これまで人は見えないものに畏怖し、自然の驚異に対し敬意を払って、
地球の生物として分相応に生存してきました。
しかし現代人は見えないものを操り、自然の産物を次々に食い荒らし、
地球の脅威が如き存在に成り下がりました。
見えないものを無理に解明しようとせず、自然界の異端者にあらず、
地球の生き物らしく慎ましくありたいものです。
2013.3.20 福島県飯舘村「大変なことが起こっているよ」
2013年4月5日 投稿者: 管理者
山津見神社の鳥居から険しい参道を750mほど登ると、本殿から豊かな自然に恵まれた美しい飯舘村が一望できた。とあるTV番組が発端で山津見神社が放射 線を食い止めたという噂がたったが、神社の方にうかがうとまったくのガセネタで「あー、それですか」と一笑に付されてしまった。村を神社が守ってくれたな どという美談にでもしたかったのかもしれない。
あいにくの曇り空だったが、映画にでも出てきそうな美しい村に震災以前は6000人の人が暮らしていた。放射能の影響で全村避難を強いられているこの村で、たった1人牧場に残り馬の世話を続けている人がいた。細川徳栄さん、飯舘村で3代続く家畜商だ。
細川さんは会うなり「この国は狂ってる。大変なことが起こってるよ」と切り出すと、挨拶も早々に牧場へと案内してくれた。この数週間で馬がバタバタと倒れ はじめたそうだ。牧場には32頭の馬がいたが、そのうちの4頭はヨロヨロと腰が立たない状態で、一番症状がヒドい白いミニチュアホースは毛並みもボロボ ロ。同行した獣医さんの診察では目に黄疸症状が出ていて、原因は不明だが肝臓をやられているよう。何より膝がガクガクと崩れることを不思議がっていた。細 川さんは「こいつはもう今月もたないと思うんだ。かわいそうに」と言いながら横たわる馬を撫でた。牧場の脇を野生の猪が猛スピードで突っ切っていった。
今年に入って15頭の馬が生まれたものの、14頭は1週間から1ヶ月足らずで亡くなったそうだ。
「小さい頃から馬と暮らしてきたけんども、こんなことは初めてだ。異常だよ。それもこれも放射能だと思うんだ」と細川さんは放射能の影響を強調するが、もちろん科学的な根拠はない。長年、馬と触れ合ってきた感覚だけだ。
これまで避難区域で亡くなっていった牛たちのことは報道でも伝えられていたが、その多くは餌を与える人がいなくなったことでの栄養失調が原因だった。この 牧場の馬たちは十分ではないにしろ、餌は与えられている。症状が出ていない馬たちは決してやせ細ってもなく、食欲もあるように見えた。
後日、保健所による血液検査を行ったところ、結果は伝染病でも栄養失調でもないことが断定された。だが、放射能の影響が懸念される白血病という判断もでなかった。もっと詳しい検査をしないと衰弱の原因はわからないそうだ。
飯舘村を含めた福島原発周辺で動植物の異常が相次いでいるという4人の研修者の調査結果が東京大学で報告された。だが、子どもが甲状腺癌になっても放射能 の影響はないとする現在の基準では、馬の異変を放射能の影響と断定するのは難しいだろう。仮にそうでも影響があるから避難地域なのだと言ってしまえばそれ までだ。この馬たちには、いったい何が起こっているのか。
細川さんは牧場を経営しながら、「花塚ボランテイア活動」の会長を務め、これ までさまざまな機会に馬を提供してきた。東京の神田明神、相馬野馬追など数多くの有名な神事イベントや、水戸黄門、暴れん坊将軍、大河ドラマなどにも主人 公を乗せた細川さんの馬が登場している。各地の小学校や盲人施設でのホースセラピーにも積極的に貢献してきた。
震災後、一度は避難した ものの家族同然の馬や牛たちを見捨てられず、奥さんと娘さんを残して、すぐに村に戻ったそうだ。家畜商の仲間たちに頼まれて、自分の牧場以外の牛や馬まで トラックで助けにいき、以来、まさにたった1人で戦い続けている。馬たちを他の地域に避難させたいと村や東電に訴えてきたが、受け入れ先がないと断られ仕 方なく村に1人残り世話を続け、それどころかこれまで自らの伝手をたどって、なんとか引き取ってもらった87頭の補償に対する賠償請求も「飼育していた証 拠がない」と東電から突っぱねられている。
「本当はもう限界だよ。だけど、今まで先祖代々自分たちを助けてくれた馬たちを置いていけない。処分なんてできるわけもない。俺は馬と一緒にここで死んだっていいんだ」
細川さんは、周りの説得も無視して健康診断もホールボディカウンターの検査も拒否している。その結果がどうあれ、今やるべきことは馬への恩返ししかないのかもしれない。
牧場には1ヶ月ほど前に亡くなった馬の亡骸が、鳥や狐などに食べられ骨と皮だけになったまま放置されていた。
「違法なんだけど馬が死んでいった証拠を東電に見てもらうために残してるんだ。本当は埋葬したいんだけんどもね」
特に症状の重かった白いミニチュアホースは細川さんが言っていた通り、一週間後の3月末に亡くなった。亡くなるとすぐにカラスが目玉をくり抜いていったそうだ。
僕は鬼気迫る細川さんにただただ圧倒され、想像以上にシリアスな状況を前に呆然としてまま押し黙っていた。
「この国は狂ってる。この先も大変なことが起こるよ」
細川さんは、誰に言うともなく、そう何度も何度もつぶやいていた。
4月1日。山津見神社が全焼した。住宅部分からは女性の遺体が見つかった。
【細川さんから皆さんへのお願い】
細川さんは、これまで人に迷惑がかかるからと馬の異常をほとんど他言してきませんでした。ですが、異常がエスカレートしていくなか、お彼岸が過ぎたことを機会に公表することにしたそうです。
ご本人の希望により、細川さんの置かれている状況、名前、住所、電話番号を公表いたします。関心のある方は連絡下さい、とのことです。
特に獣医畜産の関係者や放射能関係の専門家はぜひ細川牧場を訪れて、本格的な調査を検討していただけませんか。細川さんからのお願いです。
細川牧場 細川徳栄さん