猫のひたい

杏子の映画日記
☆基本ネタバレはしません☆

とべない風船

2023-01-20 22:01:23 | 日記
2022年の日本映画「とべない風船」を観に行った。

陽光あふれる瀬戸内海の小さな島。数年前の豪雨災害で妻子を失って
以来、自ら孤立している漁師の憲二(東出昌大)は、疎遠にしていた父
の繁三(小林薫)に会うために来島した凛子(三浦透子)と出会う。凛子
もまた、夢だった教師の仕事で挫折を味わい、進むべき道を失ってい
た。最初はお互いに心を閉ざしていた2人だったが、温かくてお節介
な島の人々に見守られ、少しずつ打ち解けていく。

傷ついた心の癒しと再生を描いた人間ドラマ。瀬戸内海の島で漁師を
している憲二は、数年前の豪雨災害の時、妻が「お父さんが心配だか
ら様子を見に行く」と言って息子と一緒に車で出かけ、そのまま2人
とも死んでしまったことをずっと後悔していた。自分が止めていれば、
という思いに苛まれていたのだ。それ以来無口で自ら孤立した存在に
なっていた。島には昔教師をしていたため皆から「先生」と呼ばれて
いる繁三がおり、その娘の凛子がやってきた。
その日憲二は繁三の家へ行き、黙って魚が入ったビニール袋を差し出
す。繁三は礼を言い、憲二は黙って去っていく。凛子は「この辺りで
はあんな風に勝手に人の家に入るのが普通なの?」と驚く。凛子は父
と同じく教師をしていたが、生徒の親とのトラブルでうつ状態になり、
退職していた。その後派遣の仕事をしていたが契約が切れ、繁三に会
いに来たのだった。仏壇には母の写真がある。今でも教職に復帰しな
いかという誘いの電話があり、凛子は迷っていた。
特に重大な出来事はないのだが(なくもないが)、淡々と物語は進んで
いく。凛子は初め憲二のことを怖いと思っていたが、繁三から妻子を
亡くしたことを聞いたり、何度か接したりするうちにささやかな交流
が生まれる。憲二は妻の父から「2人も殺したくせに」などと言われ
て嫌われているが、義父もまた辛かったのだろう。すっかり不愛想に
なった憲二を漁師仲間や島の人々は見捨てはしない。憲二は何故か子
供たちからもなつかれており、「憲二」と呼び捨てにされている。あ
の無口で不愛想な憲二に子供たちがなついているのは不思議でおもし
ろい。
無精ひげを生やして髪もボサボサの東出昌大の佇まいがいい。一生立
ち直ることはできないであろう悲しみを抱えた孤独な男をよく体現し
ていると思った。母を亡くし、教師の夢も破れて道をさまよっている
凛子と憲二の、家族でもなく恋人同士でもない交流がいい。これで恋
愛関係になったら安易すぎるので、そうならなくて良かったと思った。
凛子役の三浦透子は「ドライブ・マイ・カー」で一躍有名になった人
だが、あのブスッとした表情は素なのだろうか。「ドライブ・マイ・
カー」の時はそういう役だったが、どうも素のようだ。ラストシーン
の東出昌大の横顔が良かった。




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コメント (2)
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