御託専科

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「神々の沈黙」 ジュリアン ジェインズ

2005-11-07 09:23:06 | 書評
うーん、参ったね、この本は。認識を飛躍的に変更させてくれる本と言うのは10年に1度か2度しか出合わないが、これはまさにそれだね。僕にとってはクーンの「科学革命の構造」とかドーキンスの「ブラインドウォッチメーカー」とか養老猛の「唯脳論」とかマッハの「感覚の分析」などがそれにあたる。いまは読後の余韻がある中なのでそれらに匹敵するどころかはるかにしのぐイメージを持っている。
さて、どこから手をつければいいんだろう。すごく乱暴にまとめるとこんなところか。
・かつて右脳は神だった。
・人々は白昼普通のこととして神の声を聞き、神の姿を見、そのメッセージに従っていた。人々はほとんどすべて今で言えば統合失調症患者だった。
・右脳支配の社会構造がはらむ脆弱性と言語(特に書き言葉)の発達により神の声は意識=主観にとって代わられた。
・神の声が聞こえなくなった人々は、迷いのない右脳時代(二分心時代)へのノスタルジーを強く持っている。
・宗教は二分心時代への希求の表現である。また、確実性を求める科学・占いなどもその一環である。

恐るべき仮説である。そのような目で旧約聖書を読むと確かに著者もいっている通り神が沈黙し空のかなたに消えて行く過程の記述として大変よく出来ている。神秘のあり方とか、神話の荒唐無稽さとかがすべて説明がつく。神の像などの意味も。確実性を希求する知的活動のすべてもそうだ。芸術のトランス的効果なども。これはものすごく応用範囲が広い。

チクセンミトハイのフロー理論もこの範疇に入っては来ないか?二分心の充足した心理を取り戻すための行動とはなにか、という観点から眺めることが出来る。
また、社会的ヒエラルキー構造を作る心理もよくわかる。支配者に都合がよい構造、という観点で見られがちだが、二分心時代から意識の時代への過程の中で迷いなく従うべき指示の構造はやすやすと受け入れられたしまた必要でもあったのだろう。
キャンベルのいう神話の力も要研究だ。神話の荒唐無稽さがなぜ訴求力をもつのか。それは二分心時代の物語だからだろう。祖先たちの夢=現実を記したものには我々に強く訴えるものがある。ならば現実を神話的に理解すれば? これは少し考えてみよう。

他のよい本と同様、読了しても手放せず、拾い読みとも読み直しともつかぬことをしつつ名残を惜しみまた新たな発見をしているところである。そのうち再論する。