御託専科

時評、書評、そしてちょっとだけビジネス

佐藤 優 「国家の自縛」

2005-11-21 17:01:49 | 書評
前読んで感心した佐藤優氏の本があったので買って見た。
今回は対談のせいもあってややカジュアルな論議である。それでも彼の論議には哲学的・社会思想的背景がかなり詰まっていることはよくわかる。むしろ対談のカジュアルさのお陰でそれらが割と容赦なく出てくるのでちょっと消化不良。ケインズ対ハイエク、ネオコンの思想とキリスト教、神皇正統記からの国体思想、大川周明などなど。こちらの知識不足もあるが、やや論議不足の感は否めない。
例えばケインズとハイエクを並べて対照的思想としているが、ケインズ的社会思想に対立するものとしてハイエクが一番ぴったりなんだろうか、他にもありうるのでは、と思う。また、ハイエク的に深く考察された自由思想がいまの世の動きの哲学的背景なんだろうか? 実際の動きはもっと世俗的で実務的に見える。要は従来モデル(ケインズ的)が働かない環境となったので国も企業もそれに対応し、個人もやむなく対応しているのではなかろうか。ケインズ的世界を作り上げるには思想的背景が必要だったと思うが、それをほどくのはそれほど思想を必要としないように思う。
とまあ、あれやこれやないわけではないが、疑問な部分も含め刺激となった。一章二章で述べられている外交の本来の原則群はその通りだな。個人・企業にも通じる普遍的要素がある。普遍的であるとは常識的であるということだが、その部分が振れない、というのは大事であり偉大なことなんだろう。奇人的・怪物的に取り上げられがちの佐藤氏だが、奇策の人ではなく正攻法の人であることを改めて確認した。