大学院で博士号を取得後、定職を得ずに不安定な身分で研究を続ける「ポストドクター(ポスドク、博士研究員)」。その数は国内で1万5000人以上にのぼるとされ、うち生物学や農学などライフサイエンスを専門とする“バイオポスドク”の割合が4割も占める。1990年代のいわゆる「バイオブーム」に乗って、関連する大学の学部・学科の新設が相次いだが、“出口”や“受け皿”に関しては、未整備の状態が続いている。「末は博士か…」といわれた立身出世物語も今や昔。博士の受難を追った。(信藤敦子)
■ブームに踊らされる
「バイオブームに踊らされたのが、われわれバイオポスドクです」
大阪大学先端イノベーションセンターの特任研究員、吉岡宏幸さん(32)は農学の博士号を持つバイオポスドクだ。大学、大学院と農学一筋に歩み、カナダへの留学後の平成18年に阪大の研究員に。雇用期間は3年。給料も時給制で、契約時に決められた上限分しか支払われることはない。しかしそれでも恵まれているという。「保険にすら入れない人もいるんです」
昔から植物の分子レベルの構造に興味があったという吉岡さん。大学も迷わず農学を学べるところを選択した。「高校のころは博士をとれば助手、助教授…と進んでいけると思っていました」。だが、学位取得後の吉岡さんを待っていたのは厳しい現実だった。助手になるにも採用枠は1人か2人。応募しても100倍以上の狭き門は当たり前だ。大学の正規教員になるのは「(博士の中でも)一握りのエリート」と話す。
現在は“専門外”のレーザーを使った植物構造の解析を行う。「研究できる場があるだけ幸せ」と吉岡さん。だが、センターの雇用期間も来年で終了、契約の更新は原則ない。3年間の研究成果を携えて、職探しが始まる。
吉岡さんは今年結婚。9月には子供が生まれる予定だ。具体的には決めていないが、九州の実家に戻り農業に携わることも選択肢に入れているという。「民間への就職も“奇跡的なマッチング”がなければ無理。これから私の本当の人生が始まる気がします」
■研究職は削減の一途
ポスドクなどの余剰博士問題は、世界競争力を高めるため文部科学省が進めた「大学院重点化政策」に端を発する。博士課程の在籍者数は、就職氷河期とも重なり、この12年間で2.5倍に増加した。
その一方で、18歳人口の減少を見据えた大学のスリム化に伴い、博士らが本来就くはずの研究職は削減の一途をたどり、ポスドクは1万5496人(平成17年度)にまで膨れ上がった。そのうちバイオポスドクは6471人を占める。
「国の施策は10年先を見据えてやったとは思えない」。こう厳しく批判したのは、バイオサイエンス研究の権威、新名(しんみょう)惇彦(あつひこ)・奈良先端科学技術大学院大学名誉教授。
新名さんは昨年、「ポスドクとバイオ系企業との連携」と題した事例研究を行い、バイオポスドクの現状を分析したが、そこからは、行き場を失ったバイオポスドクの悲哀がうかがい取れる。「これだけ増えてしまった以上、ポスドクは(研究継続をあきらめ)普通に就職することもやむをえない」と新名さん。
しかし、その責任を国だけに帰することはしない。「企業にも、大学にも、そしてポスドク自身にも問題があった」
■実績ある研究者を優先
DNA研究の進展とともに脚光を浴びたバイオ産業。だが時を同じくし、医薬・化学系の大手企業などの外資系による吸収合併が進み、ポスドクよりも、実績ある研究者を優先的に採用する傾向を強めていった。
新名さんは「技術力の高い中小企業やベンチャーには人材のニーズがあるのだが、ポスドクは(採用枠の狭い)上場企業研究職を希望したがる」とし、マッチングの差異を指摘する。
また、新名さんとともに調査にかかわったシンクタンク「ダン計画研究所」常務取締役の宮尾展子さんは、「(ポスドクは)インターンシップなどを使って積極的に企業へアプローチすることも必要なはずだが、現状では参加するポスドクは数%」と語った。そこからはポスドクの研究者としてのプライド意識が、問題の悪循環を招いている実態もうかがい取れる。
実際、「企業のポスドクに対するイメージが、あまりにも悪いことに驚いた」と宮尾さん。調査では複数のベンチャー企業にアンケートを実施したが、「(ポスドクは)協調性がなさそう」「使いづらい」などというマイナスイメージが多数を占めたという。
宮尾さんは「(国策としてポスドクを増やしながらも)企業側、ポスドク側双方がお互いを知る機会が少なく、そのこと自体が依然として問題視されていないことが最大の問題」と指摘。「双方が接点を作る機会を官民が積極的に創出していかなければ何も変わらないだろう」と予測した。
[msn産経ニュース 2008年06月28日]
http://sankei.jp.msn.com/life/trend/080628/trd0806282146020-n1.htm
http://sankei.jp.msn.com/life/trend/080628/trd0806282146020-n2.htm
http://sankei.jp.msn.com/life/trend/080628/trd0806282146020-n3.htm
好きなこと(研究)だけをやって生きていける、と思っていた若者には憂鬱なニュースかもしれません。
世の中、どこを見ても景気の良い話はなくなってきています。 研究トレンドの移り変わりもとても早くなっていて、時間をかけた研究がしづらくなっています。 それどころか社会の構造が世界規模で短期間に変化を完了してきています。 そんな中、日本の「バイオ産業」がまだまだ産業として未成熟のまま取り残されています。 記事にもあるように外資系による吸収合併も進んできます。しかし、製薬会社などでは、国内企業による外資ベンチャーの買収など、まだまだ善戦しているシーンもあります。
こんな世の中でも強く生き抜いていくためには、個人個人が能動的な力を持つ起業家になれるような力をつける教育も必要だったのではないかな、と思います。 日本は「お金儲け」に対する後ろめたさを感じる考え方が色濃く残っていますが、試薬を買うのにも動物を飼うのにも、ご飯を食べるのにもお金はかかります。 ですから、変なプライドは捨てて、真の目的にまい進することも時に必要です。 海外のラボでは、研究資金を集めることが研究者の最も重要な仕事になります。 そしてそれ以上に実力社会だということはよく耳にします。 やっぱり現実は厳しいのです。
スペシャリストでジェネラリスト(!?)←矛盾していますけど、世の中が求めているのはこんな感じのものかも知れません。
これからもこの状況は、苦しくなりはすれ楽になることはないかも知れません。それでも若人さんたちに「頑張れ」とラットはエールを送りたいと思います。 好きなことを見つけて、そしてチャンスにも恵まれて、それを生かす力が存分に発揮できますように、と。
■ブームに踊らされる
「バイオブームに踊らされたのが、われわれバイオポスドクです」
大阪大学先端イノベーションセンターの特任研究員、吉岡宏幸さん(32)は農学の博士号を持つバイオポスドクだ。大学、大学院と農学一筋に歩み、カナダへの留学後の平成18年に阪大の研究員に。雇用期間は3年。給料も時給制で、契約時に決められた上限分しか支払われることはない。しかしそれでも恵まれているという。「保険にすら入れない人もいるんです」
昔から植物の分子レベルの構造に興味があったという吉岡さん。大学も迷わず農学を学べるところを選択した。「高校のころは博士をとれば助手、助教授…と進んでいけると思っていました」。だが、学位取得後の吉岡さんを待っていたのは厳しい現実だった。助手になるにも採用枠は1人か2人。応募しても100倍以上の狭き門は当たり前だ。大学の正規教員になるのは「(博士の中でも)一握りのエリート」と話す。
現在は“専門外”のレーザーを使った植物構造の解析を行う。「研究できる場があるだけ幸せ」と吉岡さん。だが、センターの雇用期間も来年で終了、契約の更新は原則ない。3年間の研究成果を携えて、職探しが始まる。
吉岡さんは今年結婚。9月には子供が生まれる予定だ。具体的には決めていないが、九州の実家に戻り農業に携わることも選択肢に入れているという。「民間への就職も“奇跡的なマッチング”がなければ無理。これから私の本当の人生が始まる気がします」
■研究職は削減の一途
ポスドクなどの余剰博士問題は、世界競争力を高めるため文部科学省が進めた「大学院重点化政策」に端を発する。博士課程の在籍者数は、就職氷河期とも重なり、この12年間で2.5倍に増加した。
その一方で、18歳人口の減少を見据えた大学のスリム化に伴い、博士らが本来就くはずの研究職は削減の一途をたどり、ポスドクは1万5496人(平成17年度)にまで膨れ上がった。そのうちバイオポスドクは6471人を占める。
「国の施策は10年先を見据えてやったとは思えない」。こう厳しく批判したのは、バイオサイエンス研究の権威、新名(しんみょう)惇彦(あつひこ)・奈良先端科学技術大学院大学名誉教授。
新名さんは昨年、「ポスドクとバイオ系企業との連携」と題した事例研究を行い、バイオポスドクの現状を分析したが、そこからは、行き場を失ったバイオポスドクの悲哀がうかがい取れる。「これだけ増えてしまった以上、ポスドクは(研究継続をあきらめ)普通に就職することもやむをえない」と新名さん。
しかし、その責任を国だけに帰することはしない。「企業にも、大学にも、そしてポスドク自身にも問題があった」
■実績ある研究者を優先
DNA研究の進展とともに脚光を浴びたバイオ産業。だが時を同じくし、医薬・化学系の大手企業などの外資系による吸収合併が進み、ポスドクよりも、実績ある研究者を優先的に採用する傾向を強めていった。
新名さんは「技術力の高い中小企業やベンチャーには人材のニーズがあるのだが、ポスドクは(採用枠の狭い)上場企業研究職を希望したがる」とし、マッチングの差異を指摘する。
また、新名さんとともに調査にかかわったシンクタンク「ダン計画研究所」常務取締役の宮尾展子さんは、「(ポスドクは)インターンシップなどを使って積極的に企業へアプローチすることも必要なはずだが、現状では参加するポスドクは数%」と語った。そこからはポスドクの研究者としてのプライド意識が、問題の悪循環を招いている実態もうかがい取れる。
実際、「企業のポスドクに対するイメージが、あまりにも悪いことに驚いた」と宮尾さん。調査では複数のベンチャー企業にアンケートを実施したが、「(ポスドクは)協調性がなさそう」「使いづらい」などというマイナスイメージが多数を占めたという。
宮尾さんは「(国策としてポスドクを増やしながらも)企業側、ポスドク側双方がお互いを知る機会が少なく、そのこと自体が依然として問題視されていないことが最大の問題」と指摘。「双方が接点を作る機会を官民が積極的に創出していかなければ何も変わらないだろう」と予測した。
[msn産経ニュース 2008年06月28日]
http://sankei.jp.msn.com/life/trend/080628/trd0806282146020-n1.htm
http://sankei.jp.msn.com/life/trend/080628/trd0806282146020-n2.htm
http://sankei.jp.msn.com/life/trend/080628/trd0806282146020-n3.htm
好きなこと(研究)だけをやって生きていける、と思っていた若者には憂鬱なニュースかもしれません。
世の中、どこを見ても景気の良い話はなくなってきています。 研究トレンドの移り変わりもとても早くなっていて、時間をかけた研究がしづらくなっています。 それどころか社会の構造が世界規模で短期間に変化を完了してきています。 そんな中、日本の「バイオ産業」がまだまだ産業として未成熟のまま取り残されています。 記事にもあるように外資系による吸収合併も進んできます。しかし、製薬会社などでは、国内企業による外資ベンチャーの買収など、まだまだ善戦しているシーンもあります。
こんな世の中でも強く生き抜いていくためには、個人個人が能動的な力を持つ起業家になれるような力をつける教育も必要だったのではないかな、と思います。 日本は「お金儲け」に対する後ろめたさを感じる考え方が色濃く残っていますが、試薬を買うのにも動物を飼うのにも、ご飯を食べるのにもお金はかかります。 ですから、変なプライドは捨てて、真の目的にまい進することも時に必要です。 海外のラボでは、研究資金を集めることが研究者の最も重要な仕事になります。 そしてそれ以上に実力社会だということはよく耳にします。 やっぱり現実は厳しいのです。
スペシャリストでジェネラリスト(!?)←矛盾していますけど、世の中が求めているのはこんな感じのものかも知れません。
これからもこの状況は、苦しくなりはすれ楽になることはないかも知れません。それでも若人さんたちに「頑張れ」とラットはエールを送りたいと思います。 好きなことを見つけて、そしてチャンスにも恵まれて、それを生かす力が存分に発揮できますように、と。