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非浸潤性乳管癌(DCIS)の治療-難題に専門家が挑む

2009-10-14 | 乳癌
 今日の腫瘍学で議論されている関心事の1つが、非浸潤性乳管癌(DCIS)の治療法である。DCISは、乳房で高頻度にみられる前癌病変であり、乳癌の診断全体の20%以上を占めている。現在の治療法により、DCIS患者のほぼ100%が長期の無病生存を得ている。米国国立癌研究所(NIC)および米国国立衛生研究所(NIH)のOffice of Medical Applications of Researchは、2週間前に最新の科学情報に関する会議「非浸潤性乳管癌の診断と管理(Diagnosis and Management of Ductal Carcinoma In Situ)」を開催し、研究者、臨床医、支援者および政策立案者を集めてDCISに関する重要な課題を検討した。
(略)
本会議で活発に行われた議論のおそらく大半が、この乳房の状態をDCIS以外の名称で呼ぶべきかどうかについてであった。その理由は、医療関係者は、患者に診断内容を説明し、情報に基づく治療選択を行うよう患者に対する指導を行うが、乳癌に対する恐れや悪いイメージが、こうした努力を台無しにする恐れがあるためである。DCISは、浸潤性乳癌(IBC)に比べて治癒率が大幅に高く、治療後の予後も非常に良好であるにもかかわらず、DCIS患者の女性は、浸潤性病変と診断された女性と同じように精神症状(不安や心配など)を経験する。

委員会は、「DCISという用語から、不安の原因となる「癌」という言葉を取り除くことを積極的に検討する必要があります」と結論を述べている。ただし、Allegra氏は、実際に専門用語を変更するのは自分たちの役割ではなく、この問題に取り組むために重要な支えとなるのは病理学者であるという考えを強調した。

DCISに関するジレンマの原因の中心となるのが、マンモグラフィー検診であり、1970年代には、癌の診断にDCISが占める割合は5%未満であった。マンモグラフィーや磁気共鳴画像(MRI)の使用により、今日では検出される疾患が以前に比べて大幅に増加し、DCIS罹患率は急激に上昇しつつある。

DCISの自然史はあまり理解されていないが、低グレードの疾患であれば40年以上進行しないことがある、とワシントン大学医学部(セントルイス)の乳癌病理部門長であるDr. D. Craig Allred氏は述べた。しかし、治療を行わなければ、「DCISの約35%が、30年以内にIBCに進行することを示唆する研究もいくつかあり、実際にIBCに進行するDCISの発生率は、これよりも高いと考える理由も確かにあるのです」とも話している。
続き→NCIキャンサーブレティン全文訳
参考:同号ハイライト


4 コメント

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Unknown (ちゃしば)
2009-10-17 14:45:14
DCISについてはJ Clin Oncolに下記論文も出ていましたね。

Hughes LL, Wang M, Page DL, et al. Local Excision Alone Without Irradiation for Ductal Carcinoma In Situ of the Breast: A Trial of the Eastern Cooperative Oncology Group. J Clin Oncol. 2009 Oct 13. [Epub ahead of print]

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19826126

DCISのなかでリスク分けされてゆくのでしょうか?でも、乳癌自体が多中心性に癌や前癌状態が存在することを示した試験結果もあります。慎重に経過を追うとすれば、どの段階で浸潤癌への移行の可能性を判断するのか、まだまだ議論は尽きない世界だと思います。
あと、この議論をするにあたっては、私の個人的な見解ですけど、ぜひとも比較的若年の女性研究者が中心となって標準的な対処法を考えてほしいと思います。再発して乳房切除となっても生存率としては変わらないからいいではないか?と心の底で思っている研究者が主導して欲しくはないと思います。(再度、個人的な見解です)
ありがとうございます (希)
2009-10-17 19:58:18
侵襲的になるがんかどうかは、現在見分ける方法がないのですよね。発見されればやはり治療となる可能性が高いですよね。

ちなみにこんなのも出ました。
http://www.cancerit.jp/xoops/modules/cancer_reference/index.php?page=article&storyid=760

お示しの論文は、放射線を省くべきではない、ということでしょうか。

「1970年代には5%未満」ですから、乳癌が増えるわけですね。ジレンマです。
消化器を手本に (ku_md_phd)
2009-10-18 20:11:30
1)非侵襲的で進行しない癌に対して:合併症が極めて少なく、安い治療法を開発する事で解決できる。
2)「癌」という言葉に対する恐怖感に対して:名称を変えればますます偏見を生む。30年以上にも及ぶ膨大なデータから導き出された正しい「早期癌」の概念の確立によって、消化器癌では患者の偏見はほとんどないと言える。早期癌の知識の普及は、製薬会社が儲からないのでどうしても遅れがち。しかし、儲からない分野ほど熱意を持ってあたる日本のような姿勢をアメリカにも学んでほしいと思う。
消化器癌は少し違うのでしょうね (希)
2009-10-19 18:38:00
90%が検診での発見で予防できるかもしれないともされるのですよね。発見する方法も内視鏡だったり、ポリープから発生することなども、他の癌とは少し違う気がします。
「早期がん」の概念は日本で確立されたもののことでしょうか。結構賛否がある?
いつも深いくぅ先生のこと、さらに掘り下げたご見識がおありなのだと思います。

>名称を変えればますます偏見を生む

確かに紛らわしい~

どの検査にせよ、なにより、どの医師にどのような検診を受けるかが最重要な気がしています。

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