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医学研究関連記事の新聞紙面から切り抜き
再生医療、薬理学、生理学、神経科学、創薬

慢性炎症引き起こすタンパク質発見=京都大学

2008年06月10日 | 消化器
 潰瘍(かいよう)性大腸炎などの慢性炎症で重要な役割をしているタンパク質を、京都大工学研究科の森泰生教授(生化学)らのグループが突き止めた。タンパク質の働きを止めることで、慢性炎症を抑える治療につながるという。英科学誌「ネイチャーメディシン」で9日に発表した。

 炎症はさまざまな原因で起こるが、免疫反応の一翼を担うマクロファージ(貪食細胞)が活性因子を出して白血球の一つ好中球を呼び寄せ、それぞれが活性酸素を過剰に作ることでも生じる。活性因子を抑えれば好中球は集まらないが、活性因子のできるメカニズムがよく分からなかった。

 森教授は、マクロファージの細胞膜のタンパク質TRPM2に注目した。カルシウムイオンを細胞内に取り込む穴(チャネル)を作るタンパク質で、TRPM2ができないマウスで調べると、好中球が集まらなくなった。マウスに化学物質を飲ませて潰瘍性大腸炎にする実験でも、TRPM2ができないマウスは潰瘍の形成が抑えられた。

 TRPM2は活性酸素の存在によってカルシウムイオンを取り込んでいる。慢性炎症ではTRPM2の働きが暴走し、活性因子が過剰にできるらしい。森教授は「関節リウマチやクローン病でも同様のメカニズムで炎症が起きているのではないか」と話している。

[京都新聞 2008年06月10日]
http://www.kyoto-np.co.jp/article.php?mid=P2008060900062&genre=G1&area=K00

ピロリ菌でがん発症、マウスで確認 「胃」以外も関係か=北海道大学

2008年01月08日 | 消化器
 ヘリコバクター・ピロリ菌が胃がんを発症させる仕組みを昨年世界で初めて解明した、北大遺伝子病制御研究所の畠山昌則教授(分子腫瘍(しゅよう)学)と同大学院生大西なおみさんらの研究グループが、ピロリ菌が作るタンパク質を用いて実際の動物(マウス)にがんを発症させることに初めて成功した。

 試験管内の実験で解明したがん化の仕組みが、複雑な生体内でも働いていることが分かり、胃がんの新たな予防法や治療法開発に一歩近づく研究と期待される。米科学アカデミー紀要の電子版で今週中にも発表される。

 研究グループは、ピロリ菌が作るタンパク質CagA(キャグ・エー)の設計図である遺伝子をマウスの受精卵に注入。生まれながらに全身の細胞でCagAを作り出すマウスを誕生させ、七十二週間、観察した。

 生後三カ月までに二百二十二匹の六-七割に、胃の上皮細胞が増殖し、胃壁が厚くなる異変が発生。その後、六匹に胃や小腸のがん、十七匹が白血病やリンパ腫など血液がんを発症した。

 研究グループは「マウスが自然状態で消化器がんになることはまずなく、生体に入ったCagAでがんが発症したにちがいない。また、CagAが消化器以外のがんとも関係がある可能性もでてきた」と指摘している。

 畠山教授らがこれまでに明らかにしてきた胃がん発症メカニズムは、《1》ピロリ菌がCagAを胃の上皮細胞に注入《2》CagAが細胞内のタンパク質(PAR1)と結合し、上皮細胞同士の密着構造を破壊、炎症やかいようを起こす《3》さらにCagAが細胞内の別のタンパク質(SHP2)と結合し、異常な細胞増殖が始まり、がんになる-という過程。

 畠山教授は「私たちが解明した細胞レベルのメカニズムが個体レベルで発展的に確かめられたのは大きなステップ。CagAが世界初の細菌に由来するがんタンパク質であることも最終的に実証できた。今後研究を進め、予防や治療開発につなげたい」と話している。

[北海道新聞 / 2008年01月08日]
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/environment/69481.html


【ピロリ菌から発がんたんぱく質 北大、マウスで実証】

 人の胃にすみ着くピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)がつくるたんぱく質にがんを引き起こす働きのあることを、北海道大遺伝子病制御研究所の畠山昌則教授(分子腫瘍(しゅよう)学)らのグループがマウスの実験で明らかにした。今週の米科学アカデミー紀要電子版に発表する。胃がんなどを起こす仕組みの解明につながる成果だ。

 ピロリ菌が胃の粘膜の細胞にくっつくとCag(キャグ)Aというたんぱく質を細胞内に打ち込むことが知られている。

 畠山さんらはCagAを作るピロリ菌の遺伝子を取り出してマウスの受精卵に組み込み、全身の細胞にCagAが入るとどうなるかを調べた。すると、約200匹のマウスの半数以上は生後3カ月までに胃の粘膜の細胞が異常増殖して胃壁が厚くなり、その後約20匹で胃にポリープができた。さらに1年半以内に2匹が胃がん、4匹が小腸がんを発症。白血病になったマウスも17匹いた。

 これまでの細胞レベルでの研究で、CagAが細胞内で別のSHP―2というたんぱく質と結びつくと細胞のがん化が起きることを突き止めていたため、SHP―2と結合しないように細工したCagAをつくらせてみると、マウスはがんにならなかったという。

 畠山さんは「CagAががんを起こすことが、個体レベルで証明できた。将来、CagAとSHP―2との相互作用を妨げる薬の開発ができるかもしれない」という。

[朝日新聞 / 2008年01月08日]
http://www.asahi.com/science/update/0108/TKY200801080038.html

ピロリ菌の感染持続の謎を解明、胃粘膜の細胞死抑制=東京大学医科学研究所

2007年10月11日 | 消化器
 50歳以上の日本人の半数が感染しているとされるピロリ菌が、胃の中で感染を持続させる仕組みを、東京大医科学研究所などの研究チームが解明した。ピロリ菌は胃かいようや胃がんの原因になるとされる。抗生物質による除菌以外の新たな治療法の開発につながる成果で、11日発行の米科学誌に掲載される。

 胃や腸の表皮細胞は絶えず自ら細胞死を引き起こし、2~3日ごとに新たな細胞と置き換わることで病原菌の感染から身を守る。その中で、ピロリ菌が長期間、感染し続ける仕組みは謎だった。

 笹川千尋・東京大医科学研究所教授(細菌学)らは、ピロリ菌に感染したスナネズミでは、細胞死が通常の半分程度しか起きないことを発見。一方、「CagA」というたんぱく質を作れないピロリ菌を作り、スナネズミに感染させると、通常通り細胞死が起きた。このため、ピロリ菌は胃粘膜にCagAを注入することで細胞死を抑制していると結論した。笹川教授は「細胞死を抑制する経路を断てれば、持続感染を防ぐ新たな治療法への布石になる」と話している。【西川拓】

[毎日新聞 / 2007年10月11日]
http://mainichi.jp/select/science/news/20071011ddm003040028000c.html

ピロリ菌 胃の粘膜破壊の仕組み解明=北海道大学

2007年05月17日 | 消化器
 胃炎や胃潰瘍(かいよう)、胃がんの原因とみられている細菌ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)が胃の粘膜を破壊する仕組みを、北海道大遺伝子病制御研究所の畠山昌則教授らのグループが突き止めた。17日発行の英科学誌ネイチャーに発表される。

 ピロリ菌は胃の粘膜をつくる上皮細胞にくっつくと、CagAというたんぱく質を細胞の中に打ち込んで粘膜を破壊することが知られている。畠山さんらは培養できるイヌの上皮細胞を使い、CagAが粘膜を破壊する仕組みを詳しく調べた。

 それによると、CagAはまず、隣り合う上皮細胞同士を固く結びつけている「装置」を作る酵素(PAR1)と結び付くことがわかった。CagAが結合するとPAR1の働きが鈍り、装置が破壊されて、正常な粘膜組織が維持できなくなっていた。

 畠山さんらは今回の研究に先立ち、CagAが細胞の増殖を促すたんぱく質(SHP2)を活性化させてがん化を促進するらしいことも明らかにしており、(1)CagAとPAR1が結合して胃粘膜を破壊(2)結合したCagAがSHP2を活性化させてがんを起こす、との2段階を考えている。

 日本人はざっと2人に1人がピロリ菌に感染しており、胃がんのほとんどが感染者で起きていることもわかってきた。抗生物質による除菌が健康保険でできるが、うまくいかない人もいる。「今の抗生物質では除菌できない耐性ピロリ菌が20%を超える。CagAがPAR1と結合できなくする薬ができれば、胃がんなどを大幅に減らすことができるかもしれない」と畠山さんはいう。

[朝日新聞 / 2007年05月17日]
http://www.asahi.com/life/update/0517/TKY200705160394.html

ピロリ菌と胃がんのメカニズムを解明…北大研究チーム(読売新聞) - goo ニュース

ピロリ菌 予防できる?タイで乳酸菌使う実験=チェンマイ大学

2006年12月12日 | 消化器
 胃かいようや胃がんの原因になるヘリコバクター・ピロリ菌を乳酸菌で抑えられるか-。タイでは乳酸菌を予防医学に用いる実験が始まった。抗生物質による除菌法は確立しているが、一方で、乳酸菌を利用してマイルドに制圧する研究も行われている。

■東南アジア7割が感染

 タイ・チェンマイ大医学部のスラサク博士は、十一月末から、三歳から六歳までの幼児に、LG21という乳酸菌の入ったチーズを投与する臨床試験を始めた。この年代はピロリ菌の感染率が急速に上昇する年代だ。東南アジアでは七割もの人がピロリ菌に感染している。小さいころ感染を止められれば、将来のピロリ菌による病気を防ぐことができるかもしれない。

 試験では、すでに感染している子供、まだ感染していない子供の両方に、一年間毎日チーズを食べさせ、予防効果や治療効果の有無を調べる。乳酸菌の入っていないものを食べさせる群も設け、厳密に分析する。

 当初、ヨーグルトで試験するはずだったが、LG21入りのヨーグルトは日本でしか生産できず、菌が生きているうちに現地まで届けるのが難しいことから、チーズに切り替えられた。

 スラサク博士は「発展途上国では幼児期のピロリ菌感染がまだ多く、日本でもまだ行われていない実験をタイですることになった」と説明。「子供たちの親に安全性を説明することがとても大変。日本で使われていない食品を持ち込むため、当局から承認を受けるのにも時間がかかった。いい結果を期待している」と話す。

 ピロリ菌の感染は、日本では高齢者に多い。五十歳代では東南アジア並みで七割を超える。胃かいようや胃がんの原因にもなる。上村直実・国立国際医療センター部長らが、千五百人余りの追跡調査を平均七・八年間行ったところ、ピロリ菌陽性者では三十六例(2・9%)の胃がんが発生したのに対し、陰性者ではゼロだった。

 ピロリ菌を乳酸菌LG21で抑制できるか、河合隆・東京医大助教授や上村部長らは、百五十人を対象に多施設共同研究を行った。三カ月間、LG21を含んだヨーグルトと、含まないヨーグルトを摂取させて比較。全体としては抑制効果に有意差は現れなかったものの、ピロリ菌が多い人に限ると、菌の量の低下がみられ、摂取の効果があることが示された。

 また胃がんと関連が深い“胃の委縮度”の高い人では、摂取によって委縮度が改善されることも分かった。

 抗生物質によるピロリ除菌は万能とはいえないため、乳酸菌の利用が代替手段の一つになる可能性が示された。上村部長は「胃の委縮が進んでいる人には、LG21入りのヨーグルトによって、状態がよくなるかもしれない。ただヨーグルトはあくまで食品であり、補助的なものとして考えるべきだ。タイのように予防に使うのは興味深い試みではないか」と話している。

 ピロリ菌の除菌 抗生物質2剤と、胃酸を抑える薬(プロトンポンプ阻害剤)の3剤を1週間服用する。胃かいようと十二指腸かいようの患者の除菌には健康保険が適用される。成功率は80-90%。除菌の問題点として、耐性菌の出現や、副作用のおそれなどが指摘されている。慢性委縮性胃炎などへの保険適用も検討されている。

[2006年12月12日/東京新聞]
http://www.tokyo-np.co.jp/00/sci/20061212/ftu_____sci_____000.shtml