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●クラシック音楽●<NHK-FM「ベストオブクラシック」レビュー>~堀米ゆず子、アントニオ・メネセス、田村 響による三重奏の夕べ~

2024-04-09 09:44:13 | NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー



<NHK-FM「ベストオブクラシック」レビュー>



~堀米ゆず子、アントニオ・メネセス、田村 響による三重奏の夕べ~



メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲 第1番 ニ短調 作品49
チャイコフスキー:ピアノ三重奏曲 イ短調 作品50 「偉大な芸術家の思い出」
メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲 第2番 ハ短調 作品66から 第2楽章(アンコール)

ヴァイオリン:堀米ゆず子

チェロ:アントニオ・メネセス

ピアノ:田村 響

収録:2023年11月20日、武蔵野市民文化会館 小ホール

放送:2024年02月06日 午後7:30~午後9:10

 今夜のNHK-FM「ベストオブクラシック」は、2023年11月20日、武蔵野市民文化会館で行われた、ヴァイオリンの堀米ゆず子、チェロのアントニオ・メネセス、ピアノの田村 響の3人によるピアノ三重奏の夕べの放送である。


 ヴァイオリンの堀米ゆず子は、東京都出身。5歳からヴァイオリンを久保田良作氏のもとで始め、1975年より江藤俊哉氏に師事。桐朋学園大学音楽学部を卒業後、1980年、日本人として初めて「エリザベート王妃国際コンクール」で優勝。以後ベルギーを本拠としてベルリン・フィル、ロンドン響、シカゴ響、クラウディオ・アバド、小澤征爾、サイモン・ラトルなど世界一流のオーケストラ、指揮者との共演を重ねる。世界中の音楽祭に数多く招かれ、その中にはアメリカのマールボロ音楽祭、クレーメルの主宰するロッケンハウス音楽祭、ルガーノアルゲリッチ音楽祭(スイス)、フランダース音楽祭(ベルギー)などがある。室内楽にも熱心に取り組んでおり、これまでにルドルフ・ゼルキン、アルゲリッチ、ルイサダ、クレーメル、マイスキー、今井信子、メネセス、ナイディックなどと共演。1981年「芸術選奨新人賞」受賞。多くの国際コンクールの審査員にも招かれており、2016年仙台国際音楽コンクールヴァイオリン部門審査員長に就任。現在、ベルギー、ブリュッセルに在住し、ブリュッセル王立音楽院客員教授を務める。著書「モルト・カンタービレ ブリュッセルの森の戸口から」(NTT出版)、「ヴァイオリニストの領分」(春秋社)。

 チェロのアントニオ・メネセス(1957年生れ)は、ブラジル出身。10歳からチェロを始め、14歳でリオデジャネイロの交響楽団に入団し、16歳の時、南米ツアー中のチェロ奏者アントニオ・ヤニグロと出会い、渡独。デュッセルドルフのロベルト・シューマン大学、シュトゥットガルト音楽演劇大学でヤニグロの指導を受ける。 1977年「ミュンヘン国際音楽コンクール」、1982年「チャイコフスキー国際コンクール」で優勝。カザルス音楽祭、ザルツブルク音楽祭、プラハの春音楽祭、モーストリー・モーツァルト、ルツェルン音楽祭などの音楽祭に多数招かれている。2008年に解散した著名なピアノ三重奏団「ボザール・トリオ」のメンバーとしても活躍した。

 ピアノの田村 響(1986年生まれ)は、愛知県安城市出身。愛知県立明和高校音楽科を卒業後、ザルツブルクのモーツァルテウム音楽院にて学ぶ。2002年「ピティナ・ピアノコンペティション全国大会」において史上最年少(15歳)で特級グランプリを受賞。2005年度第16回「出光音楽賞」受賞。2007年「ロン・ティボー国際コンクール」ピアノ部門で優勝し、一躍世界に認められる。2008年「文化庁長官表彰・国際芸術部門」受賞。2008年度(第10回)「ホテルオークラ音楽賞」受賞。2013年大阪音楽大学大学院に入学し、2015年に修士号を得て卒業。2015年度「文化庁芸術祭賞音楽部門新人賞」を受賞。京都市立芸術大学講師。


 今夜の最初の曲は、メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲第1番 ニ短調 作品49 は、1839年9月23日に完成し、この年の秋にライプツィヒで初演された。この時はメンデルスゾーン自身がピアノ、ヴァイオリンは友人のフェルディナンド・ダヴィッドが担当した。メンデルスゾーンのピアノ三重奏曲は一般的に2曲が知られている。他にメンデルスゾーンが11歳のときの1820年に作曲されたピアノ、ヴァイオリン、ヴィオラのためのハ短調のピアノ三重奏曲も存在するが、こちらは習作ともいえる作品であるため、作品番号が付けられていない。ピアノ三重奏曲第1番を聴いたシューマンは「ベートーヴェン以来、最も偉大なピアノ三重奏曲」だと評したという。曲は、4つの楽章からなる。

 今夜のメンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲第1番 ニ短調 作品49の演奏は、この作品を聴くに相応しいロマン派の薫りが馥郁と漂う演奏に終始して、時間の流れを忘れるほど内容の充実した演奏となった。奏者3人の意気がピタリと合い、やや早めのテンポが結果的に聴きやすいものに仕上がっていた。ロマン派の作品はともすると、情緒に溺れる演奏内容となりがちだが、今夜の演奏のように、テンポをやや早めとすることで、現代の聴衆にも十分アピールできたようだ。今夜のメンバーは、かつての名ピアノ三重奏団「ボザール・トリオ」で活躍したチェロのアントニオ・メネセスの呼びかけで集まったそうであり、それだけに、あたかも常設のピアノ三重奏団のような気の合った演奏内容が特に心地よかった。


 今夜の次の曲は、チャイコフスキー:ピアノ三重奏曲 イ短調 作品50 「偉大な芸術家の思い出」。この曲は、1881年から1882年にかけて作曲された。旧友ニコライ・ルビンシテインへの追悼音楽であるため、全般的に悲痛で荘重な調子が支配的である。作品に付された献辞にちなんで「偉大な芸術家の思い出」という副題(通称)で知られている。同作品、とりわけ第2楽章は、ピアノに高度な演奏技巧が要求される。50分近い演奏時間にもかかわらず、息を呑むような抒情美や、壮大かつ決然たる終曲によって、今なお人気が高い。表向き2つの楽章で構成されているが、第2楽章の最終変奏が長大なため、その部分が実質的な終楽章の役割を果たしている。

 今夜のチャイコフスキー:ピアノ三重奏曲 イ短調 作品50「偉大な芸術家の思い出」の演奏は、比較的ゆったりとしたテンポで、あたかも物語を紡ぎ出すような演奏に終始し、この曲の持つもう一つの側面を覗き見る思いの演奏内容であった。この曲の演奏は、チャイコフスキーの旧友ニコライ・ルビンシテインへの追悼音楽という側面だけ強調され、悲痛な感情がことさら強調されがちだが、今夜の演奏は、この曲が持つ雄大な構成力の表出に力を置き、これがものの見事に成功した演奏と言ってよかろう。第2楽章の変奏曲は、一つ一つの変奏曲の性格が丁寧にくっきりと表現され、なかなか小気味よかった。今後、この3人で常設のピアノ三重奏団が結成されたら、どんなに素晴らしいことか。
<蔵 志津久>
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