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日米豪印クアッドはワクチン外交で中国に反転攻勢へ
2021年3月16日(火)17時30分
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/03/post-95842.php
マイケル・グリーン(戦略国際問題研究所〔CSIS〕上級副所長)
<途上国へのワクチン提供は中国との競争力争いでは目覚ましい成果だが、バイデン政権の次の一手は難しい>
3月12日、史上初めて日米豪印4カ国の首脳協議がテレビ会議形式で開かれた。
バイデン米大統領の呼び掛けにより、日本の菅首相、インドのモディ首相、オーストラリアのモリソン首相が参加した。このインド太平洋地域4カ国の枠組み(通称「クアッド」)は、2006年に日本の安倍首相(当時)が提唱したが、その後立ち消えていた。
今回の首脳協議では、この枠組みのもともとの主眼だった海洋安全保障の問題に加えて、新型コロナウイルス対策でも大々的な計画が打ち出された。4カ国が協力して、インド太平洋地域の途上国に10億回分のワクチンを提供すると約束したのだ。
ワクチンに関しては、これまで中国が積極的な「ワクチン外交」を展開していた。今回の4カ国の計画は、ワクチンをめぐる中国との影響力争いを逆転させる可能性の高い目覚ましい成果と言える。
アメリカのTPP復帰は実現しなさそう
アジアにおけるアメリカの同盟国の大半は、アメリカが地域の貿易とルール作りで再び主導的な役割を担うことを望んでいる。しかし、少なくとも差し当たり、それが実現することはない。バイデン政権は、国内の一部の反対を押し切ってTPP(環太平洋経済連携協定)に復帰するために、限りある政治的資源を費やすつもりはなさそうだ。
アメリカが国防支出を増やし、アジアで米軍のプレゼンスを増やせば、中国を牽制できるが、こちらも容易でない。与党である民主党は、この点でまだ意見が割れている。
一方、東南アジア諸国は日米豪印4カ国に対して、いま最も切実に必要としているものが何かを伝えていた。それはコロナ対策支援だ。その意味で、今回の首脳協議でワクチン支援が打ち出されたのは必然だったと言えるだろう。
しかし、バイデンにとって次の行動は難しい。
この地域には、アメリカ抜きの貿易協定が2つ存在している。RCEP(東アジア地域包括的経済連携)とCPTPP(包括的かつ先進的TPP協定)だ。CPTPPは、トランプ前政権がTPPから離脱した後、残りの11カ国が結んだ協定である。中国は既にRCEPのメンバーで、習近平(シー・チンピン)国家主席はCPTPP加盟を目指す意向も示している。
このような状況で、バイデン政権はTPP復帰の意思を明確に示すべきだ。そうしなければ、この地域の国々は中国の圧力に押しつぶされたり、巨大な中国経済に吸い寄せられたりしかねない。
日米豪印は、共同歩調を取る国を増やす方法も考える必要がある。最も有力なのは、イギリス、フランス、カナダ、韓国と合同海上軍事演習を行うというものだろう。
しかし、バイデン政権は今回、米政府の信頼性が低下し、選択肢も限られているなかで、手持ちのカードで最大限の効果を引き出したと言える。
19世紀半ば、米海軍のペリー提督は、やがて英米、そしてもしかすると日本の海軍により太平洋の秩序が守られる時代が来ると語り、人々を驚かせた。豪印の海軍を英海軍の後継者と考えれば、この予言が当たったことになる。
しかし、いま天国のペリーは、自分の予想どおりになったことにほほ笑みつつも、中国海軍の台頭に表情を曇らせていることだろう。
4カ国首脳協議は目覚ましい成果を上げた。バイデン政権がアジアの戦略的状況をリセットすることを本気で目指すのなら、東南アジア諸国へのワクチン支援だけで満足してはならないが。
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日米豪印クアッドはワクチン外交で中国に反転攻勢へ
2021年3月16日(火)17時30分
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/03/post-95842.php
マイケル・グリーン(戦略国際問題研究所〔CSIS〕上級副所長)
<途上国へのワクチン提供は中国との競争力争いでは目覚ましい成果だが、バイデン政権の次の一手は難しい>
3月12日、史上初めて日米豪印4カ国の首脳協議がテレビ会議形式で開かれた。
バイデン米大統領の呼び掛けにより、日本の菅首相、インドのモディ首相、オーストラリアのモリソン首相が参加した。このインド太平洋地域4カ国の枠組み(通称「クアッド」)は、2006年に日本の安倍首相(当時)が提唱したが、その後立ち消えていた。
今回の首脳協議では、この枠組みのもともとの主眼だった海洋安全保障の問題に加えて、新型コロナウイルス対策でも大々的な計画が打ち出された。4カ国が協力して、インド太平洋地域の途上国に10億回分のワクチンを提供すると約束したのだ。
ワクチンに関しては、これまで中国が積極的な「ワクチン外交」を展開していた。今回の4カ国の計画は、ワクチンをめぐる中国との影響力争いを逆転させる可能性の高い目覚ましい成果と言える。
アメリカのTPP復帰は実現しなさそう
アジアにおけるアメリカの同盟国の大半は、アメリカが地域の貿易とルール作りで再び主導的な役割を担うことを望んでいる。しかし、少なくとも差し当たり、それが実現することはない。バイデン政権は、国内の一部の反対を押し切ってTPP(環太平洋経済連携協定)に復帰するために、限りある政治的資源を費やすつもりはなさそうだ。
アメリカが国防支出を増やし、アジアで米軍のプレゼンスを増やせば、中国を牽制できるが、こちらも容易でない。与党である民主党は、この点でまだ意見が割れている。
一方、東南アジア諸国は日米豪印4カ国に対して、いま最も切実に必要としているものが何かを伝えていた。それはコロナ対策支援だ。その意味で、今回の首脳協議でワクチン支援が打ち出されたのは必然だったと言えるだろう。
しかし、バイデンにとって次の行動は難しい。
この地域には、アメリカ抜きの貿易協定が2つ存在している。RCEP(東アジア地域包括的経済連携)とCPTPP(包括的かつ先進的TPP協定)だ。CPTPPは、トランプ前政権がTPPから離脱した後、残りの11カ国が結んだ協定である。中国は既にRCEPのメンバーで、習近平(シー・チンピン)国家主席はCPTPP加盟を目指す意向も示している。
このような状況で、バイデン政権はTPP復帰の意思を明確に示すべきだ。そうしなければ、この地域の国々は中国の圧力に押しつぶされたり、巨大な中国経済に吸い寄せられたりしかねない。
日米豪印は、共同歩調を取る国を増やす方法も考える必要がある。最も有力なのは、イギリス、フランス、カナダ、韓国と合同海上軍事演習を行うというものだろう。
しかし、バイデン政権は今回、米政府の信頼性が低下し、選択肢も限られているなかで、手持ちのカードで最大限の効果を引き出したと言える。
19世紀半ば、米海軍のペリー提督は、やがて英米、そしてもしかすると日本の海軍により太平洋の秩序が守られる時代が来ると語り、人々を驚かせた。豪印の海軍を英海軍の後継者と考えれば、この予言が当たったことになる。
しかし、いま天国のペリーは、自分の予想どおりになったことにほほ笑みつつも、中国海軍の台頭に表情を曇らせていることだろう。
4カ国首脳協議は目覚ましい成果を上げた。バイデン政権がアジアの戦略的状況をリセットすることを本気で目指すのなら、東南アジア諸国へのワクチン支援だけで満足してはならないが。
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