ラットは今日も、きみのために。

マウスも研究者も頑張っています。
医学研究関連記事の新聞紙面から切り抜き
再生医療、薬理学、生理学、神経科学、創薬

受精卵、自分を栄養に 着床前、マウスで発見=東京医科歯科大学

2008年07月04日 | 発生
 マウスの受精卵が着床するまでの数日間、自分自身のたんぱく質を分解して栄養にしていることを、東京医科歯科大のチームが発見した。魚や鳥と違い、ほとんど養分を持たない哺乳(ほにゅう)類の卵子の生き延び戦略を解明した成果で、体外受精の成功率向上などにつながる可能性もある。3日発行の米科学誌サイエンスに発表した。

 ヒトをはじめ動物や植物の細胞には、飢餓時の栄養分の自給自足や細胞内の浄化のため、自分自身のたんぱく質を分解する「オートファジー」(自食作用)と呼ばれるリサイクル機能がある。出生直後や絶食時などに、全身の細胞で活発化することが知られていた。

 水島昇・東京医科歯科大教授(分子細胞生物学)らは、生きた細胞でオートファジーの様子を観察する新手法を開発。マウスの受精卵を凍結保存しようとした際、偶然、受精直後の卵子でもオートファジーが活発化することを見つけた。

 オートファジーが働かない受精卵は、たんぱく質の合成量が通常の7割程度に落ち、生育できずに着床前に死んだ。哺乳類の卵子にはほとんど栄養分がなく、このリサイクル機能がなければ必要な器官を作る材料がなくなるためと考えられるという。

 水島教授は「今後、オートファジーのような卵細胞内のたんぱく質の代謝機構が不妊に関係しているのかどうかを解明したい。体外受精卵の培養方法の改善などにつながる可能性もある」と話している。【西川拓】

[毎日新聞 2008年07月04日]
http://www.mainichi.jp/select/science/news/20080704k0000m040153000c.html

科学技術振興機構(JST)プレスリリース
 哺乳類胚発生におけるオートファジーの役割を解明
 -マウス受精卵、自身の細胞内たんぱく質を分解して栄養に-
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20080704/index.html

<掲載論文名>
"Autophagy is essential for preimplantation development of mouse embryos"
(マウス胚の着床前発生に、オートファジーは必須である。)




 不妊治療を受けている人は増えているそうです(上記プレスリリースでは約50万人(2002年厚労省の推計データ)、体外受精による出産は全出産の1%以上といわれているそうです)。 子どもに恵まれない夫婦は多額の費用と精神的、肉体的苦痛を覚悟して不妊治療に臨んでいます。
 まだまだ分かっていないことの多い妊娠の仕組みですが、少しずつ解き明かされて、不妊治療の現状が改善されますように。

精子・卵子の誕生にかかわる遺伝子を発見=理化学研究所

2008年06月20日 | 発生
 精子や卵子のもとになる細胞をつくる仕組みを、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの斎藤通紀チームリーダーらが解明、米専門誌に発表した。不妊症の仕組み解明などにつながりそうだ。

 一つの細胞からなる受精卵は、分割を繰り返して成長する。精子や卵子のもとになる「始原生殖細胞」は、受精卵が数百から数千個の細胞に分割された段階で、数個から40個ほどできる。残りの細胞は、神経や筋肉などの体細胞になり、運命が分かれる。

 チームは、生殖細胞の誕生に伴い、約800の遺伝子の働きが変化することをマウスの実験で見つけた。このうち、「Blimp1」という遺伝子が、始原生殖細胞と体細胞が分離するときに、主要な役割を果たすことを発見。

 栗本一基研究員らが詳しく調べると、受精後6日から8日目までの間、Blimp1を発現した細胞だけが、体細胞にならずに生殖細胞になることを突き止めた。この遺伝子が働かない場合は、生殖細胞になるはずの細胞でも体細胞になった。(佐藤久恵)

[朝日新聞 2008年06月20日]
http://www.asahi.com/science/update/0620/OSK200806200010.html

理化学研究所 プレスリリース
 生殖細胞の誕生機構に関与する全遺伝子群の解明
 - 単一細胞レベルの精度を実現したマイクロアレイ法の応用と発展 -
http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2008/080615/index.html
http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2008/080615/detail.html

(図1 マウスの初期発生の模式図
始原生殖細胞を含む点線で囲った部分を切り出し、単一細胞cDNAを調製した。

血管が作られる仕組み 世界初の解明=奈良先端科学技術大学院大学

2008年06月12日 | 発生
 奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科の高橋淑子教授らの研究グループが、ほ乳類など脊椎(せきつい)動物の血管が形づくられる仕組みを世界で初めて解明した。

 最初にできる小さな血管が周辺組織の細胞を取り込んで太い血管がつくられており、その過程で細胞相互の情報のやりとりにかかわる遺伝子が、重要な働きをしていたことが分かった。

 今後、がん転移の仕組みの研究や血管再生の医療にも役立つことが期待されている。

 高橋教授らは、トリの成長初期段階の胚(はい)を使い、体内のもっとも太い血管である背中側の大動脈がつくられる様子を調べた。

 その結果、胚の中で最初にできた小さな血管(原始血管)に隣接して背骨などの元になる体節という組織があり、そこから太い血管の元になる細胞が出て、原始血管に引き寄せられるように取り込まれる。やがて、すべて細胞が入れ替わることがわかった。

 その際、規則正しい血管の構造をつくるための調節役として、「ノッチシグナル」という細胞同士の情報交換システムが活発化していることも突き止めた。

 血管が細胞を誘引するシステムが明らかになったことで、がん転移を抑える創薬開発のほか、つまった血管を他の血管と置き換える再生治療などに結びつくという。

 この成果は、10日付の米科学誌「セルプレス」にオンラインで掲載された。

[msn産経ニュース 2008年06月12日]
http://sankei.jp.msn.com/culture/academic/080613/acd0806132021008-n1.htm

細胞の運命決めるスイッチ、遺伝子発見 再生医療に光=理化学研究所

2008年05月30日 | 発生
 受精卵が成長して神経や皮膚などがつくられる際、もとになる細胞の運命を決めるスイッチの役目を果たしている遺伝子を、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(神戸市)が発見し、30日付の米科学誌セルに発表した。

 人工多能性幹細胞(iPS細胞)や胚性幹細胞(ES細胞)を用いた再生医療に応用できる成果。笹井芳樹グループディレクターは「万能細胞から狙った組織を効率良くつくるのに役立ちそうだ」としている。

 アフリカツメガエルを使って約2万種類の遺伝子を解析。受精卵が細胞分裂すると最初にでき、神経や皮膚に成長する外胚葉と呼ばれる部分で、XFDLという遺伝子が働くのを発見した。XFDLが働かないと正常に発育しなかった。笹井ディレクターは「ES細胞から99%の効率で神経細胞をつくることが可能かもしれない」としている。

[msn産経ニュース 2008年05月30日]
http://sankei.jp.msn.com/culture/academic/080530/acd0805300111000-n1.htm

理化学研究所プレスリリース 
 多能性細胞から外胚葉への分化を決定する遺伝子を解明
 - ES細胞の分化制御に新しいメカニズムを導入 -
http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2008/080530/index.html


ホヤの体作る 遺伝子の働き 全容解明=京都大学

2006年05月29日 | 発生
--脊椎動物の原形--

 海に住むホヤが発生初期に体をつくり上げる際の遺伝子の働きのほぼ全容を、京都大大学院理学研究科の佐藤矩行(のりゆき)教授(発生生物学)らの研究グループが解明し、26日付の米科学誌サイエンスに発表した。ホヤの仲間は脊椎(せきつい)動物の原形といわれ、佐藤教授は「脊椎動物の進化の仕組みを解明する大きな手がかりになる」としている。


 佐藤教授らはこれまでの研究で、ホヤの一種「カタユウレイボヤ」の全遺伝情報(ゲノム)を解読。ホヤの受精卵が8回、細胞分裂した時点でどの部分がそれぞれどんな器官や組織に成長するのか決まっていることは判明していたが、それを制御する遺伝子の働きや結びつきは不明だった。

 佐藤教授らは約2年かけて、この時期に働く76の遺伝子ごとに一つひとつ機能を消失させ、他の遺伝子との結びつきなどを調査。その結果、ある遺伝子では神経をつくる機能をなくすと、別の遺伝子とつながって表皮ができるなど、約3000のパターンがあることを発見した。

[読売新聞(関西版) / 2006年05月29日]
http://osaka.yomiuri.co.jp/eco_news/ec60529b.htm

ホヤの「遺伝子発現ネットワーク」を解明=UCB、京都大学

2006年05月26日 | 発生
動物の体づくりを調節する遺伝子が相互に作用しながら働く仕組みを、米カリフォルニア大バークリー校(UCB)の今井薫研究員、京都大理学研究科の佐藤ゆたか助教授(発生生物学)らの研究チームが脊索(せきさく)動物のホヤの研究で解明した。遺伝子個々の働きを超え、他の複数の遺伝子を働かせたり抑制する「遺伝子発現ネットワーク」の全容が分かったのは世界初。26日付の米科学誌サイエンスで発表する。

 ホヤは受精卵から8回目の分裂までに、大半の細胞がどの器官や組織になるかが決まる。この間、表皮や消化器系、神経系などに分化させる指令を出す調節遺伝子がすべて、過去の研究で判明している。

 今井研究員らは、8回目までの分裂で現れる76の調節遺伝子を1つずつ機能を失わせ、他の調節遺伝子の働きがどう変わるか3年かけて調べた。その結果、ある遺伝子からの信号が、別の遺伝子の働きを活性化させたり抑制したりする約3000通りの経路を明らかにし、そのネットワーク(相関関係)を網羅する図式を作ることに成功した。

 例えばノーダルという成長因子の1つの機能を失わせると、脊髄を作り出す遺伝子8つと血球を作る遺伝子1つが働かなくなる。また、脳になるはずの部位でノーダルの働きを抑える遺伝子を壊すと、ノーダルが働いて脊髄に成長するという。

 指導した同研究科の佐藤矩行教授は「他の生物のネットワークも分かれば、違いを調べることで脊索動物がどのような発生学的仕組みで進化してきたのか理解する重要な1歩になる」と話す。

京都新聞
http://www.kyoto-np.co.jp/article.php?mid=P2006052600020&genre=G1&area=K10

Regulatory Blueprint for a Chordate Embryo
Science 26 May 2006: Vol. 312. no. 5777, pp. 1183 - 1187
DOI: 10.1126/science.1123404
http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/312/5777/1183