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医学研究関連記事の新聞紙面から切り抜き
再生医療、薬理学、生理学、神経科学、創薬

抗癌活性のある血管内皮細胞障害物質フェニラヒスチン誘導体の開発に成功=京都薬科大学

2006年07月29日 | 創薬
 京都薬科大の林良雄助教授(創薬化学)らの研究グループは28日、がん細胞の周囲の血管を壊す化合物を開発したと発表した。新しい抗がん剤として期待できるといい共同研究を進める米バイオベンチャー会社が米国で臨床試験を始める。

 がん細胞は、増殖に必要な栄養と酸素を得るため、周囲に血管を作り細胞へ引き入れる。この新生血管の内皮細胞はチューブリンというタンパク質の繊維でできており、繊維を壊せば、がん細胞を死滅させることができる。

 林助教授らは、土壌中の微生物が作る天然化合物フェニラヒスチンの一部構造を変えた化合物を開発。投与するとチューブリンの繊維を断片化して新生血管が破壊され、がん細胞が死滅することをマウスなどの実験で確かめた。

 チューブリンは細胞分裂にも不可欠で、その機能を阻害することで、がん細胞の増殖を抑える抗がん剤はすでに臨床で用いられている。林助教授らが開発した化合物は新生血管を壊す効果がより高いという。

 臨床試験は米国の医療機関で実施する。乳がんや大腸がんなどの患者の登録を始めており、抗がん剤としての効果と安全性を確かめる。林助教授は「ほかの抗がん剤との併用で、より高い治療効果を期待できるのではないか」と話している。                
[2006年07月29日/京都新聞]

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060729-00000018-kyt-l26

マウスの不安行動を制御する大脳内の仕組みの一端を解明=理化学研究所

2006年07月28日 | 心のしくみ
 脳内の情報伝達に重要な役割を果たすセロトニン(5-HT)は、行動の動機付けや快感時に神経細胞から分泌されるドーパミンや、恐れや驚きなど不快時に分泌されるノルアドレナリンと同じ神経伝達物質の一つです。セロトニンの働きが阻害されると、ドーパミンやノルアドレナリンなどによる情報伝達をコントロールすることができず、精神状態が不安定になり、“うつ”などの精神症状や不安行動を引き起こすと考えられています。しかしながら、脳内のどの部位で、どのようにセロトニンが関与することにより、このような症状を引き起こすかは、よく分かっていませんでした。

 国際研究チームでは、不安や“うつ”関連行動に関する脳内での作用メカニズムを明らかにするため、神経細胞から分泌されたセロトニンを、次の神経細胞に伝える役割を果たす10数種のセロトニン受容体のうち、その1つ(5-HT2A)を全身で働かなくしたマウスを作成し、実験を行いました。このマウスに、不安や“うつ”関連行動を客観的に解析する「高架式十字迷路」などの課題を与えたところ、1つのリスク(不安)に対して、1つの選択肢しかない場合には、通常のマウスと違いが現れませんでした。一方、2つ以上の選択肢があった場合、通常のマウスであれば葛藤の上、より低いリスク(不安)を選択しますが、5-HT2A受容体を欠損させたマウスでは、葛藤もせず、高いリスクを高頻度に選択しました。さらに、行動遺伝学技術開発チームが開発した技術を用い、マウスの大脳皮質だけで5-HT2A受容体の機能を回復させたところ、通常のマウスと同じ行動を示すようになりました。これらの結果から、大脳皮質における5-HT2A受容体が、セロトニンの分泌にともなう、葛藤的不安行動に深く関与していることが分かりました。

 セロトニンは、複数の受容体を介して多くの生命現象をコントロールしています。今回、不安行動を制御する仕組みの一端が明らかになったことにより、不安や情動障害などの薬物治療に対して、より有効性の高い方法を確立できる可能性があります。

[2006年07月28日/理化学研究所プレスリリース]
http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2006/060728/detail.html

Cortical 5-HT2A Receptor Signaling Modulates Anxiety-Like Behaviors in Mice
Science 28 July 2006:Vol. 313. no. 5786, pp. 536 - 540
DOI: 10.1126/science.1123432
http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/313/5786/536

(写真はマウスの行動を解析して不安を評価する時に用いる高架式十字迷路)