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ホクロ-癌の発生

2006-09-26 | 癌の経路・因子
20年以上前から疑われてはいたものの決定的な知見がなかったホクロについての新たな発見が科学者らを驚かせている。

ホクロは、色素細胞の腫瘍であり、増殖をストップした初期の癌である。しかも2度と分裂しない。ホクロは良性で無害であるが、その発生は癌と同じで変異した遺伝子が細胞を無秩序に増殖させることから始まる。そのようなことが、外側の皮膚だけでなく体内でも起こっていると考えてよい。矮小の腫瘍が癌になるべく成長していく途上で、突然増殖を止めてしまう。腫瘍は小さすぎて、色素を持たないため誰にも気付かれないし、誰も探そうともしない。しかし、「ホクロは本当は腫瘍である。」
このぎょっとするような発見は、体内でこのメカニズムが何度も何度もわれわれを癌から守ってくれていることを示唆している。これが癌を阻止する唯一の方法ではないにしろ、かなり効果の高い方法である。それはホクロからメラノーマに発展する割合は非常に低いことからも推察される。

なぜ、どうしてこのプロセスが起こるかは1982年に最初のヒト癌遺伝子RASが発見されたときにさかのぼる。その後見つかった多くの癌遺伝子と同様、このRASも、もとは正常細胞でありながら遺伝子変異のため正常機能を失い、健全な細胞の染色体をかく乱して制御不能な増殖をする癌細胞へと変えていく。その後わかったことには、RASはすべてタイプの細胞を癌化させるのでなく、不死化細胞と呼ばれる細胞だけに作用すると思われる。不死化細胞は遺伝子変異により無限に分裂できる細胞である。1988年発表の論文によると、RAS遺伝子は不死化細胞以外の細胞では、癌を発生しないだけでなく、分裂をいっせいに止めてしまうという。したがって細胞は生きたまま残る。
この説は「癌は無限に増殖する」という前提に反するものであった。
その後、癌は増殖を始めると、それ自体で成長を止める遺伝子をも活性化するということが発見された。癌遺伝子誘発性細胞老化と名づけられた。細胞には増殖不能にする合図を送るセンサーが備わっており、それが働くと2度と分裂することがなくなる。

今回の新たな発見によると、ホクロの細胞は癌遺伝子BRAFをもち、分裂を促進するが、BRAF遺伝子はその後別の遺伝子P16を活性化し、永久に分裂を止める。P53遺伝子(癌抑制遺伝子)を欠損させたゼブラフィッシュにBRAF遺伝子を加えホクロを発生させたところ、BRAFは細胞分裂のブレーキをかけることができずホクロは即座に致死的なメラノーマに変貌していった。

同じことが、摘出された早期前立腺癌の前立腺でもみられた。しかも、ホクロと分子的に同じで、老化細胞で構成されている腫瘍もみられた。研究者らは、なぜそれらの老化細胞が分裂を止めたのかはホクロのメカニズムと同じであることをつきとめた。はじめに細胞は正常細胞PTENを失う(前立腺癌では欠如していることが多い。PTENは癌化の原因となる変異した遺伝子をやっつける。またPTENがないと細胞は異常に増殖する。)が、その後、細胞はP53遺伝子を活性化させて永久に分裂を防ぐ。「われわれは、癌をホクロ様の状態に戻せる治療法を見つけたい。」
ニューヨークタイムズ2006/9より抜粋


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