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クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽CD◇メンゲルベルクのシューベルト:交響曲第7番「未完成」/第8番「ザ・グレート」

2010-09-22 09:27:13 | 交響曲(シューベルト)

シューベルト:交響曲第7番「未完成」
        交響曲第(8)9番「ザ・グレート」

指揮:ウィレム・メンゲルベルク

管弦楽団:アムステルダム・コンセトヘボウ管弦楽団

CD:phono-museum MENGELBERG EDITION Vol.1

 今回は、いわゆる歴史的名盤という範疇に入るCDの紹介である。ウィレム・メンゲルベルク指揮、アムステルダム・コンセトヘボウ管弦楽団のシューベルト交響曲第7番「未完成」と交響曲第(8)9番「ザ・グレート」が1枚に収められている。歴史的名盤というと、リスナーとしても何がしかの覚悟がどうしても必要となってくる。それは、ほとんど神様とでも言った方がよいアーティスト達が演奏するので、どう演奏しようと「なるほど凄い」という結論になってしまうからだ。それではリスナー魂が泣こうと言うものだ。要するに歴史的名盤であっても「良いもの良い」「悪いものは悪い」(歴史的名盤に、悪いものはそうありませんけどね)とけじめを付けて聴くことが肝要になる。それに歴史的名盤は音質が期待できない場合がほとんどだ。しかし、橋にも棒にも掛からない音質ならともかく、鑑賞にはそう支障がないものもあるので、これらの見極めが大切となる。今回のCDは、ノイズがあちこち出てきて閉口するが、音量が豊富な点(特に「未完成」)が評価できるので、音質の総合点では合格点すれすれだ(その
逆に、ノイズは無いが、音がなんとも貧弱な歴史的名盤を、無条件に持ち上げるリスナーに対して、私は常に一線を置くことにしている)。

 このCDは、音質はぎりぎり合格点であるが、演奏家が神様がともなると、評価が聴いても聴かなくても、「良い」ことになってしまうので恐ろしい。大分昔、ある雑誌のCD評価で「これは素晴らしい、この演奏家しか成し得ない名演盤」と書いておいて、翌月号で「前号で紹介したCDの演奏者は、録音の際に間違って記載されたもので訂正します」と載っていた。こうなると「この演奏家しか成し得ない」と書いた当の評論家は引っ込みがつかなくなる(宇野功芳氏のように神様フルトヴェングラーであろうと駄盤と切って捨てる猛烈評論家もいることにはいるがごく少数だ)。今回のウィレム・メンゲルベルクは、その昔、泣く子も黙る超名指揮者だった。名前を聞いただけで、体が硬直してしまい、評論なんてとんでもないというくらいの神様的存在であった。

 ウィレム・メンゲルベルク(1871年―1951年)は、ドイツ人を両親に持つオランダ人の指揮者である。1895年にアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の首席指揮者に就任した。オランダの名門オーケストラの首席指揮者に24歳のとき就任したのだから、その才能は若いときから突出していたようだ。驚くべきことにアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の首席指揮者として1945年まで活躍したので50年間在籍したことになる。今で言えばギネスブック入りということになろう。1922年―1930年の間は、ニューヨーク・フィルハーモニックの首席指揮者も兼任している。さらに1930年―1931年ロンドン交響楽団の首席指揮者も務めていた。第2次世界大戦中はナチスドイツと近い立場にあり、そのため戦後は追放処分に遭い、その後解放されることなく世を去っている。この辺が、他の大指揮者に比べ、知名度はともかく、一般的な人気が低い要因となっているようだ。逆に一部の熱烈な支持者からは、今日に至るまで神様の存在として生き続けている(バッハの「マタイ受難曲」などは今でも入手でき、高い評価を得ている)。

 さて、前置きが長くなった。CDを聴いてみよう。このCDに収められたシューベルトの2つの交響曲は、1942年11月にコンセルトヘボウで録音された。ここでのメンゲルベルグは、「未完成」においては、男性的な指揮ぶりに徹しており、「未完成」の持つ図り知れない生命力を遺憾なく発揮しているのが印象的だ。現代の指揮者は「未完成」を振るとき、余りにもディテールに拘りすぎ、美しい「未完成」を描き過ぎるではないではなかろうか。これは、リスナーがそのようなもの要求するから、自然にそうなっただけと私は思っている。リスナーはただ受身で聴いていたのではダメなのだ。“「未完成」=美しい”だけではいけないのだ。男性的な力強さと生命力を持ったシンフォニーが「未完成」の真の姿であると思う。70年近く前のメンゲベルクのこの指揮ぶりは、このことをはっきりと示しており、その存在意義は今でも少しも薄れていないと私は思う。その意味でこのCDは歴史的名盤というより、私にとっては現役盤と肩を並べる位置づけである。一方、「ザ・グレート」の方は、「未完成」ほど力強くはないが、それでも雄大なシューベルト像を描き出そうとしている点は、「未完成」と同じである。(蔵 志津久) 


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