御託専科

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東京学生映画祭に行って来た

2015-05-31 08:52:38 | 時評・論評
縁あって東京学生映画祭に行って来た。
初日の金曜日がアニメ、2日目3日目が実写で、2日目を見た。
4本の出展作品と、1本の海外学生映画の特別映写があった。
4本の作品は以下のとおり。

自転車の外へ(多摩美):閉塞した島での高校生の生活、そこから抜け出そうとする主人公の姿。古いカメラとそれを狙う銃を持った中国語を話す女がスパイス。

日陰のスワン(早稲田):合唱団のピアニストの座を新入りの男の子に奪われる女の子の話。そのつらさとそれを受入れアルトに回って歌うことに積極的に取り組む姿を描く。

雲の屑(多摩美):田舎の閉塞した人間関係を、その中で展開されるネットワークビジネスと東京から帰ってきた凶暴な男を中心とした暴力から描く。

みんな蒸してやる(多摩美):案山子になりたい男の子とその男を慕う妙な女の子の物語。小ネタの連続で展開してゆく。

実写部門の審査員は大林、深田、古館。


作品に関して、また審査員のトークに関していろいろ感想はあるが、現時点では審査の結果が出ていないので記載しない。審査の結果が出たあと編集しなおす。

ひとつだけ海外作品の特別上映について、これは審査に直接関係しないので感想を言っておく。

作品の名前は「アルバート」。ポーランドの映画らしい。役者の迫力がすごいね。また荒涼とした工場地帯の光景が印象的。そこで働くアルバートは、食事やリラックスする時間さえも管理された工場労働者である。途中ねずみをひそかに飼うが、処分させられてしまう。隣に居た年老いた従業員は、咳が止まらず生ごみと一緒に運ばれてしまった。なにやら1984みたいな話。
しかし率直に言って古いね。ついこないだまで社会主義国であったポーランドではあのように時間がとまっているのだろうか?そのような世界がまだ記憶に新しいのだろうか?なんか不思議だね。
僕たちの現代の課題は、社会のほとんどの人が自由にある程度以上豊かな暮らしをしつつも何かに従属しているような、あるいは不安に押しつぶされそうな気分を持っていることなんだよね。ケインズの言う「孫たちの経済的可能性」を実現してなお人間が幸せにならないのは何でなのか、ということだよね。そういう視点から見ればこの話はもう済んだ話である。いったいどこが高く評価されたのかわからない。ま、学生映画だからこんなもんかなあ。

本日の夜に改稿します。

6/6追記:その日の夜に感想を書くつもりが1週経ってしまった。賞は「雲の屑」が観客賞もグランプリももらう総なめ状態だったようだ。それ以外はこの日のものは賞なし。
で、僕の感想。

自転車の外へ:題名がダサイよね。自転車でいける外、島の外の世界へ、という希求と希望を描く、ということであればもう少し題名もあったような気がするなあ。さてストーリーだが、確かにじいちゃんも父ちゃんも土方だとか、たった4レーンしかないボーリング場だとかそこで会うのは同級生で男でつるんでるとホモと簡単に言われるとか、島の閉塞を表現した場面は少なからずある。最後に丘に登ってカメラを構えフラッシュが光る場面で終わる。外への意思を象徴した場面かな。こういう風にせんをひけばまあいいかな、と思う。が、古いカメラの意味がいささかなぞだし、それを取りに来る中国語を話す銃を持った女とかその依頼者、最後の場面での発砲を含む両者のいさかいとかわけわからんので、そっちのほうの派手な動きに頭が行くと閉塞だのなんだのは印象から外れてしまう。もっとじとっとした閉塞を救いない感じで静かに描いてもらいたいと思った。

日陰のスワン:これはストーリーと画面が一番まとまっていたかな。その分印象が薄味だったと思う。案外余白が悪くないよね。ピアニストの座を奪われたあとのヒロインが静かに夜にピアノに向かっているところとか、奪った男の子と囲碁をしたあとの一人顔とかね。しかしヒロインが先輩に襲われそうになる場面は必要だったのかなあ?あれなしでもいいような気がする。

雲の屑:これは賞もとったし評価も高い作品だな。男の世界の不条理な暴力性のある交友というのは良く描かれているなあとは思った。要は「ブラック」ってやつね。ただ、最も凶暴な男の暴力が突出しすぎていて、それだとあいつが悪いって感じになる。実はネットワークビジネスやっているやつもその周辺も十分に暴力的な人間であり、そのことも描かれているのだから、「スターリン」と呼ばれる男の凶暴性を少し抑えたほうが、不条理な暴力性のある交友の描写、という点では優れていただろう。あと、ヒロインの女子高生の役割が薄く感じられた。またスターリンの最後が異人にバットで殴られて終わりかい、って感じ。彼が死んでも不条理な暴力性のある社会は続くんだよなあ、ヒロインにも救いがないんだよなあ、ってところで終わるとよいと思った。

みんな蒸してやる:まあこれは小ネタの連続だから統一的にどうのこうのという話ではないが、監督さんは人並みではない発想を持つ人なんだという印象は強かったね。

あとは審査員。大林さんはもうだめだね。ピンとはずれだったりあまりに包括的過ぎて異論が出ないような話をするだけの人であったように思う。昔話はある程度面白かったが。深田さんは実に誠実で的確な評価をする人だと思う。作品へのコメントは実に的を得ていたし、「技術的進歩が映画監督の特権性をなくした、皆が競い合える時代である」という認識は実に鋭い。古館さんも面白くまた心得たコメントしてたね。




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