ラットは今日も、きみのために。

マウスも研究者も頑張っています。
医学研究関連記事の新聞紙面から切り抜き
再生医療、薬理学、生理学、神経科学、創薬

がん増殖の謎解明 無酸素で代謝細胞死防ぐ=山形大学

2006年10月25日 | 癌、腫瘍
 がん細胞はなぜ、細胞死(アポトーシス)せずに増殖するのか―。山形大医学部の北中千史教授=腫瘍(しゅよう)分子医科学=らのグループは24日、がん細胞がエネルギーを生み出す際、あえて酸素を利用しないことでアポトーシスを防いでいるメカニズムを発見したと発表した。研究は、米国立がん研究所刊行の世界的ながん専門誌(18日付)に掲載された。

 酸素を使わず、ブドウ糖でエネルギーをつくるがん細胞の性質は約80年前、ノーベル賞受賞者のオットー・ワールブルグ博士(ドイツ)が突き止めている。だが、増殖に多量のエネルギーが必要ながん細胞がなぜ、効率の悪い方法を行うのかは、長年の謎だった。

 北中教授らは、がん細胞が酸素を使わないことで、細胞内のミトコンドリアの膜に付着し、アポトーシスを引き起こすBax、Bakという2つの分子の活性化を回避していることを発見した。

 2つの分子は、一定のシグナルが細胞内に生じると急に暴れだし、ミトコンドリアに穴を開け、毒となる分子をまき散らす。いわば、アポトーシスの「スイッチ」。酸素を使ってエネルギー代謝する場合と、酸素を使わない状態で、これらの分子の働きの違いを調べた結果、酸素を使わない状態では「スイッチ」が動かず、アポトーシスも起きなかった。

 がん細胞は正常の細胞と違い、ミトコンドリアではなく、細胞内の別の場所でブドウ糖を使ってエネルギーを産出していることも分かった。酸素を必要としないため、ミトコンドリアに付着する2つの分子が活性化しないという。

 がん細胞を酸素を利用する状態に移すことができれば、アポトーシスに導くことが可能になる。研究グループは、がん細胞内のエネルギーの代謝状態を変えるため、幾つかの種類の薬品を組み合わせることで、臨床に応用できないか研究している。

 北中教授は「がんに潜んでいる治療抵抗性に挑むための突破口になる。放射線や抗がん剤と併用すれば、より治療効果が向上するのではないか」と期待する。

[河北新聞 / 2006年10月25日]
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20061025-00000006-khk-toh
(室蘭民報)
http://flash24.kyodo.co.jp/?MID=RANDOM&PG=STORY&NGID=soci&NWID=2006102401000679

JNCI誌、アブストラクト
http://jncicancerspectrum.oxfordjournals.org/cgi/content/abstract/jnci;98/20/1462

武田薬品工業、藤沢に新研究所 新薬の研究開発を加速

2006年10月25日 | 創薬
 医薬品国内最大手の武田薬品工業は24日、新薬の研究開発を加速させるため、閉鎖した同社湘南工場跡地(神奈川県藤沢市)に中央研究所を新設する方針を固めた。藤沢市と大阪府茨木市のいずれかを候補地に検討してきたが、早期建設を目指す武田は、敷地を既に所有している藤沢市を選んだ。研究者は1000人規模に上り、製薬会社の研究所としては国内最大規模。10年度内の稼働を目指す。

 武田は、大阪市と茨城県つくば市と米サンディエゴ市に研究拠点をもち、研究者は計約1100人。このうち手狭な大阪工場(約850人)にある研究部門を順次、藤沢市に移す方針だ。

 投資額は500億~600億円に上る見込み。当初は約1000人規模だが、最終的に2000人規模に増員する計画もある。


 武田は、好調な業績を支えている抗潰瘍(かいよう)剤や糖尿病治療薬など主力4製品が09年以降に相次いで特許切れとなり、次の柱となる新薬の投入を急いでいる。大阪工場内の研究所は手狭な上、老朽化が進んでいた。国内外から人材を集めるには首都圏に近い藤沢市が優位と判断した。


 中央研究所の誘致をめぐっては、武田が本社を置く大阪府と、湘南工場跡地(06年3月閉鎖)がある神奈川県が昨年から綱引きを続けてきた。

[朝日新聞 / 2006年10月25日]
http://www.asahi.com/health/news/OSK200610240115.html

パーキンソン病に発症関与の酵素発見=山形大学

2006年10月14日 | 創薬
 パーキンソン病の発症に深く関与している酵素を、山形大医学部の加藤丈夫教授(神経内科)らが突き止めた。

 この酵素の働きを阻害する治療薬を開発すれば、発病の予防や進行の抑制が期待できそうだ。米科学誌「ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス」で発表した。

 パーキンソン病は、ふるえや手足の硬直などが特徴で、大脳の神経伝達物質の欠乏で起きる神経疾患。高齢者に多く、国内には約12万人の患者がいる。

 山形大医学部と、東京のベンチャー企業「ヒュービットジェノミクス」の研究チームは、パーキンソン病の患者286人と健常者496人の細胞を採取して比較した。

 その結果、細胞膜で刺激の伝達を調節する「GRK5」という酵素の遺伝子が、患者の細胞に大量に含まれていることがわかった。患者の脳の病変部位でもこの酵素の沈着が目立った。

 患者の脳では、特定のたんぱく質が化学変化を起こし、凝集する現象が起こる。この現象が進行することで、神経細胞が死に発病すると考えられている。研究チームは、GRK5が一連の現象を促進することも確認した。

[2006年10月14日/読売新聞]
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20061014it13.htm

軸索形成過程で“司令塔”の役割を果たすタンパク質を特定=奈良先端大学

2006年10月10日 | 脳、神経
 神経細胞が次の神経細胞に情報を伝える通路となる軸索ができる過程で“司令塔”の役割を果たすタンパク質を見つけたという研究結果を、稲垣直之奈良先端科学技術大学院大助教授(神経科学)らが米科学誌に9日、発表した。

 稲垣助教授は「脊髄損傷や脳卒中で軸索が切れ、障害が残った人の治療法を開発できる可能性がある」と話している。

 軸索は、神経細胞にあるスパイク状の短い樹状突起とは別に、細胞から1本だけ長く伸びた部分。

 稲垣助教授らは、高性能のタンパク質分離装置を開発し、神経細胞で軸索だけに集中するタンパク質を特定、「シューティン」と名付けた。ラットの実験で、このタンパク質は樹状突起ができる際に急激に増加、やがて1本の突起の先端部分に集まり、この突起が伸びて軸索になった。

 軸索形成にかかわるほかのタンパク質を誘導しており、シューティンが減少すると軸索の伸びが抑えられた。

[共同通信社 / 2006年10月10日]
http://www.kyoto-np.co.jp/article.php?mid=P2006101000003&genre=G1&area=N10

高脂血症治療薬フルバスタチンが脳梗塞に伴う記憶障害を緩和させる=大阪大学

2006年10月05日 | ラット
 高脂血症の治療薬として使用されているフルバスタチンに、脳梗塞(こうそく)に伴う記憶障害の症状を緩和させる働きがあることを、大阪大大学院医学系研究科の森下竜一教授(臨床遺伝子治療学)らのチームが解明した。ラットを使った実験では、脳の血管や神経の回復も確認された。日本人の死因の上位を占める脳梗塞の画期的な治療薬となる可能性が出てきた。

 森下教授らは脳梗塞の患者と同じ症状で実験するため、人工的に脳梗塞の状態にしたラットにフルバスタチンを3カ月間投与。その後、避難台を設置した水槽で泳がせ、避難台の場所を覚えさせる実験を実施した。

 避難台に到達するスピードを計測したところ、フルバスタチンを投与したラットは4日間で到達時間を約15秒短縮したが、投与しなかったラットはほとんど短縮できず、投与したラットが避難台の場所を記憶するなど、学習能力を回復していることが分かった。

 また、2種類のラットの脳を摘出して調べたところ、フルバスタチンを投与したラットは、脳梗塞で減少した脳の血管の数が正常に近い状態に戻ったほか、脳神経も再構築されたという。

 フルバスタチンは悪玉コレステロール値を下げる薬として広く使用されているが、森下教授らはその抗酸化作用の強さに注目。森下教授は「実用化までさらに臨床実験を進める必要はあるが、脳梗塞に有効な治療薬となるだろう。認知症の改善効果も期待される」と話している。6~7日に広島市で開かれる「第25回日本認知症学会学術集会」で、今回の研究結果を紹介する。

[産經新聞 / 2006年10月05日]
http://www.sankei.co.jp/news/061005/sha012.htm

脳の安定した情報処理、周辺細胞が同調活動=京都大学

2006年10月04日 | 心のしくみ
 脳が安定して情報処理をできるのは、ある細胞が死滅しても、周囲の細胞が補って活動する仕組みがあるためであることが、桜井芳雄・京都大大学院教授(神経科学)らのサルを使った実験でわかった。

 損傷を受けた脳の治療や、新たなコンピューター開発にもつながる研究で、4日付の米科学誌「ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス」電子版に掲載される。

 研究グループは、サルの記憶をつかさどる脳領域に電極を付け、細胞の活動を詳しく見た。その結果、画面に出る四角形の色の違いなどを記憶する際、働く脳細胞に近接した細胞の約8割が、1000分の1秒以内の精度で、ほとんど同時に反応していることがわかった。

 隣り合う脳細胞の信号を分離して検出し、細胞ごとの働きを解明することはこれまで技術的に不可能だったが、研究グループは信号の来る方向を正確に割り出す手法を確立。個々の細胞の信号検出に世界で初めて成功した。

[読売新聞 / 2006年10月04日]
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20061004i302.htm

[The Journal of Neuroscience]
"Dynamic Synchrony of Firing in the Monkey Prefrontal Cortex during Working-Memory Tasks"
http://www.jneurosci.org/cgi/content/abstract/26/40/10141

一酸化炭素が肺動脈高血圧症の治療に有効=ボストン

2006年10月02日 | 循環器
無色無臭で時に “サイレントキラー”(沈黙の殺人者)とも呼ばれる一酸化炭素(CO)に、肺動脈高血圧症(PAH)の治療効果が期待できることが、米国の研究で明らかになった。

PAHでは、肺血管壁が血液を効果的に送り出せないほどに肥厚し、重篤な心肺合併症、特に心臓発作を引き起こす危険性が高い。現在のところ、治癒させる治療法はない。

米医学誌「Journal of Experimental Medicine」9月号に掲載された米ベス・イスラエル・ディーコネス医療センター(ボストン)とピッツバーグ大学(ペンシルバニア州)の共同研究では、 低用量の無毒性の一酸化炭素をPAHマウスに連日短時間曝露させ、治療効果を検討した。

その結果、PAHは改善し、血圧と心臓の重量が正常値に戻った。このことは、差し迫った心不全の危険が回避されたことを意味する。

さらに研究では、一酸化炭素の効果は、PAH患者で無制御に増殖する平滑筋細胞を破壊することで発揮されることが明らかになった。その際、一酸化炭素は健常な細胞に影響を与えることなく平滑筋細胞を破壊した。

論文著者の米ハーバード大学医学部外科学準教授のLeo Otterbein氏は「一酸化炭素は人類誕生の以前から地球上に存在しており、生命誕生に貢献しているという説もある。今回の研究は、生物学上欠くことのできない一酸化炭素の役割を示しているのかもしれない」と述べている。

[2006年10月02日/ヤフーヘルスケア HealthDay]
http://health.yahoo.co.jp/news/detail?idx0=w14061002