御託専科

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マーク・トウェイン「不思議な少年」

2009-05-06 21:21:03 | 書評
「トム・ソーヤの冒険」などの明るく楽天主義的な作風で知られるマーク・トウェインは晩年奇怪な程までの人間不信とペシミズムに陥り、これはその彼の最後の作品である。というのは訳者・解説者の一致した言い方。
しっかしなあ、なんかそういう言い方は妙にへんなんだよね。訳者である中野好男ともあろうお方がそんな浅い理解なのか、解説者の亀井氏もれっきとした英文学者だろうし。
「ハックルベリー・・・」とこの本しかマークトウェインは読んでいないんだけど、どっちもトーンは良く似てるように思われるなあ。トウェインは皮肉屋だよ。で、ハックは現実に行動しなきゃならんからそっちに忙しくてそこでは現実主義と楽天主義が幅を利かせるけど、この本みたいに観察と思索が主体になると皮肉な目が強くなるなあ、と思うよ。「浮世は夢よ、ただ狂え」だよね。この本でいっているような決定論というか機会的運命論の上の主観的夢としての世間や人生というのが「浮世は夢よ」だし、だから楽しく生きるので「ただ狂え」ってわけだ。
ところで13章は確かにとって付けた章らしくわかりにくいね。独我論、をいっているのかとも思うが、その一方で「僕」のことを神であると喝破し、その理不尽さを論難しているという風にも見える。キリスト教批判なのかな、とも思う。