憂さ晴らしに、酒の力を借りるのは無駄かも――。東京大学の松木則夫教授(薬品作用学)らが28日、そんな研究結果を発表した。
ラットを使った実験で、薄れかけた恐怖の記憶をアルコールが鮮明にする役割を示したという。成果は米国の専門誌に掲載された。
松木教授らは、ラットをふだんの飼育環境と違う箱に移し、電気ショックを与えた。いったん通常の飼育環境に戻し、翌日、恐怖を与えた箱に戻した。ラットが箱の中でじっと動かない時間の長さから、「恐怖記憶」の度合いを測った。
再び箱に入れて恐怖記憶を呼び覚ましたラットを2グループに分け、片方にアルコールを飲ませた。すると、酔ったラットは、しらふのグループより、箱の中でじっとしている時間が長くなった。恐怖記憶が、アルコールによって強められたと考えられるという。
松木教授は「記憶はいったん不安定になり、徐々に固定していくとされる。嫌なことを忘れる奥の手は、おぼろげなうちに、楽しい記憶で上書きしてしまうこと」と酒に頼らない忘れ方を勧めている。
[読売新聞2008年02月28日]
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20080228-OYT1T00540.htm
【やけ酒は傷癒やせず、嫌な記憶を固定 ネズミで実験】=東京大学
嫌な体験を思い出した直後にアルコールを取ると、嫌な記憶を忘れにくくなる――。松木則夫・東京大教授(薬品作用学)らのネズミの実験で意外な結果が出た。米専門誌で報告した。
何かを体験するときに酒を飲んでいると記憶が残りにくいことはよく知られており、動物実験でも確かめられている。松木さんらは、体験を思い出し再記憶する際にもアルコールは同様に邪魔すると予想したが、結果は逆だった。
ネズミをふだんとは違う箱に移し、電気ショックを与える。翌日その箱に入れるとショックを思い出し、ショックなしでもすくんで動かなくなる。その直後に一方のネズミには体重1キロ当たり1.5グラムと、人間なら泥酔状態になる量のアルコールを、もう一方のネズミには食塩水を注射する。
3日目に箱に入れると、予想に反し、アルコールを注射したネズミの方がより長い時間すくんだ。2週間後でも同様の結果だった。
人間でも当てはまるならば、嫌な出来事を思い出しながら深酒すると、酔いが覚めてもむしろ嫌な記憶が強くなることになる。
共同研究者で東京大大学院生の野村洋さんは「記憶を思い出したときに、無関係な情報が入ってくると記憶の『再固定』が邪魔される。アルコールは余計な情報が入るのを抑えるのではないか」とみている。
楽しい経験や試験勉強の再記憶などいいことでも、アルコールに同様の効果があれば役に立つかも知れないが、残念ながらネズミではうまい実験法がなく、確かめられていないという。
[朝日新聞 / 2008年03月07日]
http://www.asahi.com/science/update/0307/TKY200803070223.html
ラットを使った実験で、薄れかけた恐怖の記憶をアルコールが鮮明にする役割を示したという。成果は米国の専門誌に掲載された。
松木教授らは、ラットをふだんの飼育環境と違う箱に移し、電気ショックを与えた。いったん通常の飼育環境に戻し、翌日、恐怖を与えた箱に戻した。ラットが箱の中でじっと動かない時間の長さから、「恐怖記憶」の度合いを測った。
再び箱に入れて恐怖記憶を呼び覚ましたラットを2グループに分け、片方にアルコールを飲ませた。すると、酔ったラットは、しらふのグループより、箱の中でじっとしている時間が長くなった。恐怖記憶が、アルコールによって強められたと考えられるという。
松木教授は「記憶はいったん不安定になり、徐々に固定していくとされる。嫌なことを忘れる奥の手は、おぼろげなうちに、楽しい記憶で上書きしてしまうこと」と酒に頼らない忘れ方を勧めている。
[読売新聞2008年02月28日]
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20080228-OYT1T00540.htm
【やけ酒は傷癒やせず、嫌な記憶を固定 ネズミで実験】=東京大学
嫌な体験を思い出した直後にアルコールを取ると、嫌な記憶を忘れにくくなる――。松木則夫・東京大教授(薬品作用学)らのネズミの実験で意外な結果が出た。米専門誌で報告した。
何かを体験するときに酒を飲んでいると記憶が残りにくいことはよく知られており、動物実験でも確かめられている。松木さんらは、体験を思い出し再記憶する際にもアルコールは同様に邪魔すると予想したが、結果は逆だった。
ネズミをふだんとは違う箱に移し、電気ショックを与える。翌日その箱に入れるとショックを思い出し、ショックなしでもすくんで動かなくなる。その直後に一方のネズミには体重1キロ当たり1.5グラムと、人間なら泥酔状態になる量のアルコールを、もう一方のネズミには食塩水を注射する。
3日目に箱に入れると、予想に反し、アルコールを注射したネズミの方がより長い時間すくんだ。2週間後でも同様の結果だった。
人間でも当てはまるならば、嫌な出来事を思い出しながら深酒すると、酔いが覚めてもむしろ嫌な記憶が強くなることになる。
共同研究者で東京大大学院生の野村洋さんは「記憶を思い出したときに、無関係な情報が入ってくると記憶の『再固定』が邪魔される。アルコールは余計な情報が入るのを抑えるのではないか」とみている。
楽しい経験や試験勉強の再記憶などいいことでも、アルコールに同様の効果があれば役に立つかも知れないが、残念ながらネズミではうまい実験法がなく、確かめられていないという。
[朝日新聞 / 2008年03月07日]
http://www.asahi.com/science/update/0307/TKY200803070223.html