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医学研究関連記事の新聞紙面から切り抜き
再生医療、薬理学、生理学、神経科学、創薬

「脳内マリフアナ」、小脳での運動学習能力に影響=大阪大学

2006年08月24日 | 心のしくみ
 脳内ではマリフアナに似た「脳内マリフアナ」と呼ばれる物質が作られているが、この物質が小脳での運動学習能力に影響していることを大阪大の狩野方伸教授(神経生理学)らのグループが解明した。狩野さんは「運動音痴に悩む人や運動神経に優れた選手など、運動の学習能力に差が生まれる仕組みの解明につながる可能性がある」としている。米科学誌「Journal of Neuroscience」に24日、掲載された。

 脳の神経細胞は、シナプスと呼ばれる接続部分で、グルタミン酸などの物質を受け渡すことで情報を伝えている。狩野さんらは01年、グルタミン酸が出過ぎて情報伝達が過剰になると脳内マリフアナが神経細胞から出され、神経の過剰な興奮を抑えるブレーキ役になっていることを解明した。

 今回は、脳内マリフアナの受容体であるCB1というたんぱく質が、動物の運動を制御する小脳の神経細胞に特に集中していることに着目。CB1を遺伝子操作で働かなくしたマウスで、運動機能の変化を調べた。

 正常なマウスに一定の合図を聴かせた直後に目の周辺に電気ショックを与えると、1週間後には合図を聴いただけでまばたきをする割合が約7割になった。しかし、遺伝子操作のマウスでは3割以下で、実験前とほとんど変化がなかった。

 遺伝子操作したマウスでは脳内マリフアナによる神経伝達の異常が小脳で起きたため、神経反射など新しい運動パターンの学習ができなくなったと考えられるという。

[2006年08月24日/朝日新聞]
http://www.asahi.com/science/news/OSK200608240048.html

Endogenous Cannabinoid Signaling through the CB1 Receptor Is Essential for Cerebellum-Dependent Discrete Motor Learning
J. Neurosci. 2006 26: 8829-8837; doi:10.1523/JNEUROSCI.1236-06.2006
http://www.jneurosci.org/cgi/content/abstract/26/34/8829

学習や記憶に使われた神経細胞だけが生き残り神経回路に組み込まれる=ソーク研究所

2006年08月14日 | 遺伝子組替マウス
 「人生いくつになっても勉強」――そんな格言の正しさを示すような動物実験の結果を、米ソーク研究所グループが14日、英科学誌ネイチャー(電子版)に発表した。大人になっても神経細胞は新たに生まれ、学習や記憶に使われた神経細胞だけが生き残って神経回路に組み込まれる可能性が高いらしいという。

 グループは、遺伝子操作したマウスで学習や記憶にかかわる脳の領域で新たに生まれた神経細胞に蛍光色素を組み込んで見分けられるようにした。同時にこの神経細胞で特定の神経伝達物質の受容体が働かず、情報を受け取れないように遺伝子操作したマウスもつくった。

 両方のマウスを比べると、情報を受け取れなくしたマウスでは、新たに生まれた神経細胞の生存率が4分の1に低下していた。

 グループの田代歩さん(現ノルウェー科学技術大学研究員)は、「情報を受け取れない細胞は死に、情報を受け取った細胞が生き残って回路に組み込まれた。新たにできる神経回路には、学習した特定の情報が刻みこまれていることが示唆された」と言っている。

[2006年08月14日/朝日新聞]
http://www.asahi.com/science/news/TKY200608140136.html

NMDA-receptor-mediated, cell-specific integration of new neurons in adult dentate gyrus
Nature advance online publication 13 August 2006 | doi:10.1038/nature05028
http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/abs/nature05028.html

脳内にあった「腹時計」=JST柳沢プロジェクト

2006年08月01日 | 脳、神経
 JST(独立行政法人 科学技術振興機構=理事長 沖村憲樹)の研究チームは、動物を1日のうち一定の時刻でのみ摂食が可能な環境(時間制限給餌)におくと、これまで特定されていなかった脳内の部位で時計遺伝子が新たに概日周期注1を刻み始め、生存に必須な食行動を食餌の得られる時刻に合わせるように制御すること(食餌同期性)を明らかにしました。
 全ての哺乳動物は、様々な行動パターンを24時間周期で制御する体内時計(サーカディアン・ペースメーカー)注2を持っています。例えばマウスなど夜行性の動物の場合、いつでも餌がある状態では、視神経に直結した脳内の分子時計(「光同期性クロック」)によって、夜は行動・摂食し、昼は眠るように支配されています。しかし、餌が昼間の一定の時間帯でのみ得られる環境に置かれると、マウスはこのクロックを無視して、行動パターンを昼夜逆転させ、餌のある昼間に行動し摂食するように順応することが知られています。ところが、この「食餌同期性」の概日行動パターンを支配しているはずの体内時計がいったいどこにあるのかは、これまで全く不明でした。
 今回研究チームは、通常飼育環境下のマウス(自由給餌)と昼間の一定の時間帯でのみ摂食できる環境に置かれたマウス(昼間制限給餌)からそれぞれ脳を取り出して、時計遺伝子注3の24時間発現パターンをあらゆる脳部位でくまなく比較しました。その結果、脳内の視床下部背内側核と呼ばれる場所において、昼間制限給餌下でのみ時計遺伝子(「分子腹時計」)が24時間周期でスイッチオン・オフし始めることを見出しました。
 近年、ヒトにおいては、睡眠時間や食事の時刻などのライフスタイルと、肥満やメタボリック・シンドローム注4の発症との間に密接な関係があることが注目されています。今回、分子腹時計が脳内のどこに局在するのかが突き止められたことにより、この腹時計がいかにして食餌によって制御され、またいかにして食欲・食行動を支配しているのかを解明してゆくための、最初の突破口が開かれました。将来、ここから肥満や生活習慣病を予防する新たな手段が発見されることが期待されます。
 本研究成果は、JST創造科学技術推進事業(ERATO)柳沢オーファン受容体プロジェクト(総括責任者:柳沢正史 テキサス大学教授)が、東京医科歯科大学難治疾患研究所(三枝理博助手)、ハワード・ヒューズ医科学研究所、およびテキサス大学との共同研究で得たもので、米国科学アカデミー紀要(PNAS)オンライン版に2006年7月31日(米国東部時間)付けで公開されます。

[2006年08月01日/科学技術振興機構プレスリリースNo.318]
http://www.jst.go.jp/pr/info/info318/index.html