などと心に葛藤を抱きながら、《五百万円とくらべれば、五千円なんて、なにほどのこともない。》になり、新刊書店に入り、前から読みたかった本を十五六冊レジにさしだす。

《お下げの少女が、レジに入っていた。彼女は一冊一冊、ていねいにカバーをつけてくれた。私は例の札を、そのまま渡した。少女がゆっくりと広げ、ふと、小首をかしげた。私は、ドキッとした。ニセ札ではないか、と思ったのである。あるいは札ではなく、チラシであるまいか。ひろったときよく確認してなかった。急いでポケットにしまったのである。ニセ札ではなさそうだった。少女の、癖なのかも知れない。彼女は私に釣りをくれた。
それから何年かたって、私は結婚した。カミさんが古本屋の帳場に座る。客から金を受け取る際に、小首をかしげる。私はハッとした。
聞いてみると、確かにカミさんは、銀座の書店で一時期、アルバイトをしていたのである。私が買った店の、あのレジ係をつとめていた。場所も時期も、ぴったり、と合う。
「俳優の渥美清さんもよく買いにきていたわ。だけど、どうして?」
ひろった金で本を求めた、とは白状しにくい。その時に至って、良心が咎めだしたのである。》


なんということか。
これ、出久根さん、小説になさったのだろうか?こんな話、初めて読むぞ。
あの気さくな奥様とこんなエピソードがあったとは。
出久根さん宅に電話をかけると必ず奥様がお出になる。そして「あら〇村さん」と気さくに話してくださる。
出久根さんはこの話、これを書いた後に白状されたのだろうか。
次の電話の時に一度奥様に尋ねてみようか。
それとも、やめておいた方がいいだろうか。
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