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医学研究関連記事の新聞紙面から切り抜き
再生医療、薬理学、生理学、神経科学、創薬

抗生物質ミノサイクリンが神経細胞のドーパミン調節機能を回復させる=千葉大学

2006年05月30日 | 薬理
 抗生物質ミノサイクリンに、覚せい剤の使用で損なわれた脳の神経細胞のドーパミン調節機能を回復させる効果があるとする実験結果を、橋本謙二千葉大教授(神経科学)と浜松ホトニクス(静岡県浜松市)のチームが30日までに、米医学誌に発表した。

 ミノサイクリンは最近、パーキンソン病などの神経変性疾患で改善効果が報告されている。覚せい剤中毒状態のサルは調節機能が平均約40%まで落ち込んだが、ミノサイクリン投与のサルでは同78%まで回復した。

 6月から米エール大と共同で、米国の中毒患者らを対象に臨床試験を行う予定。人間で同様の効果や安全性が確認できれば、患者の症状改善や社会復帰を助ける治療につながると期待される。

[2006年05月30日/東京新聞]
http://www.tokyo-np.co.jp/flash/2006053001001842.html

脳の巧みな時間順序の推定法の解明=科学技術振興機構、順天堂大学

2006年05月29日 | 脳、神経
 JST(理事長 沖村憲樹)と順天堂大学(理事長 小川秀興)は、左右両方の手に加えた刺激の順序の判断に、これまでの経験を加味した「ベイズ推定」が用いられることを明らかにしました。
 本研究チームは、右手と左手に少し時間をずらして刺激を加える、という作業を何回も繰り返すと、左右の手に同時に与えた刺激が、繰り返した刺激と同じ順序に感じられるようになることを見出しました。この錯覚は皮膚の感覚器からの情報に加えて、事前の経験を総合して判断する「ベイズ推定」と呼ばれる効率の良い推定法で良く説明できました。感覚器からの信号にノイズがある場合には、ある程度経験に頼る「ベイズ推定」を行うことで誤りを最小化できることが数学的に示されています。この錯覚の発見は、脳の中には時間順序を判断する際に巧みな「ベイズ推定」を行うメカニズムが組み込まれていることを示す成果です。
 学習障害の一つである「難読症」の背景には、次々と入力される感覚信号の順序判断をする脳の機能に障害がある可能性があると言われています。脳が感覚信号を順序付けるメカニズムの一端を解明した本研究の成果は、これらの障害の原因を解明する手がかりとなる可能性があります。
 この研究成果はJST戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「脳の機能発達と学習メカニズムの解明」研究領域(研究総括:津本 忠治(独立行政法人理化学研究所脳科学総合研究センター ユニットリーダー))の研究テーマ「応用行動分析による発達促進のメカニズムの解明」の研究代表者・北澤 茂(順天堂大学大学院医学研究科 教授)と宮崎 真(早稲田大学人間総合研究センター 助手)、山本慎也(独立行政法人産業技術総合研究所 研究員)らの共同研究によって得られたもので、米科学雑誌「Nature Neuroscience(ネイチャー・ニューロサイエンス)」オンライン版に2006年5月28日(アメリカ東部時間)に公開されます。

Bayesian calibration of simultaneity in tactile temporal order judgment
Published online: 28 May 2006 | doi:10.1038/nn1712
http://www.nature.com/neuro/journal/vaop/ncurrent/abs/nn1712.html

[2006年05月29日/JSTプレスリリース]
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20060529/index.html

ホヤの体作る 遺伝子の働き 全容解明=京都大学

2006年05月29日 | 発生
--脊椎動物の原形--

 海に住むホヤが発生初期に体をつくり上げる際の遺伝子の働きのほぼ全容を、京都大大学院理学研究科の佐藤矩行(のりゆき)教授(発生生物学)らの研究グループが解明し、26日付の米科学誌サイエンスに発表した。ホヤの仲間は脊椎(せきつい)動物の原形といわれ、佐藤教授は「脊椎動物の進化の仕組みを解明する大きな手がかりになる」としている。


 佐藤教授らはこれまでの研究で、ホヤの一種「カタユウレイボヤ」の全遺伝情報(ゲノム)を解読。ホヤの受精卵が8回、細胞分裂した時点でどの部分がそれぞれどんな器官や組織に成長するのか決まっていることは判明していたが、それを制御する遺伝子の働きや結びつきは不明だった。

 佐藤教授らは約2年かけて、この時期に働く76の遺伝子ごとに一つひとつ機能を消失させ、他の遺伝子との結びつきなどを調査。その結果、ある遺伝子では神経をつくる機能をなくすと、別の遺伝子とつながって表皮ができるなど、約3000のパターンがあることを発見した。

[読売新聞(関西版) / 2006年05月29日]
http://osaka.yomiuri.co.jp/eco_news/ec60529b.htm

ホヤの「遺伝子発現ネットワーク」を解明=UCB、京都大学

2006年05月26日 | 発生
動物の体づくりを調節する遺伝子が相互に作用しながら働く仕組みを、米カリフォルニア大バークリー校(UCB)の今井薫研究員、京都大理学研究科の佐藤ゆたか助教授(発生生物学)らの研究チームが脊索(せきさく)動物のホヤの研究で解明した。遺伝子個々の働きを超え、他の複数の遺伝子を働かせたり抑制する「遺伝子発現ネットワーク」の全容が分かったのは世界初。26日付の米科学誌サイエンスで発表する。

 ホヤは受精卵から8回目の分裂までに、大半の細胞がどの器官や組織になるかが決まる。この間、表皮や消化器系、神経系などに分化させる指令を出す調節遺伝子がすべて、過去の研究で判明している。

 今井研究員らは、8回目までの分裂で現れる76の調節遺伝子を1つずつ機能を失わせ、他の調節遺伝子の働きがどう変わるか3年かけて調べた。その結果、ある遺伝子からの信号が、別の遺伝子の働きを活性化させたり抑制したりする約3000通りの経路を明らかにし、そのネットワーク(相関関係)を網羅する図式を作ることに成功した。

 例えばノーダルという成長因子の1つの機能を失わせると、脊髄を作り出す遺伝子8つと血球を作る遺伝子1つが働かなくなる。また、脳になるはずの部位でノーダルの働きを抑える遺伝子を壊すと、ノーダルが働いて脊髄に成長するという。

 指導した同研究科の佐藤矩行教授は「他の生物のネットワークも分かれば、違いを調べることで脊索動物がどのような発生学的仕組みで進化してきたのか理解する重要な1歩になる」と話す。

京都新聞
http://www.kyoto-np.co.jp/article.php?mid=P2006052600020&genre=G1&area=K10

Regulatory Blueprint for a Chordate Embryo
Science 26 May 2006: Vol. 312. no. 5777, pp. 1183 - 1187
DOI: 10.1126/science.1123404
http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/312/5777/1183

グレープフルーツジュースに含まれる薬物相互作用をもたらす原因物質を特定=UCN大学

2006年05月09日 | 食品・栄養
 降圧薬やコレステロール降下薬をはじめ、さまざまな薬剤を服用するとき、医師からグレープフルーツジュースを飲まないよう指示されることは珍しくない。この理由は、グレープフルーツジュースによって薬剤が血中に取り込まれる効率が上がるため、用量および効果が増大し、時に危険な副作用が生じる可能性があるためだ。今回、米ノースカロライナ大学(UCN)チャペルヒル校総合臨床研究センターのPaul Watkins博士らによって、この原因となる物質が特定され、研究結果が医学誌「American Journal of Clinical Nutrition」5月号に掲載された。
 Watkins氏によると、かつてはグレープフルーツの苦味成分であるフラボノイド類がこの薬物相互作用の原因であると考えられていた。今回の研究は、無調整のグレープフルーツジュース、フラノクマリン類(furanocoumarins)と呼ばれる物質を除去したグレープフルーツジュース、オレンジジュースを比較したもの。その結果、フラノクマリンを除去すると、フラボノイド類をすべて残していても薬物相互作用が生じなかった。

 Watkins氏は、この知見には3つの意味があると述べている。第一に、ほかの果物についてもフラノクマリンの有無から薬物相互作用を生じるかどうかが予測できるということ。第二に、フラノクマリンを除去することにより、薬物相互作用が生じないジュースの製造が可能になること。第三に、薬剤にフラノクマリンを添加することにより、薬剤の「生物学的利用能」を向上させることができる可能性が出てきたことである。体内への薬剤の取り込みを増大させるというグレープフルーツジュースの作用は、「うまくコントロールできれば好ましい作用にもなり得る」とWatkins氏はいう。

 米エール大学(コネチカット州)医学部予防研究センターのDavid L. Katz博士は、この第三の可能性を最も重要だと考える。相互作用の生じないジュースの製造は、ある意味ささいな問題だが、フラノクマリンを用いて薬剤のレベルを調整できる可能性は極めて興味深いという。正体がわからない状況では単に有害な物質でしかなかったが、「特定された今、それ自体が有用な治療薬となる可能性がある」とKatz氏は述べている。(HealthDay News 5月9日)


[2006年5月9日/HealthDayNews]
http://www.healthday.com/view.cfm?id=532584
http://health.nikkei.co.jp/hsn/news.cfm?i=20060518hj001hj