御託専科

時評、書評、そしてちょっとだけビジネス

「コンサルティングの悪魔」Lewis Pinault

2009-05-09 08:07:52 | 書評
2000年12月の第二刷を買っているからもう10年近く前に読んだわけだ。そのときも面白いと思ったけど、ここで取り上げられているようなコンサルに似た部門を持つ職場が身近になった分、より実感が湧くね。これが結構精密な描写であることが感じられた。

前に読んだときの大局的感想は、要するに「コンサルとはハッタリをかませて大金を巻き上げて結果に責任を持たない仕事であり、まともな神経の人間がやることではない」というものであった。うん、これは変わらないね。
ただ、今になって思うと「コンサル」部分はかなりいろいろ入れることが出来るなあ、と思うね。結果を保証しない商売はすべてそうだなあ。運用や、弁護士とか、もしかしたら医者も含め。それから、たとえば社内政治なんかでの勝ち残りというのも似たようなもんじゃないかな。世の中で「うまいことやる」というのは、要するにそういうことだ。結果を保証しないが(というか保証しないからこそ)大きな実入りがある部門に行き、知性と回転の早さとずるがしこさとハッタリ(これ、カリスマと言われることもある)で勝ち残る、ということだ。古今変わらないが新自由主義のもとでえらくそれが拡張された感はある。

そんなわけで、コンサルに対する敵意を強化する本として読むというよりも、処世の書として面白く読んだなあ。まあ僕はほとんど手遅れだけど、若い人には是非薦めたいなと思う。パートナーというポジションを目指して職場を変えたり一旦独立したりして、ようやくではあるがたどり着く、なんてのは自分のキャリアでは発想しなかったよねえ。時代が時代だったから、職場を変えるという発想さえ結構大変なことだったしなあ。でもこれからは著者のような生き方を念頭において、ゲームとしての達成すべき目標をあらゆる手段で追求する、というのが当たり前の心がけとなるんだろうね。

今回改めて印象に残ったのは「顧客の恐怖の拡大」というやつね。モートローラの日本の営業ヘッドから百姓に転じた杉山さんが、「新しい需要の発掘というのは、既に現状に満足している人にその満足は間違いだ、と思わせる仕事なのだ」と言うようなことを言ってたのをピンと思い出した。なるほど、コンサル営業ってそういうことね、と妙に納得(コンサル業務の売り込み、ということと、ニーズ喚起をしてモノを売り込む、というのが重なった言葉になっているが、どちらも顧客の現状安住を揺さぶることには変わりない)。

ということで。大雑把な感想は前とあまり変わらず。ただ実感が増した分、本書の「実用的価値」は大変高いと今回は感じた次第。各章の「悪魔学」でまとめられた話は時々目を通す価値はありましょう。

ところで2点。ひとつは、「翻訳が悪い」と言っているブログなどが多いのに少々驚いた。原文が言っている内容の複雑さ・多様さの反映以上のものではないと思われる。むしろ、かなり練達の訳といえるんじゃなかろうか。まあ、あまたのビジネス書や自己啓発書と比べれば濃密な文章ではあるがね。これが悪文じゃあ三島由紀夫も悪文になっちゃうね。

もうひとつ。著者はいまレゴで、ビジネスむけワークショップでのレゴの利用を指導しているようだ。なんだか前の仕事(コンサルでのファシリテーション)に少し戻ったみたいだが、レゴってのは妙にほほえましいね。それから、文中「モリカワ」とされている堀さん。いまドリームインキュベーターの社長なんだね。10年近くやってあんまりうまくいってないね。ま、コンサルなんて所詮こんなもんだろう。お、そういえばマッキンゼー発のDENAは成功してたっけ。きめつけちゃいかんね。そう言えばどっかのベンチャー証券にいたごろつきどもがドリームインキュベーター証券に行ったなんて話が出てたけど、あれどうなったのかなあ。