ラットは今日も、きみのために。

マウスも研究者も頑張っています。
医学研究関連記事の新聞紙面から切り抜き
再生医療、薬理学、生理学、神経科学、創薬

心筋再生:ヒト応用目指しブタ実験へ=自治医科大学、東京女子医科大学

2006年12月30日 | 再生医療
 自治医科大と東京女子医大の研究チームが来年1月、ブタの心筋細胞から作ったチューブを別のブタに移植し拍動させる実験に乗り出す。ラットを使った同様の実験は既に成功しており、研究チームの小林英司・自治医大教授(移植免疫)は「将来はヒトの細胞から心不全治療に使える『拍動動脈』を作りたい」と話す。

 現在、心臓移植を受けられない重症の心不全の患者は、補助人工心臓を埋め込む治療を受ける。長く使用できるタイプもあるが、機械を体内に入れることによる感染症や機械の故障などトラブルも多い。

 研究チームは昨年春、生まれたばかりのラットの心筋細胞を培養し、別のラットから取り出した動脈に巻きつけて直径1.3ミリのチューブを作った。それを大人のラットの大動脈に移植したところ、4週間後にチューブが独自の拍動をし、血圧が上がっていることを確認した。

 ブタの実験では、ブタの胎児から心筋細胞を採取して同様のチューブを作り、別の大人のブタの大動脈に移植する。移植するチューブが1本の場合と3本の場合を比べ、血圧上昇への関与を調べる。実験が成功すればヒトへの応用も視野に入ってくるという。

 ただ、大人のヒトの心筋細胞を増殖させることは難しいため、実現には受精卵から作る胚(はい)性幹細胞(ES細胞)などから心筋細胞を成長させる技術の確立が必要だ。

 小林教授は「国内では脳死臓器提供者が非常に少なく、移植までの待機期間が非常に長い。チューブは生体と同じ組織。補助人工心臓と違って動力の外部エネルギーも不要なため、成功すれば患者側のメリットは大きい」と話している。
【永山悦子】

[毎日新聞 2006年12月30日]
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/medical/news/20061230k0000m040117000c.html

アフリカ原産植物のエキスに抗HIV活性を確認=東北大学

2006年12月29日 | 創薬
 世界中でエイズの新薬研究が進む中、東北大大学院医学系研究科の服部俊夫教授(感染症・呼吸器病態学)らの研究グループは、アフリカ原産の植物のエキスにエイズウイルス(HIV)の感染を抑制する「抗HIV活性」があることを確認した。南アフリカでは民間療法としてエイズ治療に用いられており、有効成分を特定して新薬開発の可能性を探る。

 東北大が2006年度に着手した「アジア・アフリカプログラム」の一環。服部教授らは薬学研究科、南ア・ベンダ大学の研究者と共同で、エイズや結核など感染症の研究を進めている。

 抗HIV活性を確認した植物は、「コンブレタム・モーレ」と「ペルトフォルム・アフリカナム」。コンブレタムは熱帯を中心に草原や湿原で自生し、ペルトフォルムは美しい花を付け、アフリカ各地で生育している。
 南アフリカでは以前から、民間療法士らが根から抽出したエキスをエイズ治療薬として処方、現地では効果があるとされていた。

 研究グループは、ベンダ大が国内で採取したサンプルを使い、抗HIV活性の有無を調べた。ヒトの細胞株にHIVの入った養液をかけると、通常24時間以内に感染するが、植物エキスを加えた場合はいずれも感染しなかったという。

 今後は、エキス中の有効成分の特定と解析、化学構造の解明に力を入れ、抗ウイルス剤の開発を進める。植物の特徴や分布状況、民間療法での使用実態などを詳細に把握するため、3月に現地調査する予定。

 南アはエイズの流行が深刻化している国の一つだが、高額な治療薬を利用できる患者は少ないとされる。服部教授は「安価な新薬開発を目指しつつ、現地の民間療法も生かして、エイズの感染拡大を防ぐ方策を共同研究の中で考えたい」と話している。

[河北新報 / 2006年12月29日]
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20061229-00000006-khk-soci

肥満、腸内細菌で決まる=米ワシントン大学

2006年12月21日 | 生活習慣病
動物の腸の中にすむ細菌が太りやすさに関係していることを米ワシントン大のチームが突き止めた。
21日発行の英科学誌ネイチャーに発表する。

人間など哺乳(ほにゅう)類の腸内には、1000種類以上の細菌がすみ、消化吸収の補助などに
役立っている。ほとんどの細菌が、バクテロイデス(B)類かファーミキューテス(F)類のいずれかの
グループに属している。

研究チームが、太ったマウスとやせたマウスの腸内細菌について、B類とF類の割合を比べたところ、
太ったマウスは、B類が50%以上も少なかった。人の場合も、太った人ほどB類が少なかった。
カロリー制限で体重を減らすとB類が増え、F類が減った。さらに、無菌状態で育てたマウスに、
肥満マウスと、やせたマウスの腸内細菌を与えて影響を比べた。2週間後の体脂肪増加率は、
肥満マウスの腸内細菌を与えた場合は約47%だったが、やせたマウスの腸内細菌を与えた場合は
約27%にとどまった。

研究チームは、B類が減ってF類が増えると、食事からのカロリー回収率が高まり、体重増に
つながると推測。腸内細菌の状態を変えることで、肥満を治療できる可能性があると考えている。

[読売新聞 / 2006年12月21日]
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20061221i201.htm?from=main2

筋委縮性側索硬化症(ALS)の症状進行を遅らせる動物実験に成功=UCSD

2006年12月16日 | 蛋白質
全身の運動機能がまひする難病「筋委縮性側索硬化症(ALS)」の症状進行を遅らせる動物実験に、米カリフォルニア大サンディエゴ校(UCSD)のドン・クリーブランド教授らが成功した。

 研究チームは、SOD1という酵素が異常だと、これが脊髄(せきずい)にあるミクログリアという免疫細胞を傷つけ、ALSの症状の進行につながることを解明。この酵素の鋳型となる核酸(伝達RNA)とぴったり結合して、鋳型をふさいでしまう構造の核酸(アンチセンス)を合成した。

 これを、ALSの症状を模したラットの脳内に、生後65日で注入した。このラットは通常、生後95日でALSを発症し、同平均122日で死亡するが、アンチセンスを注入したものは、発症後の進行が遅く、同132日まで生き延びた。

 中枢神経への薬剤注入はポンプを体内に埋め込む方法が鎮痛用に実用化されており、
研究チームは「1年以内に臨床試験を始めたい」と話している。

【ワシントン=増満浩志】
[2006年12月16日/読売新聞]

http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20060728i313.htm

<抗うつ剤>服用24歳以下で自殺行動 米FDAが警告強化

2006年12月14日 | 心のしくみ
 【ワシントン和田浩明】
米食品医薬品局(FDA)は12日、日本でも販売されている「パキシル」(塩酸パロキセチン水和物)などの抗うつ剤すべてで、服用すると自殺のリスクが高まるとの添付警告の対象を、現行の「小児と思春期の患者」から24歳以下に拡大するよう精神薬の諮問委員会に提案した。同委は対象の拡大を妥当と判断した。
 FDAがパキシルやプロザック、ゾロフトなど11種の抗うつ剤に関する372件の治験データ(計約10万人分)を調べたところ、18~24歳の患者で偽薬を服用した場合に比べ、自殺や自殺未遂、自殺願望を持った事例が有意に多かったという。
 米メディアによると、警告の強化は自殺した患者の家族らが求めているが、臨床医などからは「有効な薬の使用に歯止めをかける場合もある」と慎重な対応を求める意見も出ている。パキシル製造元の英グラクソ・スミスクライン社の今年1月の発表では、「世界100カ国以上で使われ、1億人以上の使用実績がある」という。
 FDAは04年、抗うつ剤に「服用開始後の初期に小児や思春期の患者で自殺リスクが高まる」旨の警告の添付を義務付けた。今年5月には抗うつ剤を服用する若い患者に自殺衝動が高まる傾向が見られるとして、医師に対し服用者を慎重に観察するよう警告した。
 ◇添付文書で注意…厚労省
 グラクソ・スミスクライン日本法人によると、パキシルの売上高は昨年国内で約500億円に上り、抗うつ剤の中で国内シェアは最大という。厚生労働省は今年6月、パキシルの添付文書で「若年成人に投与中に自殺行動のリスクが高くなる可能性が報告されているため、注意深く観察する」との注意喚起を行った。今回のFDAの対応については「情報収集し、新たな対応が必要かどうか検討したい」(安全対策課)と話している。

【江口一】
[2006年12月14日/毎日新聞]
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20061214-00000046-mai-soci

インスリンを傷口に塗ると回復が早まる=UCR

2006年12月13日 | ラット
 米カリフォルニア大学リバーサイド校(UCR)の研究者らは、膵臓から分泌されるホルモンであるインスリンを傷口に塗ると回復が早まることを発見した。動物実験で効果を確かめた。
どんな細胞や分子に働くかもわかっており、同じ効果を持つ安価な物質を開発できれば治りにくい傷の治療薬になるとみている。

 ラットを使って実験したところ、インスリンを塗った方が表皮の細胞が早く傷口を覆い、真皮の細胞による血管の再形成も早まった。人の細胞株を使った実験では、皮膚の細胞の増殖や移動を促し、微小血管の内皮細胞の移動を促進する効果があることもわかった。

[2006年12月13日/日経産業新聞]
http://health.nikkei.co.jp/news/top/index.cfm?i=2006121207215h1

ピロリ菌 予防できる?タイで乳酸菌使う実験=チェンマイ大学

2006年12月12日 | 消化器
 胃かいようや胃がんの原因になるヘリコバクター・ピロリ菌を乳酸菌で抑えられるか-。タイでは乳酸菌を予防医学に用いる実験が始まった。抗生物質による除菌法は確立しているが、一方で、乳酸菌を利用してマイルドに制圧する研究も行われている。

■東南アジア7割が感染

 タイ・チェンマイ大医学部のスラサク博士は、十一月末から、三歳から六歳までの幼児に、LG21という乳酸菌の入ったチーズを投与する臨床試験を始めた。この年代はピロリ菌の感染率が急速に上昇する年代だ。東南アジアでは七割もの人がピロリ菌に感染している。小さいころ感染を止められれば、将来のピロリ菌による病気を防ぐことができるかもしれない。

 試験では、すでに感染している子供、まだ感染していない子供の両方に、一年間毎日チーズを食べさせ、予防効果や治療効果の有無を調べる。乳酸菌の入っていないものを食べさせる群も設け、厳密に分析する。

 当初、ヨーグルトで試験するはずだったが、LG21入りのヨーグルトは日本でしか生産できず、菌が生きているうちに現地まで届けるのが難しいことから、チーズに切り替えられた。

 スラサク博士は「発展途上国では幼児期のピロリ菌感染がまだ多く、日本でもまだ行われていない実験をタイですることになった」と説明。「子供たちの親に安全性を説明することがとても大変。日本で使われていない食品を持ち込むため、当局から承認を受けるのにも時間がかかった。いい結果を期待している」と話す。

 ピロリ菌の感染は、日本では高齢者に多い。五十歳代では東南アジア並みで七割を超える。胃かいようや胃がんの原因にもなる。上村直実・国立国際医療センター部長らが、千五百人余りの追跡調査を平均七・八年間行ったところ、ピロリ菌陽性者では三十六例(2・9%)の胃がんが発生したのに対し、陰性者ではゼロだった。

 ピロリ菌を乳酸菌LG21で抑制できるか、河合隆・東京医大助教授や上村部長らは、百五十人を対象に多施設共同研究を行った。三カ月間、LG21を含んだヨーグルトと、含まないヨーグルトを摂取させて比較。全体としては抑制効果に有意差は現れなかったものの、ピロリ菌が多い人に限ると、菌の量の低下がみられ、摂取の効果があることが示された。

 また胃がんと関連が深い“胃の委縮度”の高い人では、摂取によって委縮度が改善されることも分かった。

 抗生物質によるピロリ除菌は万能とはいえないため、乳酸菌の利用が代替手段の一つになる可能性が示された。上村部長は「胃の委縮が進んでいる人には、LG21入りのヨーグルトによって、状態がよくなるかもしれない。ただヨーグルトはあくまで食品であり、補助的なものとして考えるべきだ。タイのように予防に使うのは興味深い試みではないか」と話している。

 ピロリ菌の除菌 抗生物質2剤と、胃酸を抑える薬(プロトンポンプ阻害剤)の3剤を1週間服用する。胃かいようと十二指腸かいようの患者の除菌には健康保険が適用される。成功率は80-90%。除菌の問題点として、耐性菌の出現や、副作用のおそれなどが指摘されている。慢性委縮性胃炎などへの保険適用も検討されている。

[2006年12月12日/東京新聞]
http://www.tokyo-np.co.jp/00/sci/20061212/ftu_____sci_____000.shtml

センチュウ使い そううつ病に関与の酵素を解明=名古屋大学

2006年12月12日 | 生きもの色々
 そううつ病との関連が指摘されながらも脳内での働きがよく分かっていない酵素「インペース」が、特定の神経細胞で働き掛けて動物の正常な行動にかかわっていることを、名古屋大理学研究科の森郁恵教授、久原篤助手、大学院生の谷沢欣則さんらのグループがセンチュウ(線虫)を使った研究で解明した。

そううつ病の治療を進展させる手掛かりとなる成果として期待される。
米科学誌ジーンズ・アンド・デベロップメント(電子版)に研究論文が掲載された。

 森教授らは、線虫が温度を感じて行動する「温度走性」という学習能力を持っていることに着目。この能力を失っているセンチュウを調べたところ、インペースの遺伝子に異常があった。さらに細胞レベルで解析すると、線虫の行動を制御するRIAと呼ばれる神経細胞で、インペースが働いていることも判明した。

 そううつ病の治療薬の1つであるリチウムは、脳内でインペースに働きかけて症状を改善するとみられているが、どのようなメカニズムで効果を発揮するのかは、十分に分かっていない。

 谷沢さんは「人間の脳内での働きを解明する手掛かりとなる」と話した。

[中日新聞 / 2006年12月11日]
http://www.chunichi.co.jp/00/sya/20061211/eve_____sya_____011.shtml

神経細胞が伸びる仕組み解明=理化学研究所

2006年12月11日 | 脳、神経
脳と体を結ぶ神経回路が作られる際に、神経細胞が正しい方向に伸びていく仕組みを、理化学研究所の上口(かみぐち)裕之・神経成長機構研究チームリーダーらの研究グループが明らかにした。損傷した神経の治療や、人工臓器と脳をつなぐ技術などに応用できる可能性があるという。米科学誌ネイチャー・ニューロサイエンス(電子版)に10日発表した。

痛みや触覚などの信号を脳に伝える神経回路は、体の各部から神経細胞の先端にある神経突起が脳に向かって伸びることでつながり、作られる。この際、どのような仕組みで伸びる方向が決まるのかは、よく分かっていなかった。

上口さんらは、孵化(ふか)直前のヒヨコの脊髄(せきずい)にある神経細胞を使い、そこから神経突起が伸びていく状態を人工的に作り出して観察した。その結果、神経突起を招き寄せることが知られている分子(誘因性ガイダンス分子)を作用させると、神経細胞内でたんぱく質などを包んで運んでいる小さな袋がそちらへ次々に運ばれ、そのことによって神経突起が伸びているらしいことが分かった。

誘因性ガイダンス分子はこれまで、袋が運んでいたたんぱく質などを、信号として別の神経細胞に渡す際の仕組みとして知られていたが、神経細胞の伸びる方向の決定に関係していると分かったのは世界で初めてという。

[朝日新聞 / 2006年12月11日]
http://www.asahi.com/national/update/1211/TKY200612110082.html

理化学研究所プレスリリース
 神経細胞の突起が伸びる方向を転換するメカニズムを発見
 - 神経回路網の構築に重要な役割を果たす新たな知見 -
http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2006/061211/index.html

腎臓再生:ラットの体内で 幹細胞から 世界初=東京慈恵会医科大学

2006年12月10日 | 再生医療
 東京慈恵会医科大と自治医大の研究チームが、ラットの胎児の体内にヒトの骨髄液由来の幹細胞を埋め込み、ヒトの腎臓の一部(糸球体と尿細管)を作ることに世界で初めて成功した。さらに、その組織を別のラットの腹部に移植したところ、移植を受けたラットの血管が入り込み、通常のラットの腎臓の10分の1の大きさまで成長した。重い腎臓病に苦しむ患者が多い中、患者自身の細胞を使って人工的に腎臓を再生し、移植後も機能させる可能性につながる成果として注目される。【永山悦子】

 研究チームは、免疫機能が確立されていない動物の胎児では、他の個体の組織への拒絶反応が低く、急速な臓器生成能力がある点に着目。

 ヒトの骨髄液に含まれる、さまざまな臓器の組織になる能力がある幹細胞を、臓器が出来る前の胎児ラット(受精後11.5日目)の腎臓が作られる部分に埋めた。2日後、腎臓の主な機能を担う糸球体と尿細管に発達し、血液から尿をろ過する能力も確認できた。

 さらに、この組織を別のラットの腹部の臓器を覆う「大網」と呼ばれる膜に移植したところ、組織内の糸球体に向かって新しい血管が伸び、移植された組織が成長した。

 チームによると、将来的には、重症腎不全の患者の骨髄幹細胞をブタなど、より大きなサイズの動物の胎児内で腎臓の初期段階まで成長させることを計画している。成長した組織を再び患者の体内に戻せば、大網から血管が伸びて尿を作ることができるようになり、人工透析治療や他者からの腎移植に頼らなくても済むとみている。

 今後、組織を移植する際、異種の動物が持つウイルスの感染をどう防ぐかという課題が解決されれば、実用化の可能性が高まるという。

 研究チームの横尾隆・東京慈恵会医科大助手(腎臓高血圧内科)は「自分自身の遺伝情報を持った臓器を再生して移植する新たな医療の可能性を、動物レベルで確かめることができた。現在の深刻なドナー(臓器提供者)不足を解決する一つの方法にしたい」と話している。

 ■解説 再生医療の実用化に一歩

 日本臓器移植ネットワークによると、先月末現在、腎臓移植を待つ患者は全国で1万1800人に上る。一方、脳死と心停止後の今年の腎臓提供者は先月末で101人で、生体腎移植や海外での移植に頼る人が後を絶たない。提供者不足が目立つ中、がんなど病気のため摘出した腎臓を使った移植まで明らかになった。

 臓器不全の難病患者にとって再生医療は、他人に頼る移植医療に代わる「頼みの綱」だ。しかし、従来は幹細胞から臓器の形状を作り、機能させることは難しかった。東京慈恵会医科大と自治医大の研究チームは、今回の成功を受け、「ギリギリの状態に追い詰められた患者のため、実用化を見据えた研究にしたい」と話す。

 動物の体内でヒトの臓器を育てて使うことは「異種移植」になるため、倫理的な問題やウイルス感染など、乗り越えるべき課題は残されている。だが、患者自身の遺伝情報を持つ臓器を実際に再生できる道筋が明らかになった意義は大きい。【永山悦子】

 ▽園田孝夫・大阪大名誉教授(日本臓器移植ネットワーク西日本支部長)の話 実際の臓器として機能するには、作られた尿を体外へ排出するために腎盂(じんう)や尿管の再生も必要だ。また臓器のサイズもブタやサルなど、より大型な動物での成功が求められる。まだ初期の段階の研究ではあるが、将来の方向性を示す糸口になる成果と言えるのではないか。

 ■幹細胞 自分と同じ細胞を作り出す能力しかない普通の細胞と違い、臓器や組織を構成する細胞に分化する能力を持つ。受精卵から作る「胚(はい)性幹細胞(ES細胞)」は、体のさまざまな細胞や臓器に成長する性質を持つため「万能幹細胞」とも呼ばれる。一方、血液、肝臓、皮膚など特定の細胞にだけ分化する幹細胞は「体性幹細胞」と呼ばれる。骨髄液由来の幹細胞は、胚性幹細胞に近い万能性が確認されている。

[毎日新聞 / 2006年12月10日]
http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20061210k0000m040141000c.html

Pfizer製薬、新薬の開発中止で苦境に/ファイザー製薬

2006年12月08日 | 創薬
Pfizer製薬、新薬の開発中止で苦境に

製薬最大手の米Pfizerが、非常に有望視されていた医薬品の開発を中止する決定を下した。臨床試験の結果、服用によって死亡率が増大することが明らかになったためだ。Pfizerにとっては手痛い開発中止となった。

問題の薬はトルセトラピブ(torcetrapib)。いわゆる「善玉」(HDL)コレステロールを増やすことによって心臓発作や脳卒中を防ぐ薬だ。PfizerのCEO(最高経営責任者)を務めるJeffrey Kindler氏がつい先日、「われわれの世代で最重要と言える開発かもしれない」と自信を見せたばかりだった。

Pfizerは、トルセトラピブの試験に8億ドルもの研究資金を注ぎ込んできた。他のどの医薬品の試験にもこれほどの費用はかけていない。同社が夢に描いたのは、リピトール(Lipitor)の成功を再現することだった。リピトールは、世界でも売上高トップクラスの医薬品で、年120億ドルを生み出すPfizerのドル箱だ。Pfizer幹部らは「トルセトラピブが製品化されれば、リピトールに劣らない成功を収めるだろう」と話していた。

しかしPfizerは米国時間12月2日夜にプレスリリースを発表し、被験者1万5000人を使った臨床試験を中止せざるを得なくなったと明らかにした。3年前に開始したこの試験は、トルセトラピブが心臓発作を抑え、患者の生命を救うことを立証するはずだった。ところが、臨床実験をモニターしてきた独立の委員会が、「薬を投与した患者は、投与されなかった患者より、死亡や心血管障害の率が高い」と報告した。これによって、トルセトラピブを市場に出して成功を収めるというPfizerの希望は、完全に打ち砕かれた。

Kindler氏は2日の声明で、委員会の報告は「予期せぬものであり、失望を禁じえない」としながらも、「Pfizerは患者の利益を最優先に考えている。トルセトラピブの開発中止を決断した」と述べた。「この事態が、われわれのビジネスにどれほど深刻な影響を与えるか理解している。われわれは迅速かつ積極的に対応していく。この情報を、Pfizerの改革への取り組みと、製品ライン・財務体質の強化の両面に役立てていくことが重要だ」

トルセトラピブで見込まれた売り上げを穴埋めできそうな治験薬は他にない。Pfizerにとってこの知らせは手痛いものだったに違いいない。さらに、医師たちにとっても失望は大きかった。毎年、動脈血栓に起因する心臓発作および脳卒中の発生件数は90万件にも及ぶ。トルセトラピブがこの数字を小さくしてくれることに期待した医師は多い。リピトールや英AstraZenecaのクレストール(Crestor)など既存のコレステロール降下剤も、心臓発作のリスクを少なくとも3分の1は減らす。血圧降下剤もまた大きな効果がある。しかし、それでも心臓病は相変わらず死因のトップを占めている。

米国の非営利医療法人Cleveland Clinicの心臓病部門責任者で、トラセトラピブの研究を行っていたSteven Nissen氏は、「残念なニュースだ。患者のために、この薬には大いに期待していた。まったく新たな心臓発作予防法にこれだけの費用を注ぎ込んだPfizerは称賛に値する」と語った。

トルセトラピブの失敗により、Pfizerは苦しい時期を迎える可能性が高い。リピトールは、あと4年で主要な特許が切れる。そうなれば安いジェネリック薬が出回り、売り上げのほとんどが奪われてしまう可能性がある。そうしたなか、トルセトラピブはPfizerにとって、リピトールの売り上げ減少の打撃を和らげる最大の切り札だったのだ。

既にPfizerは、抗生物質ジスロマック(Zithromax)や抗てんかん薬ニューロンチン(Neurontin)などの特許が切れ、ジェネリック薬との競争に巻き込まれている。これらの医薬品の売り上げは横ばい状態だ。同社は11月末に、業績見通しをわずかに上方修正した。しかし一方で、販売部門従業員の5分の1にあたる2000人以上を解雇するとも発表している。

Pfizerはトルセトラピブの他にも多くの新薬の開発を手がけており、年間研究予算は70億ドルに達している。11月末に開催した研究開発会議でも、30もの研究プログラムの概要を発表した。トルセトラピブはその中の1つにすぎない。開発中の新薬は、肥満、ガン、HIV、アルツハイマー病などに対して効果が見込まれるものだ。もちろん、これらの薬でPfizerが成功を収める可能性もある。しかし、それでもトルセトラピブを失ったことは痛い。

トルセトラピブが失敗したことで、他社が開発する同様の新薬にも、同じような嫌疑がかけられる可能性がある。スイスのRocheは、Pfizerより数年遅れてトルセトラピブの類似薬を開発している。米Merckも同様の新薬を開発していると思われる。Pfizer自体にも、トルセトラピブ以外に同様の新薬が複数ある。これらは、臨床試験の初期の段階にある。

トルセトラピブの失敗の理由はよく分かっていない。これまでにも、この薬の副作用で血圧が上昇することが明らかになっており、さまざまな疑いが渦巻いていた。血圧の上昇は、それ自体が心臓発作を引き起こす。科学者の中には「トルセトラピブのような薬品で生成されるタイプの「善玉」(HDL)コレステロールは正常に機能しないのかもしれない」と指摘する声もある。RocheとMerckの新薬は血圧上昇を引き起こすとは考えられていないが、どちらもトルセトラピブとまったく同じ仕組みでHDLコレステロールを増加させる。

たとえそうした新薬のすべてが失敗したとしても、他にHDLコレステロールを増やす効果的な方法が見つかるかもしれない。Merckは、HDLコレステロールを増加させる作用がある市販のナイアシン(ビタミンB3)の主な副作用を緩和する医薬品に取り組んでいる。米Kos Pharmaceuticalsは、ナイアシンの処方薬を販売している。Pfizer、スイスのNovartisをはじめとする複数の製薬企業が、注射または経口により摂取できる合成HDLの開発に取り組んでいる。Pfizerはこれまで、こうした開発中の治療法のすべての中で、トルセトラピブによって一歩リードしていた。しかし現在、他社にはるかに後れをとることとなった。

米Cedars Sinai Medical Centerのコレステロール専門家Prediman K. Shah氏は、こう語る。「トルセトラピブについては、血圧の上昇と、どのような種類のHDLが生成されるか分からない点をめぐり、ずっと不安があった。常に影が付きまとっていたのだ」

原文タイトル:A Catastrophe For Pfizer
原文掲載サイト:www.forbes.com
著者名:Matthew Herper
原文公開日時:2006年12月2日

[日経BP-Net / 2006年12月08日]
http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/feature/forbes/061208_pfizer/